第2回 授業の「組み立て」を考えましょう(導入~展開)

解説:及川仁美(盛岡市立厨川中学校教諭)

準備が整ったら、授業の組み立てを考えます。「①導入」→「②展開」→「③終末」の流れに沿って、ポイントを確認してみましょう。

①導入

導入はまさに授業の「つかみ」です。子供たちの「おもしろそうだ。」「何だろう。」といった授業への関心・意欲を高め、「みんなといっしょに考えてみたい。」という気持ちをもたせるように工夫します。
幾つか例を挙げてみましょう。

○ 調査データのグラフや表を活用する。

 [例]中学生のネットトラブルに関わるデータから考える。

○ 新聞記事を活用する。

 [例]短い投書を読み、問題意識を共有する。

○ 事前アンケートの結果を示す。

 [例]テーマに関わる体験談などを交流する。

○ 本時で扱う価値に関わって、子供たちの問題意識を高めるような発問をする。

 [例]「本当の友達って、どういう関係だと思いますか?」

他にも、映像を見る、音楽を聴くなど、さまざまな方法が考えられますが、大切なことは、本時で考えさせたい道徳的な価値に意識を向けさせるようにすることです。課題設定やテーマに自然につながっていくような導入を、ぜひ工夫してみましょう。

②展開

展開では、教材を提示し、話し合い活動や書く活動、体験的な学習などを通して、ねらいに向かって学びを深めていきます。ここでは、展開前段の「教材提示」と、中心となる「話し合い活動」に焦点を当てて考えてみます。

[教材の提示]

一般的には、教師が教材文を読むところから始まりますが、話し合いにたっぷりと時間をかけたいけれど教材が長い、といった場合には、事前に読ませておいたり、2時間続きでの授業を設定したりすることも考えられるでしょう。動画や音声が準備できる場合は、効果的に取り入れてもよいと思います。

[発問の組み立てと話し合いの工夫]

まず、核となる中心発問を決め、その他の発問を考えていくというのが基本的な方法といえるかもしれません。本時で考えさせたい「ねらい」に迫る発問を中心に据え、それを支える発問を組み合わせていくものです。中心発問が十分に吟味され、適切に発問が組み立てられていれば、子供たちは深く考え大切なことに気づいていくことができるでしょう。

話し合い活動も、ペアワークやグループ討議などさまざまな形態が考えられます。ここでは、話し合いを活性化させるための工夫例を、幾つか紹介します。

テーマ発問で、話し合いを仕組む

物語のあらすじ確認などの発問は避け、テーマに関わるような大きな問いで話し合いを設定します。子供たちに何を考えさせたいかの本質を見極めて、そこへ向かう発問を投げかけるようにします。場面における主人公の心情を問うような、いわゆる場面発問ではなく、主題となる価値や内容を問うような発問のため、活発な意見交換や深く考える姿が期待できます。

授業には確かなねらいがありますから、本時で何を考え何を学んだのかを、子供が自分の言葉で語れるようなゴールを目ざしていきます。また、話し合いが、一方通行ではなくキャッチボールになるように、教師がファシリテートしていきたいものです。

[例] 
 ・自分は○○についてどう考えるのか。
 ・○○が大切なのはなぜだろう。
 ・本当の○○とはどういうことだろう。
 ・○○と△△にはどんな違いがあるのだろう。

付箋に書かせて議論にもち込む

意見を付箋に記入させ、「そのまま使用」することで話し合いの活性化をねらう方法です。参加意識をもたせ、意見をもつことへの積極性を高める効果も期待できます。

ア.ワークショップ型

ある議題に対して、各自の意見を付箋に書かせ、出された意見を黒板上でグルーピングしていきます。意見が可視化されることで議論の中での自分の立ち位置がわかり、より考えを深めることができます。全体の意見を掌握しやすく、教師が意図的に指名したり論を展開したりすることも可能です。また、意見交換を経て考えを変えたり、新たな意見を述べたりしながら、話し合いを深めていくことが期待できます。

イ.主人公へのアドバイス型

本音を出しづらいテーマ(友情、いじめなど)の際に有効です。あえて主人公に同化させず、一歩引いた立場から登場人物にアドバイスをするという形を借りて、意見交換させます。

例えば、女子の友人トラブルを扱った教材では、主人公の行動を場面絵で示し、言動を変えるチャンスだったと考える場面にアドバイスを書いた付箋を貼らせ、意見交換を行います。特に、主人公の行動に幾つかの段階があったり、複数の場面で構成されたりする教材で、話し合いを深める場合に活用できる方法です。

思考ツールを活用する

考えをまとめたり交流したりする場面で思考ツールを活用すると、意見の可視化ができるため、話し合いが活性化したり、より深く考えたりすることが期待できます。

ア.心情メーター

選択肢の間に幅をもたせ、二択の間の「もやもや」を表現させます。この幅の中のどこに自分の気持ちを置くかをミリ単位で真剣に悩ませることで、選択の裏側にある複雑な気持ちと向き合わせることができます。グループでの意見交流や、黒板に同じものを貼って学級全体で集約することも容易です。また、意見交流の前後で比較させると、お互いの気持ちの変化を共有することができます。

イ.ベン図

対立する行為や考え、物事を比較し、共通点や相違点を考えるのに有効です。特に、共通する事柄がピックアップされるので、新たな気づきや思考の深まりにつなげることができます。

▼ 他にも、マトリックス、イメージマップ、座標軸、フィッシュボーン図、クラゲチャート、ピラミッドチャートなど、さまざまな思考ツールがあります。インターネットで検索してもたくさんヒットしますので、ぜひ探してみてください。教材の内容に応じて、効果的なツールを選択して活用してみましょう。

「予定調和」を崩す追加資料を活用する。

いじめや友情といったテーマでは、「正しいけれど本音ではない」「きれいごとに終始する」といった状況に陥りやすいものです。

話し合いに一石を投じるような追加資料を活用することで、子供たちが思わず本気で悩み、深く考えてしまうような「一押し」を工夫してみましょう。

[例]
・ 「いじめはダメ」とまとまりかけたところへ、「大人はきれいごとばかり。そんなんでいじめはなくならない。」という小学生の意見を読ませ、どう返答するかを問います。
・ 「環境のために空き缶を拾う」という話題に対して、日本のリサイクルと海外におけるデポジットの現状を示して、「本当にその結論でよいのか」と再考させます。
・ 「途上国への支援の重要性」を考えるときに「支援という名の依存の現実」の記事を読ませて、より望ましい支援について意見交換させます。

(「問題解決的な学習」や「体験的な学習」の取り入れ方については、別の項で紹介していますのでここでは省略します。)

教材の内容に応じて、展開は多種多様に工夫できます。しかし、忘れてはならないのは、「ねらいに向かって学びを深める」という目的です。活動やツールは、あくまでも「手段」です。うまく活用できれば、授業の可能性は大きく広がります。しかし、「たくさん話したけれど言いっ放しで終わってしまった」「おもしろかったけれどよくわからなかった」では意味がありません。

最終的に、子供たちをどこに連れていきたいのかを明確にしたうえで、効果的な活用を目ざしていきましょう。