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AIと言葉④――AIとともに過ごす未来 誰もが誰かに寄り添われる社会に

教育情報誌「とことば」

2025年9月26日 更新

教室の中と外の世界をつなぐ今日的なテーマを「言葉」を切り口に追いかける教育情報誌「とことば」。
言葉のもつさまざまな側面を切り取りながら、子どもたちに言葉のもつ可能性や豊かな世界に出会わせる方法を考えていきましょう。

わたしたちの身の回りに、いつの間にか広く浸透しているAI。
これからの時代を生きる子どもたちにとってAIとの協働は、避けては通れないものとなっています。
AIを教育に取り入れていく中で、言葉の学びや人と人とのコミュニケーションの在り方はどう変わっていくのでしょうか。
研究者へのインタビュー、小学校での授業リポートなどを通して、AI時代に必要な言葉の力について考えていきます。

AIとともに過ごす未来 誰もが誰かに寄り添われる社会に

幼い頃から「ドラえもんをつくる」という夢をもち続け、現在はAIの研究者として大学で教鞭を執る大澤正彦先生(日本大学文理学部准教授)。
これから先、人とAIの関係性はどうなっていくのか、また、AIの進化によって、人と人の関係性はどうなるのか、お話をうかがいました。

大澤先生の研究内容を教えてください。

僕の研究内容は、一言で言うなら「ドラえもんをつくる」ことです。ご飯を食べたい、眠りたい、と思うのと同じくらいの感覚で、幼い頃からドラえもんをつくりたいと思い続けて生きてきました。現在は、AIや神経科学、認知科学などさまざまな分野の知見をもとに、大勢の仲間とともに、ドラえもんづくりを進めています。

ドラえもんといえば、「青い猫型のロボット」「のび太の友達」「便利な道具を出してくれる」など、人それぞれがイメージする側面があります。僕はすべての側面を大切にしつつ、チームで分担して研究に取り組む中で、「心って何なのか」「心が通じ合うとはどういうことなのか」といった、人の心に着目した技術開発を担当しています。

ドラえもんづくりを進める中で、人と人の交流を促すAIも開発されているそうですね。

AIの研究をしていると、「人とAIの共存って、どういうのが理想ですか」ときかれることがあるんです。でも、人とAIの共存を考える前に、そもそも人と人は、本当の意味で共存できているのかなと疑問に思うことがあります。例えば、性的マイノリティといわれる仲間ができたときに、こんなにいい人がこんなことで苦しんでいるのは嫌だなと思いました。ダイバーシティ推進という抽象的な言葉だけだと僕はぴんとこないのですが、仲間の顔が思い浮かぶと、なんとかして力になりたいと思います。もっと人と人が交流できる仕組みがあれば、お互いの理解につながり、苦しんでいる人の力になれるのではと考えました。

それから、自分自身の研究を進めるうえでも、人と人をつなぐ手段の必要性を感じていたんです。ドラえもんづくりは、とうてい一人ではできないことなので、大勢の仲間をつくって活動をしてきましたが、自分の手でコミュニティを広げるのは数千人ぐらいが限界です。仲間どうしの協力って、人類の歴史を見てもずっと課題だったはずで、世界中のみんなが一緒にがんばれる仕組みはまだない。じゃあ、AIの技術を使って、それを実現できないかと考えたんです。現在、大学の授業に実際に取り入れています。

そのAIは、どんなものなんでしょうか。

一つは「メンタリングAI」とよんでいるもので、学生が自分の目標を考えるときに相談に乗ってくれるAIです。プロのコンサルタントのフレームワークをベースに、ただ言葉を交わすだけでなく、“心がある”と思ってもらえるようなやり取りを行います。

二つ目は「マッチングAI」。学生が見つけた目標を実現するために、「この人と組んだらどう?」などと提案してくれます。

三つ目が「マネジメントAI」で、チームで活動するときの管理面をサポートします。タスクだけではなく、気持ちのケアとかモチベーションの維持などにも貢献します。

この三つを組み合わせてコミュニティAIとよんでいます。AIを導入する前は、こうした支援を全部自分でやっていたんです。80人の学生一人一人に向き合うのは、やりがいも効果も感じましたが、どう考えても、これを800人に増やすことは難しい。一人一人をしっかりサポートするためにはAIの助けが必要だと思いました。

これからAIとともに過ごしていくことになる子どもたちに、AIとの付き合い方について、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

5歳の娘がいるんですけど、幼い頃から遊び感覚でAIに触れさせています。好奇心というのは、「ちょっと知ってて、ちょっと知らない」くらいのときに生まれるものなので、その下地づくりができればと思っています。AIとの付き合い方に正解はありませんが、今後、AIの影響力がますます大きくなるのは間違いないと思います。まったく触れないまま大人になると、思わぬ失敗をしてしまうかもしれない。だから、「テクノロジーの予防接種」みたいな感覚で、小さい頃に少しでも経験しておくのがいいのではないでしょうか。

大澤先生が思い描く未来の生活はどんなものでしょうか。

人の数だけ理想の未来があると思います。だから、神様のような誰か一人が未来を描くのではなく、選択肢が増える未来が理想だと思っています。本来、技術が進んだぶんだけ選択肢が増えて、人が幸せになっていくはずなのに、今は、技術が進んでも、幸せになった実感がある人は少ないように思います。なぜなら、効率化や合理化ばかりが優先される世の中になっているからではないでしょうか。例えば、1日8時間でやっていた仕事を半分の時間でできる技術が生まれたとき、「家族と過ごせる時間が増えてハッピー」という選択肢もあるはずなのに、「倍の仕事をこなしましょう」になってしまう。

それに、人と人との関わりって効率化できないものですから、学校の先生や保育士さん、介護士さんとか、人に寄り添う仕事をしている人たちにしわ寄せがいっている気がします。人と寄り添うことの価値がもっと高まって、一人も取り残すことなく、誰もが誰かに寄り添われる社会になったらすてきだなと思います。技術の力で、人が人に思いっきり寄り添える社会を実現できるよう、イノベーションを起こしていきたいと考えています。

大澤正彦先生プロフィール画像

大澤 正彦(おおさわ・まさひこ)

日本大学文理学部准教授

日本大学文理学部情報科学科准教授。次世代社会研究センター(RINGS)センター長。博士(工学)。
1993年生まれ。学部時代に設立した「全脳アーキテクチャ若手の会」が日本最大級の人工知能コミュニティに発展。IEEE CIS-JP Young Researcher Award(2015年)をはじめ受賞歴多数。孫正義育英財団アラムナイ(2017年認定)。グローバルな活躍が期待される若きイノベーターとして「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」2022に選出。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)など。

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