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中学2年 段ボールベッドへの思い 川崎市立川崎高等学校附属中学校

道徳科授業レポート(中学校)

2025年12月16日 更新

光村図書 道徳課

編集部による授業見学レポート。今回おじゃましたのは、川崎市立川崎高等学校附属中学校。「段ボールベッドへの思い」(中学道徳2 きみが いちばん ひかるとき・光村図書)の授業の様子をお届けします。

見学にあたって

  • 2年生で職場体験学習を行う中学校が多いと聞きます。いっぽうで、働くことをそれほど具体的には考えられない時期でもあるのか、この時期の中学生は、職業選択について自分の好みや経済性に目が向きがちという話も聞こえます。中学2年生は、この授業で「働く」ということをどのように捉えるのか、興味深く見学しました。
  • 川崎市立川崎高等学校附属中学校では、1コマ45分で授業が構成されていました。

授業の概要

  • 内容項目:C(13)勤労
  • 主題名:社会に貢献する心
  • ねらい:避難者の健康を考えて段ボールベッドを考案し、設計図を無償で公開した会社の人の話を通して、勤労が社会貢献につながることを知り、働くことのさまざまな意義について考え、人や社会のために働いていこうとする意欲を育てる。
  • 生徒数:40人程度
  • 教材のあらすじ:職場訪問学習で、段ボールを作る会社を訪ねた中学生2人。対応してくれた社員は、お客さまの要望をきちんと製品にすることの大切さや、東日本大震災をきっかけに段ボールベッドを開発したことを語る。現在、段ボールベッドの設計図は無償で公開されているが、その背景には、利益の追求にとどまらない思いがあった。

導入:アンケートの結果を共有する〈2分〉

先生

みなさん、今、総合の授業で、何について考えていますか?

生徒

職業。

先生

今朝やってもらった、「将来働くときに、何を大切にしますか」というアンケートですが、何が一番だったと思う?

生徒

お金。給料。

生徒

やりがい。好きなこと。

先生

みんなの回答をテキストマイニングしました。
(テキストマイニングの結果を教室前面のモニターに表示)
「環境」だったり、「お金」だったり。でもいちばん大きいのは「やりがい」です。みなさんの気持ちには、こういうことを大事にしていきたい、というのがあることがわかるね。★1
今日は、「働くことの意義」について考えていこうと思います。
(「働くことの意義」と板書)
きっといろいろな考えがあるよね。みんながもっているものもあるし、周りの大人がもっているものもあるし。そのさまざまなものについて考えていきたいと思います。

編集部のまなび

★1 導入にかける時間がとても短く、すぐに教材に入っていきました。事前のアンケートの結果をテキストマイニングを用いて視覚的に示すなど、生徒が課題を把握しやすくなるよう工夫されていました。導入に時間をかけすぎず、生徒の意識も引きつける、効率のよい導入だと感じました。

「段ボールベッドへの思い」を読み、登場人物を確認する〈5分〉

先生

(先生による朗読の後、4人の登場人物を確認)

段ボールを作る会社の人の思いを考える〈9分〉

先生

教材には、「多くの種類の段ボール箱を作って」いるって書いてあったけど、いろいろな段ボール箱って、どんなものか、想像つく? ワンタッチで組み立てられるものとか。特殊な形をしていたり、それだけのために作られたものとか、わかるかな。

生徒

家電の段ボール。部品に合わせて、いろいろ凹凸している。

先生

そうだね、家電の段ボール。わかる? ねじとか、部品に合わせていろんな形をしているよね。他には?

生徒

ペットボトルの入っている箱。取っ手がついているやつ。

先生

そういうのもあるね。ワインの瓶の形に合わせたのとか、魚用の、水が漏れないのとかもあるんだよね。みんな、あんまり思いつかないかな。★2
じゃあ、この会社の人は、どんな思いで段ボール箱を作っているんでしょうか。近くの人と話してみてください。
(1、2分の話し合いの後、先生が指名)

生徒

お客さまが必要としているときにすぐに用意して、役に立ちたい。

先生

同じ意見だったところ、ある?(挙手を促す)

生徒

会社の人も震災を経験しているから、同じつらい思いをしている人の役に立ちたいと思ったんじゃないか。

先生

他には?

生徒

さっきの特殊な段ボールとか、なかなか思いつかなかった。段ボールって、特に注目して考えることがないから、感謝のお便りが届くとかは少なそう。そういうやりがいは、あまり感じられない気がする。★3

先生

確かに段ボールって、注目してないよね。私も注目してなかった。
段ボールベッドって知ってた? 知ってはいる人?(数人が挙手)
みなさん、エコノミークラス症候群とかきいたことありますか? 震災関連で亡くなった人って、どのくらいいると思う? 4000人ぐらいだそうです。避難所って、見たことありますか? どんなふうになっているか、知ってる? どこで寝て、どんな生活しているのかね。(写真を提示して)なんだかプライバシーとかないよね。どれくらいの生活か、想像できるかな。もしかしたら数週間、それよりもっと先がわからない状況で生活しています。

編集部のまなび

★2 思いの外、生徒は「いろいろな段ボール箱」の具体例が思いついていない様子でした。ここは実物の写真などを用意して、生徒に見せられるように準備しておけばよかったのではないかと感じました。授業後、先生にその質問をしてみると、この後、段ボールベッドの実物を見せる予定だったので、あえて、そちらへの「驚き」を残しておくために、提示しなかったとのこと。「なるほど!」と思いました。ねらい通り、生徒たちの「驚き」につながっていました。

★3 「やりがい」の中身が、感謝される(見返りがある)ことだと感じている生徒がいることに気がつきました。この後の話し合いを通して、「やりがい」の中身が変容していったように感じました。

段ボールベッドの実物を組み立て、使ってみる〈6分〉

先生

ではこれから、みんなに段ボールベッドの実物を見せたいと思います。★4

生徒

わあ!!(全体から声が上がる)

先生

組み立ててみよう。
(生徒にも手伝ってもらい、段ボールベッドの実物を組み立てる。組み立て方を説明しながら)
会社の人に電話して、売ってもらったんだよ。「Jパックス株式会社」って書いてあるでしょ。このお話の会社だよ。
(段ボールベッドが完成したタイミングで)
はい、寝てみたい人?(挙手を募って、Aさんを指名)
はい。靴を脱いで、寝てみてくれる? どうかな。

Aさん

(実際に寝てみて)しっかりしている。安定している感じ。

先生

寝てみた人に、質問はない?(見ている生徒に対して挙手を募る)

生徒

温かさは?

Aさん

冷たくはない感じ。

生徒

寝られそう?

Aさん

枕があれば。

生徒

潰れそう?

Aさん

安定感があって、全然心配ない。

先生

作り方も簡単だったよね? 仕切りがあったり、貴重品が入れられたり、プライバシーもある程度守られる。

編集部のまなび

★4 先生が教材の基になった「Jパックス株式会社」に問い合わせ、本物の段ボールベッドを取り寄せたそうです。本物が提示された瞬間、生徒がわっと湧き、関心が一気に高まった様子が伝わってきました。

設計図を無償で公開した思いについて考える〈5分〉

先生

この会社は、段ボールベッドの設計図を無償で公開しちゃったんだけど、これ、どう思いましたか。無償ってことは、利益が出ないってことだよね。どうして他の会社も作れるように、ただで公開したんだと思う?
(1分半程度、隣の人と話し合わせてから挙手を募る)

生徒

利益もあるけど、命のことが大事だったから。命はお金に換えられない。

生徒

有料でやると怒られるから。SNSとかで叩かれて、結局立場が悪くなる。だから、これで印象をよくすれば、後で買ってもらってWin-Winになる。

生徒

確かに。

生徒

自分たちだけだと、人手が足りない。他の会社も作れば、より多くの人に届けられる。

生徒

自分たちだけでなく、他の会社にも困っている人を助けてほしい。

生徒

自分たちの考えた段ボールでより多くの人が救えるなら、お金より命が大事だと思える。

先生

みんなそう言うけど、みんなだったら、どうする? ただでできる? 例えば、テストのために一生懸命作った、大事なことをまとめたノート、ただで貸せる?
(貸せるか・貸せないか、それぞれ挙手を促す)★5

生徒

(貸せる人・貸せない人、それぞれ同じぐらいの人数が挙手)

先生

貸せる人もいるし、貸せない人もいる。でも貸せないって悪いこと? 悪くはないよね。会社の人たちには、助けたいって気持ちもあるけど、きっと、いろいろな気持ちがあったよね。みんな、もう少し踏み込んで考えられるかな。

編集部のまなび

★5 簡単に無償公開できるものではないことを、自分に引きつけて考えさせようとした問いかと思いました。思いの外、「貸せる」という生徒も多かったように感じました。無償で公開しないことが悪いことではないという確認と、その判断には、いろいろな思いがあっただろうということを共有して、次の発問に移っていきました。

働くときに大切なことについて考える〈15分〉

先生

では、もう一度改めてききます。みなさんは、将来働くときに何を大切にしますか。最初の質問(アンケート)も思い出してね。タブレットのワークシートに記入してください。★6
(4、5分程度、記入している生徒の間を回りながら、各自の意見を把握)
まだ書いてる人もいると思うけど、グループで話し合ってください。★6
(3分程度、話し合っている生徒の間を回りながら、意見を把握し、この後、意図的に指名)
では、働くときに大切にしたいこと、発表してくれる?★6

生徒

僕は「やりがい」が大切だと思っていたんだけど、班の人は「利益」が大切と言っていた。信念をもってやり通せば、自分の利益にもつながる。だから、「やりがい」は大切だと思います。

生徒

求めるのは、最終的には「利益」。だったら最初から利益を求めればいい。初期から利益を考えないと潰れちゃうから、最初は利益重視で、工場を大きくしてから社会のためとかを考える。

生徒

大事だと思ったのは、「誰かのために何かできること」なんですけど。最終的には利益なのかなあ。

生徒

やりがいも利益も大切だし、他人のことも考えるなら、「社会にどれだけ貢献できるか」。選択肢はたくさんあったほうがいいんじゃないか。

生徒

働くのは自分だけじゃできない。自分の仕事も他の人の仕事も、目的があって存在するものだし、ゴールはいい社会にすることだから、みんな「協調」して働いたらいい。

生徒

例えば、麻薬の密売は利益が上がるかもしれないけど、社会はよくならない。それって、いい職業とは言えない。親にも言えない。利益ばかりでなく、「やりがいをもって社会に貢献する」仕事がしたい。

編集部のまなび

★6 ワークシートに記入することで自分の考えを作り、発言回数が担保できるようにグループで話し合う。そして、全体に共有するといった流れで、いくつかの活動を組み合わせながら、丁寧に「働くときに大切にすること」について考えさせていました。また、この後の終末の振り返りでも、再度ワークシートに記入することで、もう一度自分に戻って考える時間を取り、授業を終えていました。

終末:本時の学びを振り返る〈3分〉

先生

最後に、この授業を通して感じたこと、考えたことをワークシート(端末)に書いてください。★6

生徒

自分はやりがいだけを考えて短絡的になっちゃったけど、やりがいも利益もって考えたらすごいなと思った。

生徒

利益も大事だけど、他の人のためにする仕事になったらいい。

生徒

仕事をして、どのくらい社会貢献になるか。やりがいも、利益につながる。そしたら自分は、やりがいを重視したい。

先生

今回、段ボールベッドを買うのに、社長さんとたくさん話をしました。社長さんは、子どもの頃から「ありがとうって言われる人になりなさいね」ってご両親に言われて育ってきたそうです。そういうことがつながっているのかな。
(書き終わらなかった人への指示などをして、終了)

編集部のまなび

★全体を通して 45分授業のため、全体的にとてもスピーディーに授業が進んでいました。冒頭、生徒たちの「やりがい」は、自分の充実感(働いたらお金が入る、人から感謝される、も含まれる)や、自分自身が得るものがあるという考えが中心だったように感じました。社会や人のための「やりがい」についてまでは、考えが至っていないようでした。それがだんだんと、自分以外の人に向く「やりがい」や社会貢献へと考えが深まっていったように感じました。授業の前には、先生から、生徒たちからはきれいごとの意見しか出てこないのではないかと心配していたと、聞いていましたが、当日は、最後まで利益重視の意見も出てきていました。ただ、「それだけではない」という気づきを得ていたようでした。この後、職場体験が実施されたそうです。報告会では、道徳科で学習したこととつなげた考えなども発表があったそうです。

(授業見学日:2025年6月7日)

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