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第3回 教科書の印刷のひみつ 2 ――印刷編

教科書づくりの現場から

2025年4月4日 更新

1冊の教科書の向こうには、たくさんのつくり手たちの仕事や思いが存在します。教科書ができあがり、届けられるまでの現場を取材しました。

教科書の印刷に関わるひみつのうち、前回は、実際に印刷機で印刷する前に行う下準備についてご紹介しました。今回は、印刷機で印刷するときのひみつについてお届けします。

第2回 教科書の印刷のひみつ 1 ――下準備編

教えてくださった方

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福本 光治 さん

協和オフセット印刷株式会社 輪転課 課長

神奈川県横浜市生まれ。入社以来26年間、輪転課で勤務。小学校5年生のとき、みんなの前で緊張しながら「大造じいさんとガン」の音読をしたのは忘れられない思い出。休日は、夫婦でドライブなどを楽しむ。

印刷のひみつ

教科書は、次の2種類の方式で印刷されています。

輪転印刷

枚葉印刷

輪転印刷のひみつ

輪転(りんてん)印刷とは、第1回 教科書用紙のひみつ でご紹介したような、ひとつながりのロール用紙を使って、その表面・裏面に同時にインキを転写していく印刷方式です。他の方式と比べて印刷速度が速いため、教科書のように大量の印刷が求められる印刷物に適しています。教科書では、主に本文ページを印刷するのに、輪転印刷を用いています。

この印刷所の印刷機では、オフセット印刷とよばれる仕組みを採用しており、上下ではさむように、ロール用紙の表面と裏面にそれぞれ円筒状のゴムシートがセットされます。さらに、そのゴムシートと接するように、表面・裏面それぞれに 刷版 を巻き付けた円筒状の部品をセットするようになっています。

印刷は、大きく、次のような流れで行われます。

  1. 刷版にインキが付く
  2. そのインキがゴムシートに転写される
  3. ゴムシートに付いたインキがロール用紙に転写される
  4. 印刷済みのロール用紙を決められたサイズで断裁して、決められた折り方で折る
  5. できあがった「折(おり)」をまとまった単位で結束する
  6. ロボットでパレットに積み、ラップで包装した後、上から板を載せてバンドで締めて梱包する

枚葉印刷のひみつ

枚葉(まいよう)印刷とは、1枚ずつカットされた用紙を使って印刷する方式です。この方式では、印刷済みの紙を折るところまではできませんし、印刷速度は輪転印刷より落ちるのですが、厚紙を使った印刷にも対応することができます。ごく薄い色でも再現しやすく、輪転印刷よりも色の違いを細かく表現することができるので、一般的に、美術の教科書などに向いている方式といえます。教科書では、主に表紙や見返し、折り込みなどを印刷するのに、枚葉印刷を用いています。

印刷の流れは、輪転印刷と大きく変わりませんが、表紙を印刷する場合には、正しく印刷されているか、ごみや汚れが付いていないかを印刷後に1枚ずつ検品しています。

福本さんのプロフィール画像

福本さん

輪転印刷では、平均して、時速2万枚の速さで印刷することができます。例えば単純に印刷時間だけで計算した場合、これは、小学校「国語」教科書3年上巻の全冊数の印刷を約350時間でこなすことができる速さです。

とはいえ、印刷機に任せておけば、自動的に、完璧な印刷物ができあがるわけでは決してありません。例えば、色。下準備編 でも苦労して調整を重ねてきた色が、求められたとおりに印刷されているかどうか。カメラとモニターを使った検査装置ですべての印刷面を検査しながら印刷してはいますが、万が一にも機械では検知できない不良品が出てしまわないように、人の目でも抜き取り検査をしています。 それから、インキの擦れや用紙の破損などの不良品。これが気づかれないままできあがってしまっていないか、自動的に機械で結束された印刷物のまとまりを一定の条件で抜き取ってほどき、人の目で見て確認をしたりもしています。

教科書は、未来を担う子どもたちの学習に欠かせないものです。印刷ミスや破損・汚れなどが絶対に出ないよう、すべての工程で、正確に、丁寧に仕事をすることを心がけています。

つくり手からのメッセージ

福本さんのプロフィール画像

福本さん

これまで見てきて、印刷にはたくさんの紙が使われていると思われたことでしょう。紙の原料を生み出してくれるのは森林です。生態系にも気候変動の抑制にも欠かせない森林を保つために、適切に管理された森林の木材とそうでないものを区別する認証として、FSC認証 というものがあります。実は、弊社では、2007年にこれを取得しているんです。教科書の印刷に携わる会社として、「これからを生きる子どもたちのためにできることを」という思いがあってのことでした。少しでも、貢献できていたらいいなと思います。

印刷時の試し刷りなどによって出た不要な紙は、古紙回収にまわすことで、段ボールやトイレットペーパーにリサイクルされるようにもしています。

自分たちのした仕事が、子どもたちの学習に使われるものとして形に残る。その喜びや達成感は非常に大きく、たいへんやりがいを感じています。この教科書が、多くの子どもたちの夢と希望につながってくれるようにと、いつも願っています。大事に使ってもらえるとうれしいですね。

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