学習指導要領の方向性

学習指導要領のポイント

横浜国立大学大学院教授 髙木まさき

1.2030年の社会を見据えて――学習指導要領改訂の背景

平成29年告示の学習指導要領の背景について、中央教育審議会の答申(2016年12月、以下「答申」)では、現在の子どもたちが社会人となる2030年を念頭に置き、「社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難」としたうえで、「社会の変化にいかに対処していくかという受け身の観点に立つのであれば、難しい時代になる」と捉えています。

欧米の研究者によると、将来、子どもたちの65%は、現在存在していない職業に就くことになったり、今後10~20年程度で現在の仕事の半数近くが自動化されたり、人工知能に取って代わられたりするという「未来予測」もなされています。つまり、現在の学校での学びが、はたしてこれからの社会で通用していくのか、という大きな問いが投げかけられているのです。

さらに、学校現場の現実的な問題として、学力格差の広がりということもクローズアップされてきました。学力低位の子どもをいかにすくい上げていくかは、喫緊の課題となっています。

平成29年告示の学習指導要領では、こうした時代の流れの中で、子ども一人一人が未来の創り手として、決まった答えのない課題に積極的に取り組み、試行錯誤しながら新しい価値を創造できるようにすることを目ざしています。

2.「学びの地図」の提示――新しい学習指導要領の理念

このような背景に基づき、学習指導要領では、これからの社会を創り出す子どもたちが学校教育を通じて身につけるべき資質・能力とは何かを明らかにした「学びの地図」としての枠組みづくりが図られました。そこでは、教育課程が、学校と社会や世界との接点になり、現在の子どもの教育と未来とをつなぐ役割も期待されています。

そうした改善のために、答申では六つのポイントが挙げられていますが、ここでは直接国語科の指導に関わる次の三点を挙げておきます。

  1. 何ができるようになるか(資質・能力)
  2. どのように学ぶか(指導計画および学習・指導方法)
  3. 何が身についたか(学習評価)

(1)は、従来の「(子どもが)何を知っているか」「(教師が)何を教えるのか」から大きく転換しています。「何ができるようになるか」は、言い換えれば「(国語を)何のために学ぶのか」「(国語を学んで)どんな力が身につくのか」という教科の意義を明確化したものです。

国語科においては、「自分の思いや考えを深めるため、対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉え、その関係性を問い直して意味付けること」を「言葉による見方・考え方」と位置づけ、教科の本質的な意義としています。これは、例えば説明的な文章を読むとき、社会科や理科ならば書かれている内容を理解するところまでが求められますが、国語科では、内容がどう論理的に表現されているか、どう書かれているからわかりやすいのか、などについて考えることを意味しています。

次項では、(1)(2)について、具体的にどのように変わったかを解説します。

3.「見方・考え方」を踏まえた指導を――国語科はどう変わるのか

まず、構成上で平成20年度告示の学習指導要領と大きく変わったのは、「目標」と「内容」です。前項で述べた「(1)何ができるようになるか(資質・能力)」を次の三つの観点に分け、それぞれに対応した目標が立てられています。

  • 知識及び技能
  • 思考力、判断力、表現力等
  • 学びに向かう力、人間性等

また、「内容」は、それぞれ次のように二本柱で再編されました。

【知識及び技能】 【思考力、判断力、表現力等】

(1)言葉の特徴や使い方
(2)話や文章に含まれている情報の扱い方
(3)我が国の言語文化

A 話すこと・聞くこと
B 書くこと
C 読むこと

実際の学習内容・指導事項については、平成20年度告示の学習指導要領と大幅な変更はありません。ただ、言語能力の育成という点で、大きく五つの改善がなされています。

■語彙指導の系統化

【知識及び技能】では、小・中9年間を通して語彙指導が系統化されました。

小学校では、「身近なことを表す語句」(1・2年)、「様子や行動、気持ちや性格を表す語句」(3・4年)、「思考に関わる語句」(5・6年)が取り上げられ、話や文章の中で使うことが求められています。こうした語彙指導は、例えば、教科書では「言葉の宝箱」(2~6年)を使うなどして充実していくことができるでしょう。

中学校では、「事象や行為、心情を表す語句」(1年)、「抽象的な概念を表す語句」(2年)、「理解したり表現したりするために必要な語句」(3年)が取り上げられ、話や文章の中で使いながら自分の言葉として使いこなせるようにするとともに、語感を磨くことが求められています。こうした語彙指導は、令和3年度の教科書では、「語彙を豊かに――心情、様子、行為を表す言葉」(1年p300)、「語彙を豊かに――抽象的な概念、見方や考え方を表す言葉」(2年p296)、「語彙を豊かに――見方や考え方を表す言葉、慣用句・ことわざ・四字熟語・故事成語」(3年p284)を使いながら整理し、さらに「続けてみよう」(1年p20、2年p12、3年p12)などを利用しながら充実させていくことができるでしょう。

■情報の扱いに関する項目の設定

同じく【知識及び技能】に、「共通、相違」「原因と結果」(小学校)、「原因と結果」「意見と根拠」「具体と抽象」(小・中学校)などの「情報と情報との関係」や、「比較や分類」「関係付け」(中学校)などの「情報の整理の仕方」に関する項目が立てられました。

令和3年度の教科書では、各学年に位置付けられた情報教材「思考のレッスン・情報整理のレッスン」や、さまざまな場面で使える思考ツールや情報の可視化の方法をまとめた「思考の地図」(1~3年p9~10)などを活用していくことが効果的です。

また、デジタル教科書などICT機器を活用しながら、説明的文章で情報の関係を視覚的に捉えて整理するのもよいでしょう。

■「考えの形成」の重視

「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の全ての領域で、学習過程の中で「自分の考えの形成」を図ることが明確化されました。例えば「話すこと・聞くこと」「書くこと」では、教材下段で思考の過程を図表などで整理しながら示すなどしています。また「読むこと」の「学習」(手びき)では、「①捉える」(構造と内容の把握)、「②読み深める」(精査・解釈)、「③考えをもつ」(考えの形成、共有)の3段階に課題を構造化して示すなどの工夫をしています。

■主体的・対話的で深い学び

答申までの段階では「アクティブ・ラーニングの視点」として示されていたものです。前項で述べた「(2)どのように学ぶか」に対応しています。

「主体的・対話的」については、ある程度イメージしやすいと思いますが、「深い学び」が少し捉えづらいかもしれません。これは、具体的にいうと、例えば物語を読む学習では、ただストーリーを追うだけでなく、題名、人物、場面、心情など、読み取ったことの関係性をより多く発見し、読み方について自覚していく学びのことです。そのためには、小学校教科書では付録の「学習に用いる言葉」や「『たいせつ』のまとめ」、中学校教科書では、巻末付録「学習の窓一覧」などを使いながら、読みの観点を常に意識させていく指導が大切になります。

■言語活動例の整理・系統化

【知識及び技能】と【思考力、判断力、表現力等】は言語活動を通して身につけさせていくことが大切です。これは、平成20年度告示の学習指導要領の考えと変わっていません。

平成29年告示の学習指導要領では、言語活動例を整理・系統化し、現場の負担軽減とともに、創意工夫の幅を広げられるように改善しています。


これらの5項目は、国語科の「見方・考え方」である、「対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉え、その関係性を問い直して意味付け」ながら言葉への自覚を高めるための改善といってもいいでしょう。

このほか、「学年別漢字配当表」の改訂も行われ、下記の表のように、都道府県に用いる漢字を小学校4年生までに学習することになりました。

学年別漢字配当の変更

移動した漢字

4年

5年

賀 群 徳 富

6年

中学校

茨 媛 岡 潟 岐 熊 香 佐 埼 崎 滋 鹿 縄 井 沖 栃 奈 梨 阪 阜

5年

4年

囲 紀 喜 救 型 航 告 殺 士 史 象 賞 貯 停 堂 得 毒 費 粉 脈 歴

6年

4年

胃 腸

5年

恩 券 承 舌 銭 退 敵 俵 預

平成29年度告示の学習指導要領の実施にあたって、先生方には、必ずしも大幅な方向転換を迫るものではないと考えられますが、国語科の「見方・考え方」を踏まえ、言語活動をより充実させることで、言葉への自覚を高め、主体的・対話的で深い学びの実現に向けてご尽力いただければと思います。