第3回 授業の「組み立て」を考えましょう(終末)

解説:及川仁美(盛岡市立厨川中学校教諭)

③終末

終末は、一時間のまとめを行う時間です。大切にしたいのは、その時間で深めてきた道徳的な価値を振り返り、実践していこうという意欲を高めさせることです。

教師の説話や新聞記事の紹介、名言を提示するなど、さまざまな工夫が考えられますが、どんな方法を取るにしても、それが学びの深まりと直結しているかどうかをよく考えて活用するようにするとよいでしょう。

また、ノートや学習シートを使ってまとめを書かせることが多いと思いますが、その際は、単なる「感想」にならないように留意します。子供への指示を焦点化することで、書かれる内容はぐんと違ってきます。それは、「ねらい」に沿って自分の学びを振り返り、自分自身を見つめるようになるからです。

× 「今日の授業1の感想を書きましょう。」

→ 今日はたくさん発言した。

→ いろいろな人の意見を聞くことができて、勉強になった。

○ 「『感謝』についてどんなことに気づいたり考えたりしたか、一時間の自分を振り返って書きましょう。」

→ 「ありがとう」と言うことが感謝だと思っていたけれど、言葉だけでなく、行動で示していくことも大切なんだと気づくことができた。

→ してくれた人に返すだけでなく、そこで感じた感謝を他の人に返していくやり方もあるんだと知って、それってすごいと感じた。自分もそんなふうに行動したい。

このとき、「新しく考えたこともぜひ付け足して」と言うと、子供たちはさらに張り切って書くようになります。

授業中の観察や発言と併せて、振り返りの記述は「評価」をするうえでも大切な資料となりますので、学校として何をどのようにしていくのかをしっかりと共通理解しておきましょう。

毎時間使用する道徳ノートでも、ポートフォリオ型の学習シートでも、きちんと時間を保障して書かせたうえで、適切に見取っていくことが大切になってきます。取り組みの自己評価なども併せて書かせておくと、さらに有用な資料となります。

フィードバックの工夫

授業後に適切なフィードバックを行うことで、授業での学びをさらに深めたり、日常の学級経営につなげたりすることができます。すぐに実践できるものとして、二つ挙げておきます。

学級通信を活用する

終末で書かせた振り返りをまとめる形で、学級通信を出してみましょう。授業では多くても数名の意見しか交流できませんが、通信を使えば全員分でも共有できます(どこまで載せるかはケースバイケースです。子供たちの人権に対する配慮が必要です)。

より多くの意見を集約したり、授業では扱えなかった個性的な意見も適切なまとめと共に掲載することもできます。それらを短学活などを利用して読み合うことで、新たな気づきを促すこともできます。自分の意見も取り上げられたという、子供の肯定感を高められる側面もありますので、ぜひ上手に活用したいツールです。

掲示物を工夫する

授業で作成した成果物がある場合は、積極的に掲示を行いましょう。また、一年間(または学期ごと)の道徳の学びを年表のように掲示したり、毎時間のワンポイントや心に残った名言などを継続して掲示することもお勧めです。事後に見て、授業を思い起こしたり、気持ちを新たにしたりすることができます。

おわりに

私がまだかなり若い頃、頻繁に起こる生徒指導の問題に日々振り回されていた時期がありました。生徒対応だけでいっぱいで、自分の指導を振り返る余裕もありませんでした。そんな中、学年主任が言った言葉。「道徳やるぞ。」「後追い指導にだけ走り回っていても未来はない。遠回りに見えるかもしれないが、授業を建て直し、道徳もちゃんとやろう。学力をつけ、心を耕さなければ子供たちは変わらない。全てはリンクしているのだから。」と。

最初は正直、すぐに成果が出ないことに対してがんばるのが苦しかったです。でも、じわじわと子供たちは変わっていきました。問題はゼロにはなりませんでしたが、張り詰めた空気が和らぎ、子供たちが素直に話を聞き自分のことを語るようになりました。そして何よりも、「ああ、彼らも変わりたかったんだ。」と、そんな大切なことに気づけなかった自分自身を、深く反省したのでした。

説教や生活指導ではない「心の耕し」の積み重ねにものすごいパワーがあることを、このとき知りました。それ以来、私は道徳のもつ力を本気で信じてみようと思うようになったのです。

一人では難しいことも、チームなら百人力です。教科化はきっと、みんなでいっしょに本気で道徳と向き合ってみるチャンスです。全国の先生方と子供たちが、一時間でも多く、すてきな道徳の時間を過ごせますように。共にがんばってまいりましょう!