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わたしたちと言葉②――これからの時代と言葉

教育情報誌「とことば」

2025年5月9日 更新

教室の中と外の世界をつなぐ今日的なテーマを「言葉」を切り口に追いかける教育情報誌「とことば」。
言葉のもつさまざまな側面を切り取りながら、子どもたちに言葉のもつ可能性や豊かな世界に出会わせる方法を考えていきましょう。

子どもたちは、これからたくさんの言葉に出会い、ともに生きていきます。
みんながよりよく生きていけるように、言葉を見つめて、とことこ歩きながら、言葉っていいな、おもしろいな、いろいろな可能性をもっているな。
そんなことを感じてもらえることを目ざします。

わたしたちは言葉にどう向き合っていくか?

SNSの急速な発達など、言葉の世界は加速度的に変化しています。そんな時代に、わたしたちは言葉とどう向き合っていけばいいのでしょうか。教科書編集委員のお二人にうかがいました。

言葉の中の、自分を見つめて。――蜂飼 耳(詩人・作家)

蜂飼先生のプロフィール画像

蜂飼 耳

まだ、言葉に出会ったばかりのころ、一音一音の組み合わせが意味をなすこと、それらが連なり物語になること、そのすべてがとてもおもしろくて、夢中になった記憶があります。一語一語、体感する際の新鮮な異物感とでも呼ぶべきものを確かめるようにしながら、幼いころの私は少しずつ言葉を増やし、知覚できる世界、認識できる世界を増やしていった気がします。私にとって、言葉は人生そのもの。生きていくことそのものです。

人類の歴史上、おびただしい数の人間が関わりながら築かれてきたのが「言葉」。人間はいつも、言葉の中に自分たちの存在を蓄積してきました。かけがえのない、大切な言葉ですが、その中に「恐ろしさ」も含まれているという事実から、目をそむけてはいけないと思っています。流れる情報を浴びるように見聞きして、瞬間的に反応することが当たり前となっている現代社会ですが、言葉を使うことへの謙虚さが必要だと思います。分断の時代と言われる状況が生じる要因の一つとして、言葉が人と人とを切り離すような、不用意で暴力的な使われ方をしている点があげられるでしょう。現代の言葉を捉えようとするとき、そうした観点は外せないと思います。

言葉には人を生き生きとさせる要素が、必ずあるのです。言葉は、それを通して人間をとりまく情感や思考の奥深さ、幅広さを体感させてくれ、心を育ててくれます。今日、子どもたちとともにもう一度、言葉の豊穣さを味わうためには、一人一人が立ち止まり、自分が発している言葉を観察してみることが必要ではないでしょうか。大人も子どもも、それぞれに、自分の言葉をいったん受け止めてみること。ときには、黙って持ちこたえること。その余白の中でこそ、言葉の力は育ちます。現代の速度とは異なる時間軸も念頭に置いて、言葉と向き合い、使い方のバランス感覚を見つけていくことが、いっそう大切になってきていると感じます。

蜂飼 耳

詩人・作家

2000年『いまにもうるおっていく陣地』で第5回中原中也賞、2006年『食うものは食われる夜』で第56回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。主な著書に、絵本『うきわねこ』(ブロンズ新社)、文集『孔雀の羽の目がみてる』(白水社)、小説『転身』(集英社)など。光村図書小学校『国語』、小・中学校『書写』教科書編集委員。

言葉で子どもたちの心をつなごう。――加賀田哲也(大阪教育大学教授)

加賀田先生のプロフィール画像

加賀田哲也

自分の思いや考えを表現する。自らの思考を深める。互いを理解し、人と人をつなぐ。よりよい社会関係を築く。言葉には、すばらしい力があります。これまでの外国語教育を振り返ってみると、言葉を学ぶということは、単語や文法を覚えることに結び付けられがちでした。しかし、子どもたちを育てるというのが教育であるなら、最終的な目的は、言葉の力を通して他者を理解しながら、一人一人が豊かな自己を築いていくこと、人間形成であるべきだと思うのです。

「Great!」「Cool!」「Beautiful!」普段なかなか言えないまっすぐな言葉がするりと言えてしまうのが、英語の不思議なところです。一生懸命がんばっているのに、どうして他の子のようにいかないんだろう。そんなやるせなさを抱えている子どもたちの顔が、英語のもつ率直な表現に後押しされて、みるみる明るくなる。そうした場面を何度も見てきました。

多様な言葉を身につけるということは、多様な自分と出会うということです。決して言語体系を完璧に理解しなくてもいい。挨拶一つでもかまいません。自分の中に小さな異文化をいくつも取り入れていくことが、子どもたちの世界を広げ、思考を深めていくうえで大きな力をもつと考えています。

とはいえ、見知らぬ言葉に触れることそのものを諦めてしまう子もいます。自己肯定感の低さゆえに、自分自身を表現することをためらっている子もいるはずです。それでも、自分の好きなもの、自分が得意なこと、自分がやりたいこと……。子どもたち自身と言葉を粘り強く結び付けていくと、言葉が「自分事」になる。子どもたちからどんどん表現したいことが出てくるようになるのです。

誰もが心の中に伝えたい思いを抱えています。そうした、表現しきれない思いと言葉の間にはしごをかけること。子どもたちの心に灯をともすこと。それが私たちにできることなのだと思います。

加賀田哲也

大阪教育大学教授

人間教育としての英語教育、国際理解教育などを研究テーマとして大学で教員養成に携わる他、小学校、中学校、高等学校などで英語授業改善のための指導や教員研修に当たっている。光村図書小学校英語教科書『Here We Go!』、中学校英語教科書『Here We Go! ENGLISH COURSE』編集委員。

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