道徳科授業レポート(中学校)
2026年3月31日 更新
光村図書 道徳課
編集部による授業見学レポート。今回おじゃましたのは、千葉大学教育学部附属中学校。見目慎也先生による「私たちの合唱祭」(中学道徳3 きみが いちばん ひかるとき・光村図書)の授業の様子をお届けします。
見学にあたって
- 集団生活においては、「集団全体に関わる課題は、その集団に属する全員で解決する」のが適切といえそうです。しかし、同じ集団に属しているからといって、全員が同じ考えであるはずもなく、考えの擦り合わせに苦労するのは、大人だけでなく、中学生も同じことです。これまでの学校生活でさまざまな経験を積み、学校をリードする立場になった中学3年生は、学校の伝統や校風に関わる課題をどう捉え、どう向き合うのか。また、「問題解決的な学習」の側面をもつ教材に、どう取り組むのかに着目しながら見学しました。
授業の概要
- 内容項目:C(15)よりよい学校生活、集団生活の充実
- 生徒数:30人程度
- 教材のあらすじ:果歩(主人公)の学校の合唱祭は、生徒や地域の人にとって大切な伝統行事。コンクール形式で、1クラスが最優秀賞を獲得する。最優秀賞はみんなの憧れだ。しかし、昨年は、諸事情により発表会形式で開催され、果歩は複雑な気持ちになった。今年こそコンクール形式で最優秀賞を取ると意気込む果歩だが、「今年は、コンクール形式にするか発表会形式にするか、3年生の意見を聞きたい」と先生は言う。クラスで話し合うが、どちらの形式にもよさがあり、各自の思い入れも違って、どちらかに決めるのは難しい。学校行事の在り方を巡る、問題解決的な教材です。
授業の流れ
目次
コンクール形式、発表会形式、どちらの形式がよいか、話し合う〈15分〉
そもそも合唱祭は、何のための行事なのか、目的を確かめる〈5分〉
目的に照らして、どちらの形式がよりよい合唱祭になるか、考える〈5分〉
終末:よりよい学校をつくるために大切なことについて、考える〈5分〉
黄マーカー…先生の発問・活動指示
★+編集部のまなび…授業を見て編集部が学んだこと・気づいたこと
先生
それでは、前回の授業のリフレクションをしていきましょう。Chromebookを開いて、「未来へのヒントカード」に書き込んでください。★1
生徒
(前時の学習を振り返り、各自の端末に記入する。)
編集部のまなび
★1 千葉大学教育学部附属中学校では、「未来へのヒントカード」という振り返りシートに、毎時間の道徳科の学習を記録しています。「未来へのヒントカード」には、生徒がその時間に考えたことを、授業の最後に書かせます。それに対して、授業後に先生がコメントを書き込みます。次の授業の冒頭や帰りの学活等の時間などに、生徒は、先生からのコメントも読んだうえで、もう一度振り返り(リフレクション)を書きます。この一連の活動は、「前回の道徳の授業内容を振り返ることによって、週に一度しかない道徳の授業に少しでもつながりをもたせる」、「授業時間内に振り返りを書かせることで、生徒の負担を減らし、持続可能な活動にする」ことを目的として、行っているとのことでした。本カードは、端末を使ってGoogle スプレッドシートで管理されているそうです。
先生
(生徒が、ある程度振り返りを終えたところで、本時の授業を開始する。まず、教科書P.6「道徳の学習を始めよう」を学級全体に提示し、道徳の学び方やこれまでに学んだ内容項目について振り返る。)
4月から3か月ぐらいたちましたね。3か月が3回とちょっと繰り返されたら、もう卒業ですよ。もう終わっちゃうなんて、早いですね。もう3年生だし、今日の道徳でも自分の意見ばっかり言うんじゃなくて、よく考えていきましょうね。
ところで、ちょっときいてみたいんだけど、「附属中らしい」行事って、何でしょうか? その行事のどんなところが「附属中らしい」と思いますか? 隣どうしで話し合って、考えてみましょう。★2
生徒
(隣どうしで話し合う。)
先生
それでは、きいてみましょう。
(くじを使用して、ランダムに指名する。)
生徒
運動会。うちの学校は、*系列のつながりが強い。
生徒
探究学習発表会。みんな同じじゃなくて、それぞれが自分で設定した課題に取り組んでいい。
生徒
校外学習。ただの修学旅行ではなく、学習に重きを置いているから。
生徒
3年生を送る会。他の学校は、外から劇団が来て終わりみたいなことも聞くけど、うちは自分たちで内容を考えて作る。
先生
「附属中らしい」ところ、たくさん挙がりましたね。みなさん、ありがとうございます。
今日は、よりよい学校をつくるために大切なことについて、考えてもらおうと思います。
*千葉大学教育学部附属中学校は、各学年AからDの4クラス編成。各学年、同じクラス名どうしを「系列」とよんでいる(例として、1A・2A・3Aは「A系列」とよばれる)。生徒の所属意識を育んだり、上級生のリーダーシップを養ったりするために、学年を超えた交流を大切にしており、行事を「系列」対抗で行うなどしている。
編集部のまなび
★2 比較的長めに導入の時間を確保していました。導入で自分の学校の行事をしっかりと思い起こし、クラス全体で共有することは、この後、教材中の学校で起きている課題に、自分事として向き合うための布石になっているように感じました。
先生
教科書51ページを開いてください。
今日は「私たちの合唱祭」という教材で考えていきます。
(先生による朗読。)
先生
附属中には合唱祭はないけど、合唱祭がある学校では、すごいんですよ。先生が前にいた学校では、合唱祭って一大イベントだったんですよね。
果歩(教材の主人公)の学校では、コンクール形式も発表会形式も経験したのは、果歩たち3年生だけ。どうしたら、よりよい合唱祭になるんでしょう? 附属中の学校行事も思い出しながら、班で考えてみましょう。★3
それでは、教科書54・55ページの順序に沿って、話し合いをしましょう。
4人の班で机をくっつけたら、Chromebookを開いて、Canvaに入ってください。
(プレゼンテーションツールで作成したスライドを、学内の共有システムを通じて、生徒の端末に配付する。)
先生
まずは、コンクール形式、発表会形式、どちらの形式がよいか、それぞれの形式の特徴だけでなく、自分がよいと思う理由も含めて整理しながら、話し合ってみましょう。
付箋を4色用意してあるから、班のメンバーで自分の色を決めてください。付箋に、それぞれの形式の特徴や、その形式がいいと思う理由を書いて、ベン図に整理してみよう。
生徒
(班ごとに、一つのスライドを共有して、考えを可視化する。ほとんどの生徒は、付箋をコピーして、複数の意見を挙げている。端末上で黙々と意見を整理する班もあれば、整理しながら話し合う班もある。)★4
先生
(適宜、班ごとの話し合いに参加する。)★5
この班は、どんな意見が出てますか?
生徒
発表会形式だと、悲しい思いをする人がいない。
先生
なるほど。じゃあ、コンクール形式と発表会形式で共通しているところとか、あった?
生徒
……歌を歌うところ?
先生
確かに、共通しているね。
生徒
あ〜、協力するっていうのは共通しているかも。
生徒
でも、コンクール形式っていうのは、勝負なんだから、協力って言っても……。
先生
(各グループがある程度整理を終えたところで)
それでは、意見を発表しましょう。代表して、1班、お願いします。
生徒
コンクール形式だと、互いに競い、力を高め合うことで、よい合唱になる。発表会形式だと、プレッシャーがない。
先生
なるほど。ありがとうございます。
編集部のまなび
★3 千葉大学教育学部附属中学校では、合唱祭が行われていません。生徒が教材の中で起きている課題を切実に捉えられるよう、先生が前任校での経験などを適宜補足されていました。また、主人公が置かれた立場を簡潔に確認したり、改めて自分の学校生活と重ねて考えるよう促したりして、話し合いをする土台をしっかりと準備されていました。
★4 班で共同編集しているスライド上で、各自が自分の意見を書き込みつつ、他の人の意見を確認している生徒が大半でした。議題の整理等であれば、実際に話し合いを行わなくても、端末上で、ある程度、意見交換ができていることが印象的でした。
★5 本時は、班での話し合いが多く設定されています。班での活動中、先生は各班を回りながら、生徒の発言を肯定的に受け止めつつ、生徒が気づいていない視点から問いかけたり、本題から外れすぎないようにさりげなく声をかけたりして、積極的に生徒に関わっているようでした。
先生
ちなみに、附属中には合唱祭はないけど、3年生を送る会の準備を、下級生が率先して行っていますね。みんなも1、2年生のときに経験してきたと思うけど、どうしてみんなは、がんばって準備をしていたんですか。★6
生徒
「3年生を送り出す」という明確な目的があるから。
先生
ああ。「目的があったらがんばれる」っていうことかな。では、合唱祭のそもそもの目的って、何でしょう? 合唱祭を通して、どうなりたいんだろう? もう一度、班で考えましょう。
生徒
(スライドに付箋で書き込んだり、話し合ったりする。)
先生
(適宜、班ごとの話し合いに参加する。)
合唱祭の目的って何だろう。この班は、どんな意見が出ていますか?
生徒
思い出を作るとか……?
先生
思い出っていう意味だと、どういう合唱祭がいいんだろう?
生徒
インパクトがあるほうがいい。熱量が入るとか……、きずなを作るとか……。
先生
(各班の話し合いが落ち着いたところで)
それでは、意見をきいてみたいと思います。2班はどうでしたか。
2班
団結力を高めるため。全力でやる。
先生
3班は?
3班
団結力を高めるため……とか、……みんなで楽しむためとか……。(スライドの内容を確認しながら言いよどむ。)
先生
あっ、今、自分の意見だけでなく、班のみんなの意見をまとめて発表してくれようとしてたでしょ? こういうときに、便利な機能があります。この「分類」っていう機能を使うと、みんなが書いた付箋を分類して整理してくれるんですよ。試しに使ってみてもいいですね。★7
(モニターに、先生の端末画面を映し、手順を説明する。)
4班は、どんな意見が出ましたか。
4班
意見が割れちゃってるんだけど……、よりよい学校とか、一体感とかが出ました。
編集部のまなび
★6 本時では、自校の他の行事と結び付けながら考えてみるように、先生が促す場面がたびたび見受けられました。合唱祭が行われていない学校のため、生徒が教材と自分を引きつけながら考えることができるよう、先生が効果的に問いかけていました。
★7 発表者の生徒が、班での話し合いをまとめきれずに発言に詰まってしまったタイミングを捉えて、先生がプレゼンテーションツールの機能を紹介されていました。自然にデジタルツールの活用に触れており、生徒にとっても、「分類」という情報整理のしかたや、分類して把握することの効果を実感するきっかけになっているようでした。
先生
では、それぞれの形式の特徴を整理したうえで、今確認した目的に照らして考えたとき、コンクール形式、発表会形式、どちらの形式がよりよい合唱祭になるでしょう。班で話し合いましょう。
班の中でも、いろいろな意見があると思いますが、今回はどちらか一つに決めてくださいね。どっちが正解とかはないんだけど、どちらかに決めましょう。★8
生徒
(班で話し合う。)
先生
(適宜、班ごとの話し合いに参加する。)
この班は、合唱祭の目的に照らして、コンクール形式がいいって決めたんですね。どうして? その心は?
生徒
やっぱり、切磋琢磨ですよ。合唱の精度も上がるし。
生徒
例えば、運動会で考えたら、勝ち負けがあったほうが、高められるでしょ?
先生
でも、みんなは、勝敗のない文化祭でもがんばってきたでしょ? 勝ち負けなくても高められるんじゃない?
生徒
勝ち負けはないけど、文化祭には「来る人を楽しませたい」っていう目的があるから高められる。
先生
なるほどね。
(机間指導をしながら、ほとんどの班がコンクール形式を選択し、4班だけが発表会形式を選択していることを確認して、次の活動に移る。)
編集部のまなび
★8 問題解決的な学習ということもあり、話し合ったうえで合意形成することを、先生が念入りに生徒に伝えていました。この段階でも、先生は班ごとの話し合いに参加しながら、「合唱祭の目的に照らして決める」ことを強調して伝えつつ、生徒が気づいていない視点に気づかせるよう、必要に応じて問いかけていました。
先生
それでは、班の意見を、できれば合唱祭の目的も合わせて、順番に発表しましょう。
コンクール形式を選んでも、発表会形式を選んでも、どっちが正しいとかはありません。同じほうを選んでも、理由が違うかもしれないから、全部の班の考えをききますよ。じゃあ、8班から。
8班
コンクール形式を選びました。目標に向かって団結できるし、最優秀賞を取ったときの喜びを分かち合えるから。
先生
なるほど。8班は、合唱祭の目的は何だと考えていたんですか?
8班
クラスで団結して、目標を成し遂げること。
7班
7班もコンクール形式です。勝ち負けがつくことで、闘争心が生まれる。練習の過程って楽しいし、コンクール形式のほうが過程を大切にすることができそう。合唱祭の目的は、目標に向かって、クラスで団結すること。
6班
コンクール形式がいいと思いました。勝負をすれば、わくわくや緊張が味わえるし、そのほうが思い出に残るから。
5班
5班もコンクール形式にしました。互いに競ったほうが、クラスが一丸になれるし、全力も出せるからです。
3班
コンクール形式がいいです。勝負することで、互いを高め合うっていうところに、合唱祭の意味があると思う。それに、どちらの形式も熱中はできると思うけど、勝負で生まれる熱量が魅力的だから。
2班
コンクール形式を選びました。そのほうが、団結力を高められる。確かに、発表会形式には勝敗がない分、他のクラスと交流できるっていうよさはあるけど、コンクール形式だったとしても、クラスどうしの交流はできそう。衣装や発表方法を工夫すれば、発表会形式がいいという人でも楽しめると思う。
1班
1班もコンクール形式です。「最優秀賞を目ざす」など、具体的な目標があったほうがいいし、卒業生や地域の人も大切に思ってるからこそ、コンクール形式のほうがいいと思う。
4班
4班は発表会形式のほうがいいと思いました。合唱祭の目的は、クラスで団結することなんだけど、これからの学校生活のことを考えたら、コンクール形式での勝ち負けにこだわるより、発表会形式のほうが、クラスで団結できるんじゃないかなと思いました。
先生
附属中にもいろんな伝統があるけど、よりよい学校や校風をつくっていくには、どんな考えが大切なのでしょう。最後に、よりよい学校をつくるために大切なことについて、考えたことを、「未来へのヒントカード」に入力してください。
生徒
(各自の端末から、「未来へのヒントカード」に考えを記入する。以下のような記述が見られた。)
・なぜその行事をする必要があるのか、それをすることでどんなよいことがあるのかを、考えながら行動していくことが大切だと思う。
・自分たちが目ざすべき姿は何で、それを達成するためにはどんなことをする必要があるかを、考えることが大切だと感じた。
・今回どちらの形式がよいかを考えるときに、目的に合うものを選ぶという判断基準が大切だと感じた。よりよい学校や校風をつくるためには、一つ一つの取り組みの目的や意義を、自分の視点、クラスや学校からの視点、地域など社会からの視点など、多くの視点から考えることが必要だと思った。私も生徒会活動などで学校全体を動かすような活動を行うことがあるけれど、その際に判断をするときには、多くの基準から考えたり、まずは自分の行動を見つめ直したりすることを、意識したいと思う。
・今まで続いてきた学校生活、校風には必ず理由があると思うので、その理由をしっかりと考えたうえで、どうするのがよりよい選択なのかを考えたい。
・伝統を守るだけでなく、新しい文化に柔軟に対応できる考えが大切だと思った。また、そうして変化した伝統に、みんなが団結し、協力することができるようにする考え方も必要だと思う。
先生
(全員がある程度書けたタイミングで)
誰か一人ぐらい、発表してもらいましょうか。じゃあ、◯◯さん。
生徒
どうしてその行事があるのか、なぜその行事をするのかを考えることが大切だと思いました。
先生
はい、ありがとうございます。今日学んだことは、道徳の授業で終わらせるんじゃなくて、文化祭の運営など、普段の学校生活でも生かせるようにできたらいいですね。
それでは、今日の道徳の授業を終わります。
編集部のまなび
★全体を通して 本時は、班での話し合いが多く設定されています。先生が、折に触れ、「今話し合うこと」を確認したり、班での話し合いに自然に参加したりする姿が印象的でした。話し合いの内容は班によって特徴があり、一人一人の生徒が学校やクラスという集団にどんなものを期待しているのかが、垣間見えるようでした。話し合いに耳を傾けていると、これまでに過ごしてきた中学校生活や、自分の学校への誇りが感じられる発言も聞こえてきて、3年生らしい姿がとても印象に残りました。
(授業見学日:2025年6月19日)
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