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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第2回 「お試し行動」に振り回されないために

2016.06.08

今日のポイント

  • 主に,新任・若手教師,支援員や介助員,ハート・ウォーミングな大人をターゲットにした「お試し行動」という行動がある。
  • 大人として振る舞うことで,「お試し行動」は漸減または消去できる。
  • 「堂々と毅然と穏やかに」「焦らず慌てず諦めず」を基本とした関わりが求められる。

読者の皆さん,お元気ですか? 今回取り上げる「お試し行動」は,新任・若手の先生方や支援員・介助員さんがターゲットになりやすいこととして知られています。日々の指導や子どもとの距離感などを振り返りながらお読みいただくと,理解しやすくなると思います。

「お試し行動」とは,追いかけてもらいたくて逃げたり,隠れたり,暴力的に振る舞ったり,駄々をこねたりするような行動です。嫌がることをあえて繰り返し,大人の顔色をうかがい,どんな反応をするか試すような挑発的な態度を示すこともあります。

画像,お試し行動

時折,子どもが度を過ぎたいたずらや,むちゃくちゃなわがままを示したりすることがあります。その場で座り込んだり,床に寝そべったり,たたくそぶりや目を突いたりするまねをしたり,靴を投げてみたり……。「ダメ」と言われるようなことをわざとするといったときには,「お試し行動」と考えてよいでしょう。その行動の背景には,「どこまで許してもらえるか」という愛着の確認という側面があると同時に,行きすぎたときには,大人から毅然と「ダメ!」というサインを出してほしいという期待の側面があります。そのため,ベタベタと甘えてくる姿と,あえて不適切な行動をとる姿が混在するケースが少なくありません。どちらも,「大人の気を引きたい」という気持ちが根底にあります。

多くの場合,これは大事な人との関係を育てるための行動であり,このやり取りを通して信頼感が芽生えます。「今の行動はいいんだよね」とか「今のは,ちょっとやりすぎだったよね」と大人の反応を見ながら行動の善し悪しを確認しているのです。 そのため,無視したり,邪険に扱ったりせず,大人として振る舞うようにするのが大切とされています。

「大人として振る舞う」というのは,お試し行動にいちいち動揺したり,表情に焦りや困惑の気持ちを出したりしない,ということです。慌てず,騒がず,冷静に対処する……これが大人としての振る舞いです。堂々としている大人,毅然と振る舞える大人には,子どもはめったにお試し行動は示しません。

ところが,お試し行動に振り回されてしまう新任・若手の先生方,支援員・介助員さんが少なからずいます。特に,優しいイメージを与える先生,子どもの気持ちに寄り添いすぎてしまう先生は,要注意です。見捨てない相手や安心感のある相手,優しくハート・ウォーミングな大人であるほど,この行動が特に強く出ることが多く見られます。年齢が近い新任・若手教師や,立場上そばにいることが多い支援員・介助員などは,格好のターゲットになります。表情に動揺が出てしまう先生や,瞬時の判断が苦手で迷いが生じてしまう先生などは,年数的にはベテランの域に達していたとしてもお試し行動が向けられやすいので,十分注意が必要です。

お試し行動への一番の対処法は,主導権(イニシアチブ)を握るということです。これは子どもに対して威圧的に対応するということではありません。先輩教師の中には,「ガツンと言えばよい」「ナメた態度を取ったら叱りつければよい」といった,教育者としてふさわしくないアドバイスをされる方がいるかもしれませんが,これは,子どもを怖がらせているだけであって,ラポール(信頼関係)に基づく関係づくりができているわけではありません。

本当の主導権とは,子どもが先生との関係性(先生に主導権があり,この先生を頼りにすると良いことにつながる)を理解し,子どもから「○○してもいいですか」と許可を求めるような関係になること,そして教師が「どうぞ」と伝えてから行動できるような関係になることです。こうした場面をたくさんつくれるようになることを目ざしましょう。

合言葉は,「堂々と毅然と穏やかに」「焦らず慌てず諦めず」です。


〈参考文献〉
川上康則(2010)『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』学苑社

次回は,「つまずき」を読み解く視点について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura

目次

【第1回】 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう <2016.05.09>

【第2回】 「お試し行動」に振り回されないために <2016.06.08>

【第3回】 子どものつまずきを読み解く“知識”と“洞察力”を <2016.07.06>

【第4回】 教師としての軸・枠・型・幅をもつ <2016.08.09>

【第5回】 話を聞けない,指示が入らない子 <2016.09.12>

【第6回】 支援の空回りを防ぐ <2016.10.11>

【第7回】 切り替えが難しい子 <2016.11.09>

【第8回】 「気になる子」を気にしすぎる子 <2016.12.07>

【第9回】 「なんでオレだけ?!」に対する指導 <2017.01.11>

【第10回】 保護者の理解を得るために <2017.02.08>

【第11回】 落ち着きがない子 <2017.03.09>

【第12回】 「専門家」の言うことは絶対ではない <2017.04.06>

【第13回】 授業の規律や学級の秩序を乱す子 <2017.05.16>

【第14回】 「作戦ゴリラ」 <2017.06.08>

【第15回】 「きょうだい児」の理解 <2017.07.05>

【第16回】 ルールを守ることにこだわりを示す子 <2017.08.23>

【第17回】 人を頼るスキルが乏しい子 <2017.09.14>

【第18回】 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子 <2017.10.19>

【第19回】 子どもの「負の部分」に目が向いてしまうときに <2017.11.14>

【第20回】 二次的障害に陥らせないための三つのポイント <2017.12.15>

【第21回】 学級目標を飾りものにしない <2018.01.22>

【第22回】 忘れ物が多い子・提出物をなかなか出せない子 <2018.02.13>

【第23回】 「してほしいこと」を伝える <2018.03.15>

【第24回】 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」 <2018.04.17>

【第25回】 「些細なこと」かどうかは,本人が決める <2018.05.15>

【第26回】 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」 <2018.06.15>

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