道徳科授業レポート(中学校)
2026年3月6日 更新
近野秀樹 立命館慶祥中学校・高等学校 教諭
光村図書「中学道徳1 きみが いちばん ひかるとき」より、「裏庭での出来事」の実践をしました。
※道徳科授業レポート「『動き』+端末活用=心が成長する道徳科授業」と合わせてご覧ください。
教材の内容
- 内容項目:A(1)自主、自律、自由と責任
- ねらい:裏庭でガラスを割ったことを正直に伝えるか、葛藤する「健」への自我関与を通して、自分の行動に責任をもつことについて考えを深め、自ら考え、誠実に行動し、その結果に責任をもてる道徳的判断力を育てる。
- 教材のあらすじ:昼休みに裏庭でサッカーをしようとした健・大輔・雄一。雄一は、猫にねらわれたひなを助けようとボールを投げ、窓ガラスを割ってしまい、先生を呼びに行く。その間に健と大輔はサッカーを始め、健がもう1枚のガラスを割ってしまう。そこに雄一が先生を連れて戻ってくる。健と大輔は、自分たちが割ったガラスも雄一のせいにした。健はそのことに悩み、翌日、本当のことを言おうと職員室に向かう。
わたしの授業、ポイントはココ!
「『動き』のある授業」が、子どもたちの心も動かす
「道徳科の授業」というと、「教材を読み、考え、話し合い、書く」という「静」の活動をイメージしがちです。もちろん、生徒がじっくりと内面を見つめる時間は大切です。しかし、心が深く動く瞬間は、頭だけでなく、身体(五感)を使った「動」の活動の中にこそ生まれやすいのではないか。そう考えて、私は、道徳科でもあえて身体を動かす「『動き』のある授業」を行っています。
「動」の体験を経ることで、生徒たちは登場人物の思いをよりリアルに感じ取りやすくなります。また、クラス内での対話を生み出すこともできます。そのうえで、一人で自分自身と深く対話する「静」の時間を経る。これが、実際の心の成長につながると考えています。
「『動き』のある授業」については、道徳科授業レポート「『動き』+端末活用=心が成長する道徳科授業」をご覧ください。
導入:教材を読み、内容を把握する〈9分〉
「『動き』のある授業」では、導入はできるだけ時間をかけすぎないようにしています。教材を読んだ後に、次のように投げかけ、感じたことを発表してもらいました。
教師
この話で、「いいな」「変だな・違うな」と感じたところは、どこですか。
生徒からは、「いいな」と思うところとして、鳥のひなを助けたこと、雄一がガラスを割ったことをすぐ先生に報告したこと、最後には健もガラスを割ったことを先生に言いに行ったことなどが挙がりました。
いっぽう、「変だな・違うな」と感じたところとしては、先輩がいつもボールを奪ってしまうこと、大輔がサッカーを続けたりガラスを片付けなかったりするところなどが挙がりました。
生徒の自由な発言をある程度聞き取ったところで、
教師
この話をまとめると、「ガラスを割ってしまった健が、最初はごまかしてしまったが、次の日には先生に言いに行く」というものでしたね。
と、教材のあらすじを伝えて、次の活動に移ります。
指導の工夫
導入で特に意識しているのは、2点です。
1つ目は、導入に時間をかけすぎないこと。それでいて、教材に対して感じたことを自由な雰囲気で交流できるよう、場を整えること。
2つ目は、教材の内容理解の差を埋めること。教材設定と生徒の生活環境に大きな違いがあると、教師が思ってもみない部分に違和感を覚える生徒もいます。その違和感を放置すると、本来考えるべきことに気持ちが向かなくなってしまうことがあります。また、読み違いや読み飛ばしのために、生徒が教材の前提条件を誤解したまま授業が進むと、その後の対話に対等な立場で参加しづらくなってしまいます。
ですので、導入では、生徒たちの多様な感じ方を受け止めつつ、あえて教師が、あらすじと中心となる場面を短文で示して生徒全員を同じ土俵に上げ、教材場面を前提にした対話ができるようにすることを意識しています。
動きⅠ:2つの場面を再現する〈8分〉
導入の後は、いよいよ「動き」を取り入れます。*「動きⅠ」は、生徒一人一人が教材の場面に入り込むこと(=自我関与)を目的としています。ここでは、2つの場面を再現することとしました。
*「動きⅠ」とは、教材の場面を再現する、体験的な活動のこと。
場面再現①
1つ目は、ガラスを割ったことをごまかした場面。ごまかしてしまった健の弱さと葛藤を捉えていきます。数人の生徒に場面を再現してもらった後は、発表者に共感するかを全体に投げかけるにとどめ、テンポよく進めていくことを意識しました。
教師
「大輔がガラスを割ったことをごまかして、雄一が謝っている場面の健」を再現しよう。そのとき健は、どんなことを考えていただろう。
(挙手を募って指名。その場で「動き」をするよう促し、他の生徒にはその様子を見るよう伝える。)
生徒
(頭を下げ、視線だけ雄一たちに向ける動作をして)
「このままいくのかなあ。先生に真実を言ったほうがいいかなあ……。」と悩んでいると思う。
生徒
(「おっ」というような表情で、雄一たちを見つめる動作をして)
「先生にばれなくて、怒られなさそうだから、ラッキー」という気持ち。でも罪悪感もある。
生徒
(頭を下げて、下を向く動作をして)
口では言えないけど、心の中で謝っている。
生徒
(硬直して、雄一たちを見つめる動作をして)
「どうしよう」と、泣きたくなっている。テンパっている。
教師
みんなはどう? 発表してくれた人の再現に共感する人はいるかな。
場面再現②
2つ目は、健が自宅で寝る前にいろいろと考える場面を想定しました。教材文には書かれていませんが、このとき健が大きく変容したと考えられます。ペアで全員が場面再現をしたうえで、全体で交流することにしました。
教師
ペアで、「自宅で寝る前にいろいろと考える健」を再現しよう。健は何を考えていたかな。
(ペアで場面再現する時間を1・2分ほど取り、各ペアを回って様子を確認。多様な交流になるように意図的に指名。)
生徒
(ベッドの上で両手を組んで目の上に乗せ、仰向けになる動作をして)
裏庭で起きたことや、自分がしたことを思い出して考えている。
生徒
(部屋でぬいぐるみに話しかける動作をして)
思ったことを、全部ぬいぐるみに話しかけている。
教師
どんなことを話しかけているのかな。
生徒
「本当は僕もガラスを割っちゃったんだけど、どうすればいいかな」とか、「先生に言ったらどうなるかな」とか、「雄一が怒っていたな」とか、全部ぶちまけていると思う。
指導の工夫
スタンダードな道徳の授業では、中心的な発問の前に幾つか発問をし、全て言語で交流して考えさせるという流れが一般的かと思いますが、「動きⅠ」で場面の再現やその理由を交流させることには、以下のようなよさがあると考えています。
◎ 言語化や発表する力に長けた生徒以外にも、等しく活躍できる機会が増える。
◎ そもそも中学生は発言したがらず、やっと発言させても「同じです」という発言にとどまるという問題を解決できる。
◎ 短時間でたくさんの違いが表出されたり、本人の意識していなかった細かい部分が他者には驚きや発見につながったりと、限られた時間の中でも対話が深まりやすい。
◎ 教師の発問に答えるだけでは見られない、教師の想定していないような生徒のユニークな考えや発言が生まれやすく、「大人の常識」の枠に縛られないことで、授業が「生徒のもの」になる。
これらの効果により、この後の「動きⅡ」での対話が、さらに深まりやすくなります。
動きⅡ:ホワイトボードと磁石を用いて対話・交流する〈28分〉
「動きⅠ」を通して得られた生徒自身の実感(自我関与)を基に、*「動きⅡ」では対話を通して考えを深めていきます。
*「動きⅡ」とは、その時点での考えを全員に表出させ、対話のきっかけを作る活動。
使うのは、人数分のA4サイズのホワイトボード、緑の磁石、青の磁石。各自の考えをホワイトボードに書き出して黒板に貼り、全員が全部の考えを読む時間を確保します。その後、緑の磁石と青の磁石でリアクションを加え、対話のきっかけを作っていきます。
教師
授業を通して、今『大切にしたい』と思っていることをホワイトボードに書いてください。
書いた人は、ホワイトボードを黒板に貼りましょう。
貼り終わったら、「共感する・わかる」と思う意見には緑の磁石を、「質問したい・詳しく聞きたい」と思う意見には青の磁石を置いてください。
ここから、ホワイトボードや磁石でのリアクションを基に対話を進めていきます。
生徒B
Aさんは「未来予知して行動する」って書いてるんだけど、未来予知ができないから、難しいんじゃないのかな。
生徒C
「未来予知」って「先のことを考える」とか「予測する」っていう意味じゃない?
生徒B
予測すると、いいことばっかり予測しちゃう。だから、健たちはボールが取られなくて安全だと思って裏庭に行った。でも、結局ガラスを割っちゃった。
教師
未来を考えると、都合よく想像しがちっていうのはあるよね。では、書いた本人のAさん、詳しく教えてください。
生徒A
Cさんが言ってくれたのとだいたい同じで、先のことを考えるのが大事。「先生に正直に言ったらどうなるだろう」とか「3人の関係はどうなっちゃうのかな」とか。
生徒E
Dさんの「伴う責任」っていう意見が気になる。意味を教えてほしいな。
生徒F
「伴う」って、どういうこと?
生徒D
行動には全部責任が伴うから、その責任があることを考えて行動したほうがいいっていう意味で書いた。
教師
(30枚中12枚のボードが「正直」について言及しているが、それらに青マグネットが1つもないことを捉えて)
「正直が大事」っていうことには、みんなあんまり疑問をもっていないみたいですね。「正直が大事」なのは、あたりまえ?
生徒
(多くの生徒がうなずく。)
教師
でも、「正直が大事」なのは、どうしてだろう。難しいことかな。逆に、「ごまかす」のはどう?
生徒
正直は難しいけど、ごまかすのはちょろい。
教師
そうなの? ごまかすためのストーリーを考えなきゃいけなくて、大変そうじゃない? 正直に言うほうが簡単じゃないの?
生徒
あー、確かに……。
生徒
ごまかすことの難しさは普通なんだけど、その後がめんどくさい。
生徒
正直に言うのも難しい。勇気が出ない。個人的には、ガラスを割ったことを正直に言ったら絶対怒られるけど、言わないでごまかせたら怒られない可能性もあるって思っちゃう。
「ごまかす」ことについて、「後がめんどくさい」「もやもやする」「眠れなくなる」「でも寝たら忘れる」などの意見がどんどん挙がっていきました。このタイミングで、「ごまかす」ことを、「ごまかした後の苦しさ」も含めてイメージできるよう、次のように投げかけました。
教師
じゃあ、具体的に考えてみよう。雄一が松尾先生を連れて戻ってきたら、ガラスがもう1枚割れていて、大輔はそれを「ひなを助けようとして、雄一が割った」とごまかし、健もそれに便乗した。そのときに、もし松尾先生が「ボールが当たっても、ガラス2枚も割れないんじゃない?」って言い出したら、どうやってごまかす?
生徒
えっと……、ボールがバウンドして、もう1回ガラスに当たって……。
生徒
猫が逃げて、そのときにもう1枚割った……。
生徒
1回ボールを投げたけど、猫が逃げなかったから、もう1回投げたんです!
教師
えっ? 1回ボールを投げてガラスを割ってるのに、もう1回投げてまた割ったってこと? それはもう、わざと割ってるだろ、3人とも!
生徒
違う、違う! ……なんか、振動で……振動で割れたんです。
教師
ガラスが割れる振動って、どれだけすごい振動なの?
生徒
……なんか、ガラスが、もろかったみたいで……。
生徒
もろいって……。学校のガラスって、強化ガラスでしょ?
教師
どうですか、みなさん。ごまかし続けるの、なんだか苦しくなってきましたね。
「ごまかした後の苦しさ」を実感したところで、再び「正直でいる」ことに戻って対話していきます。
教師
正直でいるのは簡単? ごまかすのと、どちらが簡単だろう。
生徒
(「両方とも難しい」「どちらとも簡単ではない」など、悩む生徒が増えてくる)
教師
じゃあ、「1回ごまかした後、正直に戻る」のはどう?
生徒
無理! それはもうやばい。「どうしてうそをついたんだ」って責められる。
生徒
「うそをついた」っていう罪が増えている。
教師
なるほど。じゃあ、ちょっときいてみたいことがあるんだけど……。Gさんは、ホワイトボードに「自分にうそをつかない」って書いているんだよね。考えを詳しく教えてもらえますか。
生徒G
うーん、みんなが言っていたみたいに「正直が大事」っていうこと。
教師
なるほど。「自分にうそをつかない」っていう考え、みなさんはどう思います?
生徒
かっこいい!
生徒
でも、うそをつかなければならないときもあると思う。
教師
なんでも正直に言えばいいっていうものでもないのかな? たしかに、家族の病気を本人に伝えるかどうかとか、難しいですよね。
生徒
……それは言えないかも。
教師
先生も、「それは黙っていてほしかった」って言われたことがあって、「自分がもやもやするのが嫌だから言ってしまっただけだったな」と反省しました。正直でいることが、不誠実になってしまうこともあるかな。
生徒
それはある。ネタバレとかは嫌だ。
生徒
知らないふりをしてほしいこともあるかも。
指導の工夫
「動きⅡ」では、青の磁石を置いた生徒が鋭い問い返しをしたり、緑の磁石を置いた生徒がうまく説明できないクラスメートの考えを代弁することもよくあります。教師は、生徒どうしの対話を促し、見守り、「ここぞ」というときに問い返し、視点や視座を変えるきっかけを作ります。
私はいつも、意図的に対話の中心として話題に取り上げるボードを3・4枚、その場で選びます。生徒の「生きた言葉」を即興で拾いながら対話を組み立てるのが、「動きⅡ」の難しさであり、醍醐味でもあります。
ボードを選ぶ根拠ですが、私はあらかじめ「この教材・テーマから生徒といっしょに考えを深めたいこと」を幾つかイメージしておきます。今回の授業では、生徒から「正直が大事」という意見が多く出てくるだろうと予想したうえで、「自分で責任ある判断をするために、『正直とうそ』を切り口として、自由と責任について考えを深めてみよう」と想定していました。その想定も考慮しつつ、実際の授業中は、ボードや対話から生徒が考えたいことを感じ取りながら、理論半分・感覚半分で取り上げるボードを選んでいます。授業後に黒板のボードと磁石を写真に撮っておき、後から見返して「こっちを取り上げるべきだったかな……」と反省したり、時には授業を見てくれた先生と「このボードを選んだ理由・選ばなかった理由」などを交流したりするのも、たいへんよい研修になります。
「動きⅡ」には、授業の中で最も長く時間を取るようにしていますが、それでも対話は尽きません。でも、私は常々、授業の中では「結論を出す」のではなく、休み時間や放課後、次の日にも余韻として考え続けられるような、「心の引っかかりを残す」ことが大事だと考えています。
終末:授業の感想を記入する〈5分〉
ここまではアナログなツールを用いてきましたが、最後はデジタルツールを使用します。生徒に「ホワイトボードに書いた自分の考え」「印象に残ったクラスメートの言葉と、その理由」「授業を通して大切だと思ったこと・これから大切にしたいこと」の3点について振り返ってもらい、ロイロノートの機能を利用して提出するという形です。
生徒の感想
◆自分の行動を振り返ることが大切だと思いました。「今日はこれがよかったから、これからも続けてみよう」とか、「これがだめだったから、これからはやめよう」とか、今後のことをちゃんと考えることができるからです。そして、私はAさんの「未来予知をして行動する」という意見がいいなと思いました。私の「自分の行動を振り返る」という意見と反対だったからです。こういう意見もあるんだなと思いました。
◆自分がいつもしている行動には責任がある。今はまだ中学生だから深くは追及されないけど、自分の責任を忘れないように行動することを、忘れないようにしたい。
◆どれだけ正直が大切でも、うそはいつかつかないといけないときがあるし、そうしないと損するときがあるけど、大切なのは「自分の心にきいてみること」だと思う。自分は正直でいたいのにうそをつくと、心残りになってしまう。
◆してしまったことは取り返しがつかないから、「その後にどんな気持ちで、どんな行動をしていくか」を大切にすべきだと思った。今回の事例でも、「絶対に正直に言わなければならない」ということだけが正解ではないと思う。自分はどうすればよいのか、他者も視野に入れながら考えたうえで、「自分はこうするべきだ」と思った行動をしていくべきだと気づいた。ただ、してしまった行動に責任をもつことは大切。行動に責任をもつとは、「○○がこうしたせいだ」とか言い訳せず、事実から逃げないことだと考えた。だから、よく考えたうえで行動し、事実から逃げずにしっかりと向き合うことが、これからも大切だと思う。善でも悪でもない正直な心のまま、しかし他者への影響も考えると、よりよい行動ができると思った。
指導の工夫
「動きⅠ」や「動きⅡ」で得た「引っかかり」を授業後に反すうし、自分の生き方と向き合う「静」の時間(振り返り)は、生徒の本当の成長につながっていきます。この「静」の時間を確保するため、感想の締め切りを、あえて数日の余裕をもって設定し、デジタルで提出してもらっています。
紙のワークシートの場合、授業時間内に提出してもらわないと全員分を回収しきれないという事態になりがちですが、デジタルであれば、各自が書ききれたと思うタイミングで提出しやすくなります。授業時間内に提出しても、休み時間や帰宅後にじっくり振り返ってから提出してもいい(もちろん、タブレット端末の使用時間や持ち帰りに制約のある地域もあるかとは思いますが……)。こういったデジタルのよさも取り入れながら、授業を組み立てています。
ただし、「なくさない」「管理しやすい」などのデジタルのメリットは感じつつも、紙に書かせるよさも感じており……。ここは今でも試行錯誤しているところです。
※この実践は2025年10月に行われたものです。
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