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書写の用具研究 第5回

書写の用具研究

2017年10月2日 更新

編集部 光村図書出版

書写の用具を一つ取り上げ、書写用具店の方にお話を伺うコーナーです。

第5回 教えて! 硯のこと

硯(すずり)の工房をもつ書道用具店・宝研堂(東京都台東区)へお邪魔し、4代目の青柳貴史さんにお話を伺いました。

中学生の男の子と女の子のイラスト

1. 硯の種類

学校で使っている硯は長方形のものですが、お店にはいろいろな形の硯がありますね。
 

硯の形を「硯式(けんしき)」といい、長方形のものを長方硯(ちょうほうけん)、自然の石の形を生かしたものを天然硯(てんねんけん)と呼びます。
それ以外にもさまざまな硯式がありますが、書写の時間に使うような実用硯(鑑賞用でなく実用的な硯)の硯式は、大体、長方硯と天然硯だといってよいでしょう。

画像、宝研堂の店内
さまざまな種類の硯が並ぶ店内。

硯に使われている石は、どこで採れるのでしょうか。
 

中国と日本です。中国の石で作られた硯を唐硯(とうけん)といい、日本の石で作られた硯を和硯(わけん)といいます。
唐硯については、すごく種類が多いんです。その中で、中国の二大名硯(にだいめいけん)と言われるのが、端渓硯(たんけいけん)、歙州硯(きゅうじゅうけん)です。特に、広東省の斧柯山(ふかざん)一帯で採れる端渓石でつくられる端渓硯は有名です。石質が緻密で、細かく墨がおりるんです。うちの店でも、端渓硯は多く取り扱っています。

画像、端渓硯と歙州硯
キャプション(左)端渓硯 石の自然の形を生かして作られた天然硯。
(右)歙州硯 夜空に浮かぶ星のような金色の石紋が美しい鑑賞用の硯。

「墨がおりる」とは、どういうことですか。
 

墨が磨(す)れて墨液になることを「墨がおりる」といいます。墨がよい具合に磨れる硯を「墨おりのよい硯」といったりもするんですよ。
端渓硯、歙州硯は安いものでも数千円、高いものだと何十万円もします。ですから、小・中学生のみなさんには、安価な羅紋硯(らもんけん)をおすすめしています。千円ぐらいから購入することができますよ。安い硯でもきちんと手入れをすれば、墨はおりますので、最初は羅紋硯で十分だと思います。

画像、羅紋硯
羅紋硯 小・中学校で広く普及している硯。

和硯には、どのような種類があるのですか。
 

特に有名な産地は、宮城県の雄勝(おがつ)、山梨の雨畑(あまはた)、四国の土佐ですね。うちの店で扱っているのは、雄勝硯です。雄勝で採れる玄昌石(げんしょうせき)は、粘板岩で層になっていて石質が細かく、独特のよさがあります。

2. 墨の磨り方

お店に並ぶ硯を見てみると、墨液を溜める部分が広いものと狭いものがありますね。
 

磨った墨を溜める部分を、墨池(ぼくち)と呼びます。昔の中国の硯は、墨池が狭いものがほとんどです。当時は、墨を少し磨って手紙を書くことが多かったので、墨池が狭くてもよかったんです。今は、半紙に大きな文字を書くことが多いので、墨池が広いほうが好まれます。また、墨を磨る部分を、墨堂(ぼくどう)と呼びます。
 

画像、硯の部分の名前

墨を磨るときは、墨堂に少量の水を注ぎ、濃くなるまで磨り、墨池に落とします。それを繰り返していき、墨池に溜まった墨を、適度な濃度に薄めて使用します。
墨の持ち方は、垂直に磨る方法と、斜めに当て、適当なところで裏返して磨る方法とがありますが、垂直に磨る場合は墨をそのまま墨堂の上に放置しないようにしましょう。わずかな時間でも墨が硯にくっついてしまいますので。

3. 硯の手入れ

硯の手入れのしかたを教えてください。
 

使い終わった硯は、毎回きれいに水洗いし、水気をふき取って乾かすのが理想です。墨堂、墨池の隅の部分には、墨が残ってこびりつきやすいので、つまようじなどを使って、丁寧に墨を取り除くとよいですね。
また、どんなによい硯でも、長い間使っていると、墨がおりにくくなります。硯には「鋒鋩(ほうぼう)」という細かい突起があり、これによって墨を磨ることができるのですが、長く使っていると、この鋒鋩が磨滅してしまうんです。鋒鋩をよみがえらせるためには、目立砥石(めたてどいし)と呼ばれる柔らかい砥石をかけるのがいちばんです。目立砥石は、書道用具店で売っていますので、墨を磨る要領で砥いでみてください。

画像、宝研堂の店内
硯の扱い方を丁寧に説明する青柳さん。

お店でも、硯の修理をしてくれるそうですね。
 

はい。硯の研磨、目立てはもちろん、割れたり欠けてしまったりした硯でも、再び使えるように修理することができますよ。
また、うちの店では、修理だけでなく硯の製作も行っています。私は10代の頃から、祖父や父から作硯(硯を作ること)を教わってきましたが、硯の世界は奥が深く、とてもやりがいがあります。
思い返せば、子どもの頃から、硯が身近にあったので、よく墨を磨って字を書いていました。墨は磨り方によって濃度が変わり、それによって書く文字の印象も変わるので、それがおもしろくてしかたなかったんです。
今、自分でつくった硯をお客様にお送りするとき、必ずお手紙を添えるのですが、いつも墨を磨りながら「どのようなことを書こうか」と思いを巡らせます。そういう、墨を磨りながら考える時間が、私にとっては大事ですね。
書写の時間では、墨液を使うことが多いようですが、墨は、磨り方によって書いた文字の表情が変わるというおもしろさがありますし、墨を磨る時間というのは、なかなかよいものです。
ぜひ、硯を使って墨を磨る機会を増やしていただきたいなと思います。

Illustration: KAMO

株式会社 宝研堂(ほうけんどう)

東京都台東区寿4-1-11
Tel:03-3844-2976
営業時間:月曜~土曜  9:00~18:00/第1・3日曜 10:00~17:00
定休日:第2・4・5日曜、祝日

次回は、硯ができるまでの工程をご紹介します。

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