第1回 授業の準備をしましょう

解説:及川仁美(盛岡市立厨川中学校教諭)

新学期が始まります。よりよい道徳の授業を目ざして、授業づくりで大切にしたいポイントを確認していきましょう。

年間指導計画を確認する

授業を構想する前に、まずは、その授業(教材)が年間指導計画の中で、どんな立ち位置にあるのかを確認しておきます。

○ 今年度、その学年では同じ内容項目の教材は幾つあるか。そして、本教材はその中の何番目か。

○ 単独で指導する計画か、ユニット(大きなテーマで複数時間を一まとまりとして計画)を構成する一部なのか。ユニットなら、その中のどんな役割を担う教材なのか。

○ 子供たちにとって、どんな時期に学ぶ教材か。行事や進路との関係も確認したい。

それぞれの授業は独立しているのではなく、年間35時間を通してバランスを考えて各学校で配置されたものです。行事や突発的な出来事に合わせて急に変更したりすることなく、年間指導計画に従って確実に行うようにしましょう。

「ねらい」を明確にし、課題を設定する

次に、この授業で、子供たちに何を考えさせたいか、何に気づかせたいのかを明確にしておきます。

このとき留意したいのは、大まかな内容項目を押さえるだけではなく、その教材がもっている特徴を捉えて、内容項目を焦点化することです。

同じ内容項目でも、そこにはさまざまな側面がありますので、この授業で考えさせたいのは何かを確認しておく必要があります。各教科書会社から出ている教師用学習指導書を参考にするのもよいでしょう。

次の例で考えてみましょう。

○ この教材の内容項目はD(19)「生命の尊さ」となっています。

○ ねらいは「命の大切さを考えさせる」でよいでしょうか?
 (教科書、教師用学習指導書等に示されている「課題」や「ねらい」を、指導する生徒の実態に照らしながら検討するのがよいでしょう。)

○ 「生命の尊さ」には多くの側面があります。
・今、ここにいることの奇跡
・つながっているきずな
・限りある「命」の重み
・全ての生き物に平等な命
・唯一無二の私たちの存在……

○ 授業では、「命」をどの方向から考えるのか、教材をしっかりと読み、イメージを明確にすることが大切です。

また、中学生ともなれば、臓器移植や延命治療といった、「命」に関わる複雑なテーマと向き合わせることもあるでしょう。そういった、デリケートな問題をはらんでいたり価値観や評価が分かれたりする問題については、安易に扱ったり、教師個人の価値観を押し付けたりすることのないように、注意を払いたいものです。

内容項目は多面的で立体的なものです。一年間の中で複数回扱う場合は、それぞれ違う側面から迫ったり、しだいに深めたりする指導計画になっている場合が多いでしょう。全体のバランスの中で、今回の授業はどんなねらいで行うのか、目ざしたい子供の姿はどのようなものかを確認することは、授業を組み立てるうえで非常に重要なことです。そのうえで、必然性があり、子供たちが思わず考えたくなるような課題を設定していきましょう。

子供たちの「実態=レディネス」を押さえる

ねらいが明確になったら、そのことに対する子供たちの実態がどうであるかを見取っておきます。同じねらいの教材でも、目の前の子供たちの状況によって、授業の組み立ては変わってくるからです。

例えば、内容項目C(16)「郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度」に関わる教材で授業を行うとします。そのとき、

[A]日頃から地域の郷土芸能に参加している子供がたくさんいる。または、地域行事に学校として深く関わり、
地域の人々とのつながりが強い。

[B]転入者が多く、地域のつながりは希薄で、子供たちも地域行事等に参加する機会が少ない。 

AとBとでは、子供の実態が大きく違います。AとBが入り交じった複雑な地域もあるでしょう。当然、ねらいに対する子供の心の状況も違っていますので、導入の方法や授業の組み立てを考える材料として、ぜひとも押さえておきたいことです。

Aであれば、これまで関わってきた行事への感想を語らせて導入とする方法もあります。Bであれば、その地域にある行事の認知度を確認するところからスタートしてもよいでしょう。他にも、もっと大胆なアプローチも考えられるかもしれません。

実態を把握するには、日常の学級や子供の様子を振り返ってみる他に、アンケートによる意識調査も有効です。アンケートの内容を工夫して、授業の導入で活用することもできます。

ねらいに対する実態とは少し違いますが、子供たちの家庭環境や生育歴に対する心配りも大切にしたいものです。特に、家族を扱う教材には留意しましょう。少しの気遣いが、不用意な言葉で子供たちを傷つけたり、つらい経験を思い出させたりすることを防ぐことにつながります。