
道徳授業のつくり方
2025年8月7日 更新
及川仁美 盛岡市立厨川中学校 指導教諭
よりよい道徳の授業を目ざして、授業づくりで大切にしたいポイントを、光村図書中学校『道徳』教科書の編集委員を務める及川仁美先生(盛岡市立厨川中学校 指導教諭)に解説していただきました。
③終末
終末は、一時間のまとめを行う時間です。大切にしたいのは、その時間で深めてきた道徳的な内容を振り返り、実践していこうという意欲を高めさせることです。
教師の説話や新聞記事の紹介、名言の提示など、さまざまな工夫が考えられますが、どんな方法を取るにしても、それが学びの深まりと直結しているかどうかをよく考えて活用するようにしましょう。
また、ノートや学習シートを使って振り返りを書かせることが多いと思いますが、その際は、単なる「感想」にならないように留意します。書くときの視点を明確にしたり、導入でもった問いを思い返させたりすることで、書かれる内容はぐんと違ってきます。それは、本時で皆と共に考えてきたことを、改めて自分事として見つめ直し、言葉にしていこうとするからです。まさに、納得解の紡ぎです。
×「今日の授業の感想を書きましょう。」
→今日はたくさん発言した。
→いろいろな人の意見を聞くことができて、勉強になった。
○「『感謝』についてどんなことに気づいたり考えたりしたか、一時間の自分を振り返って書きましょう。」
→「ありがとう」と言うことが感謝だと思っていたけれど、話し合いを通して、言葉だけでなく行動で示していくことも大切なんだと気づくことができた。
→話し合ってみて、感謝をきちんと表現することが大事だと思った。そして、改めて考えて、感謝は「してくれた人」に返すだけでなく、他の人に渡していくやり方もあるんじゃないかなと思った。自分はそんなふうにも行動したい。
授業中の観察や発言と併せて、振り返りの記述は「評価」をするうえでも大切な資料となりますので、学校として何をどのように取り扱っていくのかをしっかりと共通理解しておきましょう。
毎時間使用する道徳ノートや学習シート、ICT端末の記録などを、時間を保障して書かせたうえで、適切に見取っていくことが大切です。取り組みの自己評価なども数値などで併せて書かせておくと、さらに有用な資料となります。
フィードバックの工夫
授業後に適切なフィードバックを行うことで、授業での学びをさらに深めたり、日常の学級経営につなげたりすることができます。すぐに実践できるものとして、二つ挙げておきます。
学級通信を活用する
終末で書かせた振り返りをまとめる形で、学級通信を出してみましょう。授業で数名の意見しか交流できなかったときでも、通信を使えば全員分でも共有できます(どこまで載せるかはケースバイケースです。子どもたちの人権に対する配慮を忘れずに)。
より多くの意見を紹介したり、授業ではうまく扱えなかった個性的な意見も工夫して掲載したりすることもできます。それらを短学活などを利用して読み合うことで、新たな気づきを促すことも期待できます。自分の意見も取り上げられたという、子どもの肯定感を高められる側面もありますので、ぜひ上手に活用したいツールです。
掲示物を工夫する
授業で作成した成果物がある場合は、積極的に掲示を行いましょう。1年間(または学期ごと)の学びを年表のように掲示したり、毎時間のワンポイントや心に残った名言などを継続して残していったりすることもお勧めです。事後に授業を思い起こしたり、気持ちを新たにしたりする効果が期待できます。
おわりに
私がまだかなり若い頃、頻繁に起こる生徒指導の問題に日々振り回されていた時期がありました。生徒対応だけでいっぱいで、自分の指導を振り返る余裕もありませんでした。そんな中、学年主任が言った言葉。「道徳やるぞ。」「後追い指導にだけ走り回っていても未来はない。遠回りに見えるかもしれないが、授業を建て直し、道徳もちゃんとやろう。学力をつけ、心を耕さなければ子どもたちは変わらない。全てはリンクしているのだから。」と。
正直に言うと、最初はすぐに成果が出ないことに対してがんばるのに苦しさしかありませんでした。でも、じわじわと子どもたちは変わっていきました。問題はゼロにはなりませんでしたが、張り詰めた空気が和らぎ、子どもたちが素直に話を聞き自分のことを語るようになりました。そして何よりも、「ああ、彼らも変わりたかったんだ。」と、そんな大切なことに気づけていなかった自分自身を、深く反省したのでした。
自分の価値観と向き合い仲間と共に深く考える経験の積み重ねには、ものすごく大きなパワーがあり、それが、子どもたちを大きく成長させ自立させていくことを、このとき初めて実感しました。それ以来、私は道徳のもつ力を本気で信じてみようと思うようになったのです。
一人では難しいことも、チームなら百人力です。教科担任制の中学校だからこそ、道徳は貴重な「共通言語」です。道徳を媒体として各教科・各学級がつながれば、相乗効果でよりよい学びを目ざせます。全国の先生方と子どもたちが、1時間でも多く、すてきな道徳の時間を過ごせますように。共にがんばってまいりましょう!
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