みつむら web magazine

第4回 教科書の製本のひみつ

教科書づくりの現場から

2025年4月18日 更新

1冊の教科書の向こうには、たくさんのつくり手たちの仕事や思いが存在します。教科書ができあがり、届けられるまでの現場を取材しました。

4月になると、いつも当たり前に手元に届く教科書。
第1回 では教科書用紙の、第2回 第3回 では印刷の、さまざまな工夫をご紹介してきました。
今回はいよいよ、印刷された各ページを合わせて1冊の本に仕立てる製本へと進みます。
教科書の製本には、どんな配慮や工夫がなされているのでしょうか。
光村図書の教科書の製本を担ってくださっている製本所の一つ、株式会社望月製本所を訪ねて、そのひみつを教えてもらいました。

教えてくださった方

柿﨑さんのプロフィール画像

柿﨑 憲司 さん

株式会社望月製本所

断裁の業務に30年以上携わる。小・中学校時代に好きだった教科は国語。製本業界で若い人が育ってくれるよう、自分の経験や知識を下の世代に伝えていきたいと考えている。

室武さんのプロフィール画像

室武 匡 さん

株式会社望月製本所

製本業務に従事して30年。小・中学校時代に好きだった教科は社会。とにかく仕事が大好きで、日曜日でも出社したいと思っているが、会社からは止められている。

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大橋 佑介 さん

株式会社望月製本所 工場長

製本所に勤務して25年。小・中学校時代に好きだった教科は歴史。最近、小学校1年生の我が子の国語の授業参観で、自分が製本に携わった教科書が1冊も壊れていないことが確認できて、ひそかに安心した。

製本のひみつ

教科書の製本は、大きく次のような工程に分かれています。

1.丁合(ちょうあい)

印刷所から届いた「折(おり)」(印刷された1枚の用紙を折ってできたページのまとまり)を、機械を使って、ページの並び順どおりに1冊の束にまとめていく“丁合”作業を行います。例えば、現在使われている中学校国語1年の教科書は、全部で14の折でできています。これらの折を順番に重ねて、1冊分をセットしていくのです。

丁合の画像

丁合を行う機械の裏側で、丁合される折を補充していく作業は、人の手で行います。ここで違う場所に違う折を補充してしまうと、ページが正しく並んでいない教科書や、ページが重複したり抜けていたりする教科書ができあがってしまいます。それを防ぐために、束ねるリボンの色を折ごとに変えたうえで、それぞれの補充場所の上部には、折の番号とそれを束ねる色のリボンを大きく掲げるようにしています。これに加えて、機械に付いているカメラでもチェックを行っています。

2.綴じ

小学校国語の高学年や中学校国語などのように、1年を通して使われるページ数の多い教科書については、使用中にページが抜けたり壊れたりすることが絶対にないよう、頑丈なつくりにすることが求められます。そうした教科書については、丁合後の折の束の、先頭ページと最終ページの内側に紙テープを貼って補強した上から、上部・真ん中・下部の3か所を針金で綴じます。いっぽう、針金で綴じない教科書については、この工程を経ずに次の工程へと進みます。

3.表紙くるみ

丁合後の折の束の背中側に、高温で溶かした のりを塗ったうえで表紙を接着し、その表紙が本体をくるむように折って体裁を整えます。中学校国語の教科書などのように、見返し(表紙の裏側と教科書本体の1ページ目に貼り付けられた紙)のある教科書については、見返しを接着する工程を経てから表紙を接着します。
この段階の後、折が重複していたり、ずれてはみ出していたりなどの不良品がないか、機械での検査を行います。不良品が出るのは、割合としては0.005%程度です。不良品はここでラインから外れるようになっています。 

4.三方断裁(さんぽうだんさい)

折られた印刷物を重ねただけでは、袋状になっている箇所もあり、そのままでは全ページを開くことができません。そこで、本の上下と背表紙の反対側の、三方向を断裁します。これを“三方断裁”とよび、5冊ずつ重ねて一度に機械に通していきます。断裁によって出た紙片は、集めてリサイクルにまわしています。

5.検査・梱包

機械で10冊ずつの束を作り、当て紙を当てたうえで結束していきます。人の目で外側から検品をした後、パレットに積んで梱包します。
ここまでの工程が、1日に約4万冊を見込んだ速さで行われます。これは例えば、中学校国語1年の教科書の必要部数の製本を20日ほどで終えることができるぐらいの速さです。

製本した教科書の強度を一定に保つ工夫の一つとして、針金で綴じていない教科書については、製本後、パレットごとに抜き取りでの強度検査を毎日行っています。検査機にセットして、教科書の中ほどのページを引っ張り、そのページが抜けたときの数値を記録するとともに、強度に問題がないかを確認します。

表紙の断裁のひみつ

教科書の表紙は、1枚の紙に4冊分が印刷された状態で印刷所から届きます。そのため、これまで見てきた工程とは別の工程で、1枚につき1冊分になるように紙を断裁する必要があります。微細な振動によって紙をそろえてくれる機械を使って300~400枚ほどをまとめてそろえ、一度に断裁していきます。断裁担当者には安全講習が義務づけられていることに加え、断裁時の事故防止のため、紙の上に押さえを下ろした後、左右の手と足で踏むスイッチを同時に押さないかぎり機械の刃が下りない仕組みになっています。

柿﨑さんのプロフィール画像

柿﨑さん

B5判の教科書の表紙が4冊分印刷された大きな紙を束にして扱うのは、力のいる作業です。実は、束を置く台の上には小さな穴が空いていて、そこから空気が噴き出しています。ですから、ある程度は滑りがいいようになっているのですが、反対に勢いがつきすぎて紙がばらばらになってしまわないよう、いつも束をぎゅっと握りながら動かしています。断裁業務の専属になってから、体幹が鍛えられました。

刃が下りて断裁が済んでしまってからではもう後戻りできないので、ミスがないようにと神経を使う仕事です。なかでも、4冊分とも同じように切り分けること。これにいちばん神経を使っています。紙は、湿度によってわずかに伸び縮みしたり曲がったりしますので、印刷所からここに届くまでの間に、一枚一枚、ほんのわずかに寸法が違ってくるものです。ところが、切り分ける位置がほんの0.5ミリでも違うだけで、背表紙の位置がずれてしまったりする。本の背表紙の位置がずれていたら、美しくないでしょう? ですから、こうした厳しい条件のもと、4冊分を同じように切り分けられるよう、切る位置の数値を微細に調整しながら作業に当たっています。

特に気を遣うのは、小学校1年生の上巻の表紙を切るときです。子どもたちが初めて手にする教科書ですからね。使ってうれしく、学習を終えて手元に残しておいてもうれしく思ってもらえるように、どの表紙も同じ品質で美しく仕上げることをとりわけ意識するようにしています。

貼り込みのひみつ

ページの高さが他よりも短い折があると、他の折と位置をそろえるのが難しいことがあります。あるいは、観音開きなどの折り込みページのように、折自体が薄くて軽いと、重複や抜けに気づきにくくなります。こうした折がある場合、丁合以降の工程をスムーズに進められるよう、丁合の前に別工程で、あらかじめその前後の折と接着させて合体した折をつくることがあります。この作業を“貼り込み”とよんでいます。
貼り込みの機械では、丁合と同じように、並べられた折を一つずつ抜き取っていきます。このとき、接着される側の折との間の背中側に2~3ミリほどの幅で のりが塗られることで、重なった折どうしが接着されて出てくるようになっています。

室武さんのプロフィール画像

室武さん

この作業のできばえしだいで丁合の工程のしやすさが違ってくるので、丁合作業をする仲間に苦労をかけないような仕事をいつも心がけています。貼り込みの機械は古いものですが、とてもよくできていて、この機械とずっと一緒にいるために大事に使っています。

ただ、すべてが機械任せというわけではなく、作業前に各折の位置を機械にセットしたり、機械の裏側で、それぞれの折を補充したりするのは人間の仕事です。
丁合の工程とも共通しますが、実はこの補充、そう簡単なことではないんです。調子にのって大量に乗せてしまうと、機械で折を抜き取るときに、紙の重みのせいで強くこすれて、印刷の色落ちや汚れが出てしまうことがあります。あるいは、補充のときによくそろえて乗せておかないと、折どうしがずれて接着されてしまうこともあります。
こうしたさまざまな点に気を配りながら、色落ちや汚れを出さないこと、ずれていないこと、はがれていないこと、この三つを守って作業をしています。

例えば、大きな写真が載っているページが多い折などは、色落ちを警戒して、特に補充の量を少なくしたりもします。その点でいうと、光村図書さんの教科書は、経験や作業の細やかさが要求されるつくりになっていることが多く、作業者にとっては非常にやりがいのある仕事だと思います。貼り込みの精度は、最終的には、美しさだけでなく教科書の丈夫さにもつながります。1年間使い続けても壊れないよう、さらに丈夫な教科書づくりを目ざして、これからも仕事に励んでいきたいですね。

つくり手からのメッセージ

大橋さんのプロフィール画像

大橋さん

教科書の製本では、作業の正確性はもちろんですが、“できあがったときの見た目の美しさ”、それから“使ってからの丈夫さ”、これが重要だと思っています。丈夫さについては、針金で綴じてしまえばページが抜けたり壊れたりする心配はないのですが、針金で綴じない製本形式の場合には、少しでも強度を高めようと試行錯誤をしたりもします。

その一つとして、近年、製本時に使う のりをより強度の高いものに切り替えました。もともと使っていた のりも、しっかりと強度があり、作業者が安心して使える安全なものだったのですが、より強度が高い のりがあると知って、そちらに切り替えることにしたんです。ところが、これがなかなか大変な仕事でした。
通常、のりは、固形のものを高温で溶かして液体に近いペースト状にして使います。ただ、初めて使うときには、どのぐらいの温度で溶かせば最適な状態になるのか、どのぐらいの時間をおけば固まって強度が出るのか、そのあんばいがわからない。本当に手探りの状態で、何パターンも試すことでようやく最適なセッティングを見つけ出し、教科書の製本に採用することができました。

今、子どもたちが使ってくれている教科書には、この新しい のりが使われています。さらに頑丈にパワーアップして、どんなふうに使ってもらっても壊れない教科書になっていると思います。1年を通して使っても壊れないように作ったので、子どもたちには存分に使ってもらえたらいいなと思います。そしてできれば……丁寧に使ってもらえたら、なおうれしいですね。

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