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図書館へ行こう! 第10回

図書館へ行こう!

2020年8月27日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第10回 「学校を休んで図書館へいらっしゃい」
子どもたちに寄り添い続ける
鎌倉市図書館(神奈川県)

古都、鎌倉。JR鎌倉駅西口から少し歩くと、立派な門が見えてくる。この門はもともと、明治天皇の皇女のために造営された「鎌倉御用邸」の正門で、昭和30年に建て替えられた。
ひときわ目を引くのが大きな看板で、「鎌倉市立御成小学校」と書かれた文字は、高浜虚子の筆だそう。それだけでも、鎌倉の歴史と文化の厚みを感じることができる。

お目当ての鎌倉市中央図書館は、この旧鎌倉御用邸の跡地にあった。静かなたたずまいの図書館で、鎌倉の歴史資料を厚く収集・保存していることでも知られ、全国からのレファレンスも多い。
一方、一般に広くその名前が知れ渡ったのは、2015年8月に鎌倉市図書館の公式ツイッターから発信されたこのメッセージだろう。

画像、鎌倉市図書館ツイッター画面

夏休みが終わろうかというときに、「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」とツイート、子どもの気持ちに寄り添ったツイートは多くの人に共感が広がった。現在ではおよそ10万RTとなっている。
鎌倉の歴史や文化の拠点でもあり、未来を担う子どもにも寄り添う図書館。そこでは一体、どのような図書館活動が行われているのか。あのツイートから5年目の夏に訪ねてみた。

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言にともない、全国の図書館の9割は一時休館を余儀なくされた。鎌倉市も例外ではなかった。市内には中央図書館のほか、地域館4館を合わせ5つの図書館があるが、今年2月末から各種のサービスを制限してきた。利用者が閲覧室を利用できるようになったのは、7月に入ってからだ。

今、どのようなサービスが利用できるのか。中央図書館のエントランス近くに、利用者に対する連絡がこまごまと掲示してあった。そこで、「鎌倉市図書館らしい」と思ったのが、猫がお辞儀をしている手描きの張り紙だ。
「いろいろお願いしてごめんなさい! 注文の多い図書館」というメッセージが添えられていた。感染拡大にともない利用者も緊張している中、宮沢賢治の名作をもじったユーモアにほっと一息つくことができた。

画像、鎌倉市図書館掲示物

また、「鎌倉市図書館では、児童サービスや学校図書館支援は長い間、大きい柱としてやってきました」と話すのは、館長補佐の浅見佳子さん。「かまくら読書活動支援センター」の窓口を設け、子どもの読書を支えてきた。
中央図書館でも、児童書のフロアはさまざまな工夫がされていた。「からだといのちの図書コーナー」が設けられ、「こどものけんり」や「しょうがいとこども」「おんなのこってなあに おとこのこってなあに」など、人生において大事なテーマごとに、子どもにも簡単に読める本ずらりと並ぶ。

画像、からだといのちの図書コーナー
からだといのちの図書コーナー

「やさしくよめる LLブック」のコーナーも併設。LLブックとは、さまざまな障害などから、活字図書の利用が難しい子どもでも読めるよう、絵や写真、簡単な言葉で構成された本のこと。近年、図書館の蔵書にも増えてきているが、鎌倉市図書館でも初期から配架してきたという。
他にも、児童書のフロアの一角に鎮座するのは、鎌倉市在住の漫画家、安野モヨコさんの作品「オチビサン」のキャラクターの人形とベンチ。これは、シャンプーなどの詰め替え用パックをリサイクルしたブロックで作ったもので、市内の小中学校の協力で制作されたという。子どもたちがお気に入りの場所だ。

画像、やさしくよめる LLブックコーナー
やさしくよめる LLブックコーナー
画像、市内の小中学校の協力で制作された作品
市内の小中学校の協力で制作された作品

浅見さんによると、学校図書館に対しても働きかけを行なってきたという。「まず、図書室を開いてもらうところから初めて、何年も何十年もかけて、今では市内の小学校全校に学校図書館専門員が配置されるようになりました。鎌倉市図書館ではそうした専門員を対象に研修も行なっています」。

お話ボランティアの育成にも力を入れてきた。養成講座を修了したボランティアに対して、実際に活躍できる場を提供。活動を続けるうえでの悩みや問題の解消も手助けしている。「普通は、こうした養成講座があっても1回やってもうそれっきりの場合がありますが、鎌倉市図書館ではボランティアの方たちと意識を共有しながら、継続してつながっています」。
地道だが、コツコツと図書館がすべきことを積み重ねてきた鎌倉市図書館。あの一躍有名となったツイートは、そうした活動の裏打ちがあってこそだとわかる。

館内の児童コーナーの片隅には、こんな案内も貼ってあった。
「つらいことに、ひとりで悩んでいませんか? 自分の思っていることを話してみると、考えていることが整理できて、心が軽くなることがあります。みなさんの悩みなどのひみつは守ります」。

案内には、24時間365日対応してくれる神奈川県の相談窓口や、いじめ相談窓口などが書いてあった。折しも、もうすぐ2学期が始まる。大人でさえ不安になることが多い今の社会。子どもたちにはより一層、鎌倉市図書館のような温かな視線が必要になっているのではないだろうか。

鎌倉市中央図書館

鎌倉市御成町20-35 TEL:0467-25-2611
【開館時間】
火・水・土・日・祝日 午前9時30分~午後6時
平日の木・金曜日 午前9時30分~午後7時

※詳しくはHPにてご確認ください。

Photo: 鎌倉市中央図書館

次回は、軽井沢風越学園のライブラリーを紹介します。

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