山崎先生の
授業アイデア
山崎 正明
北翔大学教授
日々の美術の授業に役立つ,さまざまなアイデアをご紹介します。
山崎正明(やまざき・まさあき)
1957年北海道生まれ。北翔大学教授,元千歳市立北斗中学校教諭。北海道教育大学札幌校卒業。埼玉県で講師を務めた後,北海道の公立中学校教諭に。自身のブログ「美術と自然と教育と」で,授業実践や生徒作品などを紹介している。光村図書中学校『美術』教科書の編集委員でもある。
第2回 「描く楽しみ」を味わう授業
2016.06.01
かつて私は,中学校に入学して間もない生徒たちに,水彩絵の具の使い方を丁寧に指導していました。透明描法,不透明描法などについて練習をさせ,それを基礎・基本として絵を描かせていました。しかし,授業改善を重ねた結果,そのようなことは軽く触れるだけになりました。そもそも生徒たちは小学校で水彩絵の具を使ってきていますし,生徒たちが本気で「こう表現したい!」と思えば,自分で工夫して描いてしまうということがわかったからです。そのことに気づいてから,私は中学校美術の最初の授業で,生徒たちが「描くおもしろさ」を味わうことに重点を置くようになりました。
光村図書の中学校教科書『美術1』P8-11には,「見て描く楽しみ」という題材があります。生徒たちが鉛筆,ペン,水彩絵の具を使って,自分の身の回りのものを描くという内容で,描くことのおもしろさを味わい,描くことがいっそう好きになってほしいという願いを込めた題材です。小学校で図工が嫌いだった子は,「うまく描けないとだめだ」と思い込んでいます。そういう子どもたちに「うまく描こうとしなくても大丈夫だよ」と言葉で伝えても,なかなか響きません。ですから,この題材で気軽に描く体験を通して,「絵を描くって楽しい」ということを実感させたいと思います。
見て描く楽しみ 『美術1』P8-9
私がこの題材で授業する場合は,透明水彩絵の具を使わせます。また,はがきサイズの小さな紙をたくさん用意して,「1時間に何枚描いてもいいよ」,「絵はがきとして,おじいちゃんやおばあちゃんに送ってもいいよ」と言って,気軽に取り組ませます。生徒の中には,「色を塗ったら変になるのでは」などと心配する子もいますが,失敗を恐れずどんどん描かせることで,そういう思いを払拭したいと考えています。
それから,この題材では,何を描くかが,生徒たちの意欲を大きく左右します。例えば花を描くことは,自然の命を感じながら,美しさを再発見する価値ある時間になります。また明るく華やかな教室で描くことで,優しい雰囲気にもなります。部活動の道具や愛着のあるものを描くという選択肢もよいでしょう。また,外に出て花壇の花や雑草を描いたり,「見つけた春」などというテーマを設けて,風景を描かせたりしてもよいと思います。風景画を描くというと,何時間もかけて大作を仕上げるイメージですが,そうではなく,もっと気軽に取り組むこともできます。『美術1』P13 に掲載されている,画家・佐藤泰生さんの,クレヨンや水彩でさっと描いた富士山のスケッチのように,気軽に外で描く楽しみを味わってほしいと思います。
前勤務校での授業の様子。花を描く生徒たち。
また,教科書には,絵を描く生徒の様子が掲載されていますので,この写真を見て気づいたことを自分の表現に取り入れ,表現の幅を広げる喜びを味わってほしいと思います。学んだことを活用してみたいと思えるようなしかけとしての写真だと考えています。
「見て描く楽しみ」には,作家の作例もいくつか紹介されていますが,きっちり描いてあるというより,作家が楽しみながら描いたことが伝わってくるような作品が掲載されています。ドラクロワがこのように,パステルで花を描いていたというのは意外ではないでしょうか(下画像参照)。
見て描く楽しみ 『美術1』P10-11
右上に,ウジェーヌ・ドラクロワがパステルで描いた作品,「花の習作」が掲載されている。
生徒たちが真剣に,そして楽しそうに,表現に取り組む姿に出会えることは美術教師としての大きな喜びです。この題材を通して,生徒たちに「もっと描きたい」という気持ちが生まれることを願ってやみません。
目次
【第1回】 「自己評価」を授業づくりに生かす <2016.04.18>
【第2回】 「描く楽しみ」を味わう授業 <2016.06.01>
【第3回】 「美術室づくり」の工夫(1) <2016.07.14>
【第4回】 「美術室づくり」の工夫(2) <2016.07.21>
【第5回】 作品展示で大事にしたいこと <2016.09.07>
【第7回】 「存在証明」としての自画像 <2016.10.20>
【第8回】 他教科とのつながりを意識する――技術科との連携 <2016.11.30>
【第9回】 「対話による美術鑑賞」のすすめ <2016.12.27>
【第10回】 よりよい授業のために <2018.01.09>
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くるくる回る風車と一緒に,光村図書の歴史をたどります。