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第11回 ネガティブな断定にとらわれそうになったら ――ラベリング(Labeling)

子ども理解の 「そこ大事!」

2022年3月29日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

第11回 ネガティブな断定にとらわれそうになったら
――ラベリング(Labeling)

「ラベリング」の効果

心理学の用語に、「ラベリング(Labeling)」という言葉があります。
「ラベル」とは、商品などについているラベルのことです。「タグ」という言葉にも同じような意味があり、最近ではインターネットの世界でも「タグ付けする」といった表現が増えています。

「ラベリング」も「タグ付け」も、人や場所、現象などを詳しく説明するために行われます。
例えば、「あの子は努力家だ」「あの子はやさしい」「あの先生は信頼できる」と、人に対してラベリングがされることもありますし、「困ったらあそこに行けば教えてくれる」「あそこに行くのは危険だ」など、場所についてのラベリングが行われることもあります。
そして、ラベリングは、現象に対して行われることもあります。例えば、1歳半ばから3歳ごろの子どもが「イヤだ!」「自分でやる!」「あっち行って」という気持ちを強くする時期を「反抗期」とよぶ、これも一つのラベリングです。

人は、目の前に不確定な要素や、不確実な状況がそのまま放置された状態にあり続けることが苦手です。そのため、早く何らかの解決をして、自らの納得を引き出したいと考えます。
そこで、ラベリングをすることによって、見慣れない人や物、あるいはよくわからない状況についてある程度わかったような気持ちになり、安心感が生まれるのです。
ラベリングには、「ああ、そういうことだったのね」という安堵の気持ちを引き出す効果があるといえます。

間違った方向のラベリング

その一方で、気をつけておかねばならないラベリングも、世の中には多数存在します。それは、否定的な見方によって一方的・断定的に評価を下すようなラベリングです。「レッテルを貼る」と表現されることもあります。
「あの子はキレやすい」「あの子は褒めどころがない」「あの子はクラスをかき乱す」という、ネガティブな側面だけを強調するような極端なラベリングや、「あの子は発達障害だから」「あの子はもともと素行がよくないから」「あの家庭は愛情不足だから」などの安易な決めつけによるラベリングは、まさにその典型といえるでしょう。

これらのラベリングには、「相手を正しく理解したい」という敬意が全く感じられません。むしろ、関わりの糸口を見いだすことを早々に諦め、まるで突き放すかのような冷たさすら感じさせます。
「早く幕引きしたい」という気持ちが優先されると、このような冷たいラベリングも生まれやすくなるのです。

子どもと関わるときには、マイナス方向に偏ったラベリングに陥らないよう十分に留意し、「プラスの側面のラベリング(あの子はこれができる、あの子は実は温かい関わりを求めている、など)」に意識を向けることが大切です。

子どもどうしのラベリング、子どもから大人へのラベリング

ラベリングは、子どもどうしの間でも行われますし、子どもから大人に向けられることもあります。ですから、「あの子、苦手」「あの先生、嫌い」など、相手に対する情動的な反応を引き起こすきっかけになることも十分にありえます。
なかには、一度そうしたラベリングをしてしまうとなかなかそれを覆すことができず、その相手と一緒の空間にいることすらダメになってしまうというケースもあります。

特に、「いつもと同じだと安心できる」「繰り返しがあることで理解しやすくなる」といったパターン的な処理の傾向が強く、臨機応変な対応が苦手な子どもの場合、「あの子の存在がダメ」「この先生、無理」というラベリングが原因で、教室に入れなくなったり、活動に参加したがらなくなったり、学校へ行き渋ったりということが生じやすくなるものと留意しておかねばなりません。

前述のように、ラベリングには「自分の安心感を確保したい」という目的があります。そのため、これらのような反応を「わがまま」「自分勝手」と捉えずに、まずは、「相性が合わない人と無理に過ごさなくてよい」という安心感をもたらすようにしましょう。
それと同時に、その子が相手の新たな一面を発見したり、別のプラスの側面もあることに気づけたりするような関わりを続けてみてください。例えば、周囲の大人が「あなたはそう受け止めたんだね。私はそこまで強い気持ちは感じていなかったなあ」と程度の違いを表現したり、別のエピソードも加えながら「あなたの言う一面もあるし、別の一面もあるみたいだね。多面的に相手を見ることができると関わり方も変わるよ」と伝えて、相手に向ける視野を少しずつ広げたりしていくとよいと思います。

時間をかけて、「新しいラベルに貼り替えることができる」という経験をさせることも大切にしてほしいと思います。

今日の「そこ大事!」

  • 「ラベリング(Labeling)」は、事物に名前を付け、詳しく説明することを意味する心理学用語である。
  • ラベリングによって安心感がもたらされることもあるが、一方的に相手を断定してしまうような間違ったラベリングもある。プラス面のラベリングに向かうよう意識することが必要。
  • 子どもたちの中には、ラベリングがきっかけで「あの子、ダメ」「あの先生、無理」という反応が生まれることがある。それを「わがまま」と捉えずに、「相性が合わない人と無理に過ごさなくてよい」という安心感をもたらすとともに、時間をかけて「新しいラベルに貼り替えることができる」という経験をさせることも大切にしよう。

〈参考文献〉

岡本夏木・清水御代明・村井潤一 監修『発達心理学辞典』ミネルヴァ書房(1995年)pp.682-683

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。

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