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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第1回 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう

2016.05.09

読者の皆さん,こんにちは。特別支援学校の地域支援コーディネーターとして,小学校・中学校・高校等を巡回している川上です。「みつむら web magazine」での連載の機会をいただいたので,通常の学級で取り組む特別支援教育のことを取り上げていきたいと思います。

「通常の学級においても特別支援教育を」という時代になって早10年目を迎えようとしています(※)。この10年の間に,発達障害がある子どもたちや,医学的には未診断でも配慮を要するとされる子がクラスに複数名いることが,もはや当たり前といえるような状況になってきました。「10年ひと昔」と言います。これまでに蓄積されてきた対応策や支援プランの情報などが,セミナーや書籍やインターネットなどでいとも簡単に手に入る時代になりました。

ところが,実際には,支援を要する子への対応はやっぱり難しいと言われることが少なくありません。教育現場は日々の実践を振り返るゆとりもないくらい多忙です。できることなら,すぐにでも取り組めるような“手立て”や効果的な“技”を学びたい(本音としては「すがりたい」?)と願う方もいらっしゃることでしょう。しかし,こうした焦りが,強引な指導につながってしまったり,その子のつまずきの背景を考慮しない支援になってしまったりしているということはないでしょうか。

子どもは促成栽培のようには育ちません。「今すぐに変わってほしい」という願いが強くなると,さまざまなルールで縛ったり,強く言い聞かせたりするといった対応がどうしても多くなりがちです。また「指示にしたがわない」「指導が入らない」などのマイナス表現がつい口から出てしまうのは,教師の焦りの裏返しであることが少なくないのです。もし,「指導が入る」ようにしたいのであれば,子どもを変えようとするのではなく,「先生の話は聞く価値がある」という「ラポール(信頼関係)」づくりが欠かせません。

画像,ラポール

「焦りは禁物!」そう頭ではわかっていても,時間がないときや,次の活動が迫っているときなど,どうしても気持ちにゆとりがなくなっていきます。そんな瞬間をまるで狙っていたかのごとく,授業から抜け出したり,床にひっくり返ったりする子どもが出てくることがありますよね。こんなときは,どうしても周りの教師からの視線が気になってしまうものです。「また手こずっているわね」とか「早くこの子をなんとかしろよ」といった気持ちで見られているのではないかと考え始めると,焦りはより強くなっていきます。そうした動揺が大きな声,強い指導につながり,結果的に子どもの混乱を招きます。

連載の第1回にあたって,新任・若手の先生方にお伝えしたいことは,「知らぬ間に,同僚や先輩からの視線を気にしてしまっていないだろうか」ということです。焦って強引に関わっても,うまくいきません。とにかく「力を蓄えながらでよい」と考えるようにしましょう。長期的な見通しをもち,すぐに結果が出なくてもいい,この子(たち)としっかりとしたラポールをつくるんだ,そんな覚悟で日々の教育活動を進めて行きましょう。

今日のポイント

  • 子どもは,「ルール」よりも「ラポール」にしたがう。
  • 子どもは促成栽培のようには育たない。
  • 周りの教師の目を気にしすぎると,焦りが生まれやすい。

※ 平成19年4月,「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ,すべての学校において,障害のある子どもたちの教育のいっそうの充実が図られることとなった。

〈参考文献〉
金 大竜(2016)『一人ひとりの凸凹に寄り添う 「気になる子」「苦しんでいる子」の育て方』小学館

次回は,子どもの「お試し行動」について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura