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AIと言葉③――授業リポート 教室の中のAI/神奈川県厚木市立鳶尾小学校

教育情報誌「とことば」

2025年9月26日 更新

教室の中と外の世界をつなぐ今日的なテーマを「言葉」を切り口に追いかける教育情報誌「とことば」。
言葉のもつさまざまな側面を切り取りながら、子どもたちに言葉のもつ可能性や豊かな世界に出会わせる方法を考えていきましょう。

わたしたちの身の回りに、いつの間にか広く浸透しているAI。
これからの時代を生きる子どもたちにとってAIとの協働は、避けては通れないものとなっています。
AIを教育に取り入れていく中で、言葉の学びや人と人とのコミュニケーションの在り方はどう変わっていくのでしょうか。
研究者へのインタビュー、小学校での授業リポートなどを通して、AI時代に必要な言葉の力について考えていきます。

英語を話す経験値を底上げする生成AI活用

「とかく『易きに流れる手段』と捉えられがちなAIを、主体的・協働的かつ個別最適な学びを促進するツールとして位置づけたい」と、精力的に実践・発信をされている成田潤也先生。実際にどのようにAIを活用されているのか、外国語活動の授業での取り組みを紹介します。

  • 小学校外国語活動「What time is it?」(4年)
  • 神奈川県厚木市立鳶尾小学校 成田潤也先生

本時の流れ(45分)

1.ウォームアップ(4分)
“How are you?”と尋ね合うトークの後、時刻の言い方をおさらいする歌を歌う。

2.前時の復習(6分)
前時は、三つのAI機能を使って自分の言いたい文章の翻訳、音声生成、スライドに載せる画像作成を行った。

3.個人練習(15分)
AI音声生成で作った自然な発音の音声を聞いて、各自が言いたい内容を英語で言えるように練習する。

4.グループワーク(5分)
グループになり、作成したスライドを見せ合いながら、一人ずつ質問→応答の練習をする。

5.全体発表(15分)
各自のスライドを共有して一つのデータにまとめ、大型モニタで表示。自分の作った文章で一人ずつ質問に答える。

AI自動翻訳で、一人一人が言いたいことを瞬時に英訳

今回取材したのは、『Let's try! 2』のUnit 4「What time is it?」の4限目。テキストどおりの内容を2時間で教え、残り2時間を発話練習の活動に充てている。好きな時刻と、その時刻が好きな理由を尋ね、答えるという内容だ。トークと歌でのウォーミングアップをテンポ良く終え、会話の例文を、どのように言うか問いかけて思い出させながら板書していく。

Q. What's your favorite time?
A. I like 3:00 p.m.
Q. Why?
A. Because it's snack time.

「では、この前皆さんが作ったスライドを開きましょう」。成田先生の授業では、オンラインのデザインツール「Canva」(※)を使う。Canvaではスライド作成に加え、さまざまなAI機能を使うことができる。

前時は、各自が言いたい文章(Q&AのAに当たる部分)を、AI翻訳で英語に訳す作業を行った。お手本の日本語文が記載されたテンプレートのスライドを共有し、各々の言いたい内容に書き換えてもらう。CanvaのAI自動翻訳機能を使えば、ワンクリックで訳文を作成できる。ポイントは、4年生が英語で言える内容にするために、日本語の段階でできるだけ簡単な文章にしておくことだ。

※同名の企業が提供するオンライングラフィックデザインツール。

AI音声生成で、何度も発音を確かめながら発話練習

続いての発話練習でも、CanvaのAI機能が活躍する。AI音声生成ツールを使うと、各自の英文が自然な発音で再生されるのだ。

「これからこの音声を聞きながら自分で言えるように練習する時間を取ります」。成田先生が告げると、教室には、子どもたちがそれぞれの音声を繰り返し再生する音と、練習をする声が響いた。成田先生が巡回し、やり方がわからずにいる子どもたちをフォローしていく。隣の席や近くの子どもどうしでも操作方法をきき合い、教え合う姿が見られた。

AI画像生成で、イメージの共有をスムーズに

「練習はもうばっちりという人は、自分の言いたいことに合った画像を生成してみてください」と成田先生が声をかけると、子どもたちはCanvaの「マジック生成」を開いた。英文を指示文として貼り付けると、英文の内容に合った画像を複数パターン生成してくれる(図1参照)。例えば「snacktime」と入力するとおやつを食べている様子が生成される(図2参照)。各々好きな画像を選んでスライドに貼り付けていく。

図1 CanvaのAI画像生成を使う様子の画像
図1 CanvaのAI画像生成を使う様子。指示文に訳文を打ち込んで画像を生成する。
図2 AI画像生成で作ったイメージ例の画像
図2 AI画像生成で作ったイメージの例

スライドが完成したら、グループワークの時間。3~4人の班を作る。発表者以外の子どもたちが“What's your favorite time?”“Why?”と質問を投げかけ、発表者はスライドを見せながら答えていく。画像生成で作ったイメージが、伝えたいことを友達に共有する助けになる。「上手に言えたら拍手してあげて。Good Jobって言ってあげてね」と先生がリアクションを促した。

得意か苦手かに関係なく、全員が「英語を話す」経験を積める

最後は一人ずつ、全員が発表する活動。全体共有用のスライドに、各自の発表資料をコピー&ペーストさせる。ものの数分で先生の手元に全員のスライドが集まった。グループワークと同様にみんなが質問していき、一人一人順番に、大型モニタにスライドを映しながら、自分の言いたい内容で答えていく。10分ほどで、20人全員が質問に答えることができた。

以上のように、英語の授業でAIを活用することで、次の三つのことができるようになる。

  • AI翻訳で、一人一人が本当に表現したいことを支援できる
  • AI音声生成で、教師の助けがなくても子どもが自力で発音を確認できる
  • AI画像生成で、本質的ではない作業に割く時間を減らし、言語活動の時間を最大限確保できる

今回の授業は先生にとってもチャレンジングな提案だったそうだが、子どもたちは、技術的なとまどいをものともせずにAI機能を使いこなし、授業時間の半分以上を言語活動に充てることができていた。

「AIを使うことで、全員が英語を話す経験値を底上げすることができます。大事なのは、英語を話すことに対する抵抗感をなくすことです。まずは英語に対してポジティブな気持ちを育てること。その気持ちのうえに、初めてスキルが乗ってくるんです」と成田先生は話す。これからの時代、必要不可欠になる技術に早い段階から慣れ親しみ、使いこなせる力を育んでほしいという思いももっている。

「今はまだ新しい技術に慣れていない子も多いですが、将来的にはAIを『自分が必要なときにサポートを求める相棒』にしてほしいと思っています。高学年の授業でも継続的に使うことで、AIを当たり前に使いこなし、英語を自ら学び続けられる子に成長してほしいです」。

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