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図書館へ行こう! 第9回

図書館へ行こう!

2019年12月20日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第9回 重要文化財が図書館に! 
――甘草屋敷子ども図書館(山梨県)

「子どもの本のテーマパークみたいな図書館なんです」。
この夏、そんなメッセージが突然、届いた。差出人は、この連載の第4回にも登場する、学芸大学附属小金井小学校の学校図書館司書だった中山美由紀さん。いうなれば、子どもと図書館のプロである。
そのプロが「展示のクオリティが素晴らしい」と手放しでほめる図書館は、山梨県にある「甘草屋敷(かんぞうやしき)子ども図書館」。甲州市立塩山図書館の分館にあたる。

画像、甘草屋敷子ども図書館の館内
甘草屋敷子ども図書館の館内

この図書館を訪れたばかりという中山さんは、現地の写真も次々と送ってきてくれた。古そうな民家のような建物に、絵本や児童書が並んでいる。ちょうど、夏の時期に行われていた特集展示は、子どもなら絶対に大好きな妖怪やおばけのようだった。
妖怪やおばけに関する「くじ」や「パズル」、自分もおばけになりきれてしまう「変身コーナー」もある。どの写真からも、楽しげな様子が伝わってきた。これらすべてが職員の方たちの手作りという。中山さんが「ワクワクします」と興奮するのも無理はない。
後から聞いたところ、この特集展示では、妖怪やおばけに関する本120冊をただ並べるだけでなく、「怖さ」のレベルを三つに分け、子どもたちに紹介していたそうだ。どこまでも、子ども目線を大切にしていることがうかがえる。

私もぜひ一度、訪れてみたいと思い、さっそく中山さんにご紹介いただいた。すると、図書館から、秋に「パークライブラリー」というイベントを開くので、いらしてくださいというお誘いがあった。聞けば、図書館に隣接する庭にハンモックやテントを出して、そこで本が読めるという。
二つ返事で約束をして、11月にやっと甘草屋敷子ども図書館を訪れることができた。JR塩山駅を降りて1、2分も歩けば、すぐに大きなお屋敷が見えてくる。

画像、甘草屋敷子ども図書館
「パークライブラリー」開催中の図書館の様子。
庭に設置されたハンモックで、読書を楽しむことができる。

このお屋敷は重要文化財に指定されている「甘草屋敷」と呼ばれる旧高野家住宅。19世紀の初めに建築されたと考えられる建物で、甲州市が平成6年から「薬草の花咲く歴史の公園」として整備を行い、再生された。
「甘草」は甘味料や調味料として使われる一方、薬の原料としても重宝されてきた。高野家では江戸時代に甘草の栽培を手がけ、幕府に納めてきたという。

「お屋敷の敷地にある『文庫蔵(ぶんこぐら)』という建物が、今はこの甘草屋敷子ども図書館になっています」と教えてくださったのは、甲州市の図書館担当リーダー、古屋淑絵さん。この図書館が平成14年に開館した当時、立ち上げに関わった。
図書館は、蔵に平屋の畳部屋と二階屋の建物が取り付いている。靴を脱いで上がると、田舎の祖父母の家に来たような気持ちになる。決して予算は潤沢とはいえないが、地元のボランティアの人たちとともに、甲州市の図書館職員が大切に運営してきた図書館だ。

職員の人たちも楽しみにしていたという「パークライブラリー」では、テントやハンモックがお屋敷の庭に用意され、小さな子どもたちがたくさん、絵本を読んだり、のんびり遊んだりする姿がほほえましかった。庭には柿の木がたくさんあり、ちょうどだいだい色の実がたわわに実っていた。これから干し柿のシーズンになるそうだ。
館内では、「お宇宙(そら)のうえにはなにがある?」という宇宙をテーマにした特集展示が行われていた。宇宙に関する本を紹介するとともに、職員の人たちが手作りしたクイズや変装グッズ、入って遊べるロケットなどがあり、こちらも子どもたちに大人気だった。
こうした特集展示は年に3、4回開かれているといい、最初に私が写真で見た妖怪やおばけをテーマにした「おばけの蔵」もその一つだった。

画像、特集展示「おばけの蔵」
特集展示「おばけの蔵」
画像、特集展示「おそらのうえにはなにがある?」
特集展示「お宇宙(そら)のうえにはなにがある?」

「親子でリピートされる方も多いです」という古屋さん。近年、財政難のために、老朽化したいくつかの図書館を統廃合し、最新設備を整えた巨大な中央図書館を設置する自治体が目立つ。地域の人たちに愛されてきた小規模の分館図書館は消えていくことが少なくない中、甘草屋敷子ども図書館のような存在は本当にほっとさせられる。今の子どもたちも、昔に子どもだった人たちにも優しい図書館として、いつまでも続いてほしいと心から願っている。

塩山図書館分館 甘草屋敷子ども図書館

山梨県甲州市塩山上於曽1651-7 TEL:0553-33-5926
【開館時間】一般図書室 9:30~16:00
【休館日】毎週火曜日(詳しくはHPにてご確認ください)

Photo: 甘草屋敷子ども図書館

次回は、鎌倉市図書館(神奈川県)を紹介します。

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