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図書館へ行こう! 第12回

図書館へ行こう!

2021年10月11日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第12回 クジラが空を飛ぶ図書館
—— アキシマエンシス(東京都)

これまで津々浦々の図書館を訪れてきたが、「空飛ぶクジラ」にお迎えされたのは初めてだった。東京都昭島市にある「アキシマエンシス」。2020年6月にオープンした複合施設で、市民図書館などさまざまな公共施設が集約されている。
市民図書館のある建物のエントランスには、昭島市で発見されたクジラの化石の原寸大レプリカが頭上に展示されていた。約200万年前、このあたりが海だった頃に泳いでいたクジラで、地元では「アキシマクジラ」と呼ばれて親しまれている。
クジラが空を飛ぶ図書館、アキシマエンシスとはどのような場所なのか。探検に出発するようなワクワクする気持ちで、クジラの下をくぐってアキシマエンシスに入った。

画像、クジラの原寸大レプリカ

木の温かみが伝わる「子ども図書館」

「アキシマクジラの化石は、1961年に市内の多摩川河川敷で発見されました。2018年に新種のクジラとして認められています」
そう説明するのは、アキシマエンシスの立ち上げに関わってきた市教育委員会生涯学習部市民図書館管理課の磯村義人課長だ。アキシマクジラの学名は「エスクリクティウス アキシマエンシス」といい、施設名の由来ともなっている。

アキシマエンシスは大きく四つのゾーンに分かれている。その一つが、クジラが空を飛ぶ建物の「国際交流教養文化棟」。市民図書館のほかに、郷土資料室、市民ギャラリー、ライブラリーカフェなどが設置されている。

アキシマエンシスの中核となる市民図書館は、1階と2階。まず、1階のフロアを象徴するのが円形の「交流ひろば」で、ここを中心に本棚が環状に配置されている。普段は読書スペースとして使われるが、市民が交流するためのイベントなども開かれる場だ。
また、1階でもう一つ特徴的なのが、「子ども図書館 岩泉の森」と呼ばれるコーナー。ここには絵本や児童書など約5万冊が揃い、一般カウンターと並んで、子ども図書館専用のカウンターも設置されるなど、「子ども目線」での図書館づくりがされている。
昭島市の友好都市である岩手県岩泉町産の木材が、書架やベンチ、テーブルにふんだんに使用され、温かみのある空間が印象的だった。岩泉町の工房の人たちによる手作りの木製玩具も並び、未就学児や小学生の子どもたちがのびのびと過ごしていた。

画像、環状に並ぶ書架
環状に並ぶ書架
画像、子ども図書館専用カウンター
子ども図書館専用カウンター
 
 

中高生たちの「隠れ家」

アキシマエンシスを訪問したのは週末だったこともあり、子どもたちの姿が目立った。
実際、磯村課長によると、「アキシマエンシスがオープンしてから、特に中高生の利用が増えました」とのこと。その人気の秘密は、2階フロアの隅にある「ティーンズコーナー」と「ティーンズ学習室」という。
ティーンズコーナーには主に中高生向けの図書資料が揃えられ、やはり岩泉町産の木材を使った大きなテーブルや椅子があった。
隣接するティーンズ学習室には小さな部屋が2室あり、中高生のグループが一緒に課題に取り組めるようテーブルが置かれている。学習室はガラス張りのドアで、明るい日差しが室内に入る。きれいなオフィスのミーティングルームのようで、従来の図書館の学習室のイメージとはかけ離れていた。
「土日になると、ティーンズ学習室の席はほぼ埋まりますね」と磯村課長。ちょっと奥まった場所にあり、隠れ家のような雰囲気も子どもたちが集まる理由のようだ。

これ以外にも、2階フロアにはさまざまなタイプの閲覧席が用意されている。集中できるように一人用ブースとなっている「研究個室」や、コンセント付きでPCやタブレット端末が使用できる席、より静かな環境で読書ができる「静寂読書室」という部屋などだ。
また、通常の「グループ学習室」もあり、訪れたときには小学生のグループが勉強していた。この子たちがいずれ中学生になったら、ティーンズ学習室に行くようになるのだろうか。大学生になったら、「研究個室」で卒論を書いたり……。そんな楽しい未来を想像できる図書館だった。

画像、ティーンズ学習室
ティーンズ学習室
画像、静寂読書室
静寂読書室
 
 

「中間テストや期末テストのシーズン、それから受験前シーズンは予約のできる席も自由席も、中高生でほぼ埋まります。アキシマエンシスでは、中高生の方たちが本当に熱心に勉強している姿が見受けられ、多彩な学習環境が求められていたのだなと思いました」
そう話すのは、市民図書館の小田龍文館長だ。
もちろん、子どもたちに図書館へ足を向けてもらえるよう、昭島市でもさまざまな工夫をしている。「昭島市では、小学1年生全員に図書館の貸出カードを作っています。その後の利用率も高いです」(小田館長)。その効果があってか、昭島市の子どもの読書率は、東京都の平均よりも高い水準にある。
また、アキシマエンシスはオープン時から「読書の記録帳」を導入している。子どもが読んだ本のタイトルなどを記録できる通帳で、「本」が記帳されていくのを楽しみに来館する小さな子どもも多いという。
「読書の記録帳がそのお子さんの成長記録にもなっています。そうやって、子どもたちが本を読む習慣をアキシマエンシスで育むことができればと思っています」

「学びの回遊」を目ざす

市民図書館で本を読み、知識を得るという体験に加え、アキシマエンシスでは「学びの回遊」というコンセプトのもと、各施設の連携も目ざしている。

たとえば、国際交流教養文化棟の1階の「郷土資料室」では、エントランスで泳いでいるアキシマクジラについて知ることができる。
アキシマクジラが生きている時はどのように泳いでいたのか、どうやって化石になって発見されたのか。その一生を再現した映像が巨大スクリーンで上映されている。また、アキシマクジラと同じ時代の昭島市の古環境も再現展示している。

隣接する市民図書館には、アキシマクジラやその時代についての本が揃う。図書館でアキシマクジラについて調べてから、郷土資料室で展示を見たり、郷土資料室で展示を見てから、図書館で調べたり。今後、連携を深めていきたいという。
小田館長も、「アキシマエンシスは複合施設ならではの方法で、市民の方々の課題を解決したり、新たな交流を生み出せたりする場にしていきたいと思っています」と話す。

アキシマエンシスはオープンから新型コロナウィルスの感染拡大と時期が重なり、大規模なイベントやPRを自粛してきた。しかし、そんな中でも市民図書館は子どもたちの成長を見守っている。空飛ぶクジラとともに。

本連載は、今回が最終回です。ご愛読まことにありがとうございました。

アキシマエンシス(昭島市教育福祉総合センター)

東京都昭島市つつじが丘3-3-15
TEL:042-543-1523 FAX:042-542-8002

※開館日、開館時間については、HPをご確認ください。

Photo: アキシマエンシス

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