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中学1年 レオナルドと僕 中井康平先生

道徳科授業レポート(中学校)

2026年5月15日 更新

光村図書 道徳課

編集部による授業見学レポート。今回おじゃましたのは、千葉大学教育学部附属中学校。中井康平先生による「レオナルドと僕」(中学道徳1 きみが いちばん ひかるとき・光村図書)の授業の様子をお届けします。

見学にあたって

  • 内容項目「C(17)我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度」を扱った教材は、授業が難しいという声をよく耳にします。生活様式の変化や多様化などにより、日本の伝統や文化になじみの薄い生徒も多い中、どのように考えを深めていくのか、興味深く見学しました。

授業の概要

  • 内容項目:C(17)我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度
  • 生徒数:30人程度
  • ICT環境:黒板の中央に、先生のPC画面を投影できるスクリーン(着脱可能)が設けられていました。
  • 教材のあらすじ:主人公の新は、5年ぶりに、イタリア人の友人・レオナルドと再会します。レオナルドは和菓子作りの修業をしていて、日本の伝統文化である和菓子の魅力を熱心に語っていました。しかし、レオナルドの夢は、日本の伝統文化を守ることではなく、イタリアのお菓子に、和菓子の技法や心を取り入れて、自国の食文化をもっと豊かにすることでした。日本の伝統文化に関心の薄い新にとって、レオナルドの夢は遠いもののように感じると同時に、大きな夢に向かって日本で修業をしているレオナルドの生き方に感銘を受けたのでした。

前時の振り返り〈3分〉

先生

前回の授業「席を譲ったけれど」を振り返ろう。
どんなことを学んだっけ?

生徒

人を思いやるときには、その人がどういう状況なのか、考えることが大切だということ。

先生

そうだね。相手がどういう状況なのか、考えることが大切だよね。
例えば、宿題が終わっていない人に、自分の宿題をただ見せることって、親切っていえるのかなあ。別の例だと、友達に「○○さんは、□□のことが好きらしいよ」って伝えることは、どうなのかなあ。

生徒

(近くの席の人と、自由に意見を交換し合う。)

先生

まだまだ考えることはたくさんありそうだけど、前回の振り返りはここまでにして、今日は別のことについて、考えてみようと思います。★1

編集部のまなび

★1 1週間を経てから前時の振り返りをすることで、道徳的な課題は常に続いていくこと、普段の生活の中にも考えるべき道徳的な課題があるということが、先生からのメッセージとして伝わってきました。

導入:日本の伝統や文化で思いつくものを挙げる〈7分〉

先生

(ワークシートを配付する。)
日本の伝統や文化で思いつくもの、知っているものはあるかな? できれば、5個くらい挙げられるといいかなあ。どんどんワークシートに書いてみよう。

生徒

(ワークシートに記入する。)

先生

(机間指導をしながら、生徒が記入している内容を確認しつつ、必要に応じてコメントをする。)★2
じゃあ、書いたものを発表してみましょう。
(ランダムに生徒を指名する。)

生徒

(生徒から挙がった日本の伝統や文化は、以下の通り。)
和食/相撲/能/和服/和菓子

先生

(「和菓子」という例が挙がったら、)和菓子といえば、今日、学校に来る前に、コンビニに寄って、これを買ってきました。何だと思う?

生徒

ようかん!

先生

正解! これも日本の文化だよね。
今日は、「伝統を受け継いでいくために、大切なこと」について、考えていきます。
ちなみに、日本の伝統や文化には、こんなものもあります。
(だるま落とし、けん玉、お手玉など、実物を生徒に見せながら、実際にやってみせる。)★3

編集部のまなび

★2 ワークシートの記述を確認しながら、先生が感想を伝えたり、疑問に思うことを投げかけたりすることで、生徒の発想を広げようとされていました。
(先生のコメント例)
先生 食べ物が多いね。/「踊り」っていうのは、どんなもの?/おせちかあ。先生、おせちは苦手なんだよね。

★3 日本の伝統や文化になじみが薄い生徒にも、実物を紹介することで、イメージしやすいようにしていました。授業後には、日本のおもちゃを、実際に手に取って遊んでいる生徒もいました。

「レオナルドと僕」を読む〈5分〉

先生

教科書136ページを開いてください。(先生による朗読。)

「『危機』なんて、少し大げさなんじゃない?」という言葉には、新のどんな考えが表れているかを考える〈10分〉

先生

みんなレオナルドのことをどう思った? そもそも、これってどういう話?
近くの席の人と話してみて。

生徒

(近くの席の人と話し合う。)

先生

レオナルドは日本の文化に興味があるみたいだけど、新はどうかな?
(ランダムに生徒を指名する。)

生徒

たいして興味がない。

先生

どうやら、そうみたいだね。ちなみに、みんなはどう? 興味はあるかな? 隣の人と話し合ってみて。★4

生徒

興味はあるかと言われると難しい。

生徒

あまりない。
(教材の登場人物と自分を引きつけながら、考えたことについて話し合う。)

先生

じゃあ、「『危機』なんて、少し大げさなんじゃない?」という言葉には、新のどんな考えが表れていると思う? ワークシートに書いてみましょう。★5

生徒

(ワークシートに自分の考えを記入する。)

先生

では、書いたことを発表してみましょう。
(ランダムに生徒を指名する。)

生徒

和菓子は、そんなに大変な状況にはなっていない。

生徒

和菓子は、ずっと続いていくだろう。

先生

じゃあ、◯◯さんはどう思う? 和菓子はこれからもずっと作られると思う?★4

生徒

うーん、和菓子はわからないけれど、和食は続きそう。

先生

みんなはどう思うかな? 近くの人とも話し合ってみよう。

生徒

(近くの席の人と話し合う。)

編集部のまなび

★4 常に、生徒が自分に引きつけながら考えられるような声かけをされていました。

★5 書く活動中であっても、先生が「道徳の授業中は、好きにしゃべっていいからね。」と生徒に伝えることで、どんなタイミングでも話し合いをしてもよいことを強調されていました。対話をしながら考える教室の雰囲気が培われていました。

日本の伝統や文化が、今どんな状況にあるのか、どんなことが「危機」なのかを知る〈10分〉

先生

先生も、今の日本の伝統や文化の状況が気になったので、少しだけ調べてみました。
前を見てください。
(黒板の中央に設けたスクリーンに、PCの画面を表示する。)
(先生が用意したのは、以下のデータ。これらのデータについて、概要や特徴を、簡潔に説明する。)
・伝統工芸品の生産額、従業員数の推移
・伝統工芸士の人数、女性の割合
・ある漬物屋の従業員の年齢層

先生

では、みんなも自分の端末で、日本の伝統や文化が、今どんな状況にあるのか、どんなことが「危機」なのか、調べてみましょう。★6
「和菓子と洋菓子はどちらが人気なのか」とか、「和菓子以外の伝統や文化の例はないか」とか、自分の興味のあることを調べてみていいよ。調べたことは、近くの人と共有しよう。

生徒

(自分の端末で、日本の伝統や文化の現状について、興味や関心のあることを調べる。教材に関連して、和菓子のことや、導入で生徒から挙がった他の日本の伝統や文化について、調べる生徒が多かった。調べた内容や調べる過程で気づいたことは、適宜、近くの席の人と交流する。)
(生徒が指摘した「危機」は、主に以下の通り。)
・原材料費の高騰
・経済状況や生活様式の変化
・後継者不足
・若者の関心の低下/担い手の高齢化
・消費量や売上の減少
・安価な製品の流通が増加していること

編集部のまなび

★6 先生からの説明だけで終わらず、生徒自身が興味・関心のあることを調べたことで、日本の伝統や文化の危機を、「自分の力で見つけた」と感じることができているようでした。この活動は、本時のテーマを、自分に引きつけながら考えるための準備となっていました。

新は、レオナルドのどのような考え方に、「一本取られた」気持ちになったのかを考える〈10分〉

先生

では、教科書の内容に戻りましょう。調べたことを踏まえながら、新は、レオナルドのどのような考え方に、「一本取られた」気持ちになったのか考えてみよう。
そもそも、「一本取られた」ってどういう意味かな。調べてみて。

生徒

参った。

先生

そうだね。新はきっと、レオナルドの考えに参った、かなわないなあ、と思ったんだね。レオナルドのどんなところにそう思ったか、ワークシートに書いてみましょう。

生徒

(ワークシートに設けられた熊手チャートに、自分の考えを記入する。)

ワークシートに設けた熊手チャート 画像
ワークシートに設けた熊手チャート。

先生

じゃあ、書いたことを交流してみよう。先生もいっしょに考えるね。
近くの席の人と話し合ってもいいし、席を移動して話し合ってもいいからね。

生徒

(自由に話し合いをする。)★7

先生

では、考えたことを発表してみましょう。
(生徒をランダムに指名して発表させる。)

生徒

伝統や文化を守るだけじゃなくて、進化させようとしている。イタリアのお菓子に、和菓子の技術を取り入れようとしている。

先生

なるほど。ちなみに、みんなは、「守る」と「進化」だったら、どちらがいいと思う? 例えば、歌舞伎は人気の漫画などを題材にした舞台を行うようになったよね。

生徒

(考え込む。)

先生

(生徒から発言が出そうになかったので、この話題はいったん終える。)
じゃあ、◯◯さんは、どんなことを考えた?

生徒

自分の国の文化は、自分たちでどうにかする。

先生

ほうほう。ちなみに、〇〇さんは、どうにかできそうかな? 先生も、どうにかしなきゃいけないことはわかっているんだけど、難しいと思っちゃうなあ。

生徒

だから、自分の国の伝統や文化を学ぶ必要があるんじゃないかな。校外学習とかで。

先生

確かにそうだね。学んでおけば、どうにかする方法を考えることができそうだね。
◯◯さんは、どう?(他の生徒を指名する。)

生徒

もう同じ考えが出た。

先生

同じ考えでもいいから、自分の言葉で発表してみて。

生徒

イタリアのお菓子を、よりよくしようとしている。

先生

うんうん。ということは、レオナルドは自分の軸足を日本に置いているのかな。それとも、イタリアに置いているのかな。

生徒

イタリア。

編集部のまなび

★7 生徒は、自由に移動して話し合いを行っていました。仲のよい人どうしで話し合うグループが多かったように見られました。先生に意図をお伺いしたところ、「ある程度、気心の知れた相手と話し合いをしたほうが、生徒の本音が出やすいから。」とのことでした。
また、事前に、「先生もいっしょになって考える」と伝えていた通り、少数で話し合っていたり、一人で考えていたりする生徒に声をかけ、先生も話し合いに参加していました。

終末:伝統を受け継いでいくために大切なことは何かを考える〈5分〉

先生

もう少しきいてみたいところだけど、終わりの時間が近づいてきたので、伝統を受け継いでいくために大切なことは何か、*「未来へのヒントカード」に入力しましょう。

生徒

(各自の端末から、「未来へのヒントカード」に考えを記入する。)

授業後:生徒が記入した内容を、ChatGPTに要約させ、学級通信として配付。
学級通信の内容は、以下の通り。
【全体の傾向】
生徒は、レオナルドの言葉や姿勢から、日本の伝統や文化をどのように受け継ぎ、次世代へつないでいくべきかを、多面的に考えることができていました。特に印象的だったのは、「ただ守るだけでなく、進化させることが必要」「自国の文化を、他人事にしないで、自分たちが守る」という意識が多く見られたことです。また、実際の行動や生活の中で、できることを模索しようとする姿勢も表れていました。
【主な意見の分類と要約】
① 自国の文化を「自分事」として捉える意識(多数)
・和菓子に関心をもつ、和菓子をもっと食べるなどして応援したい
・「自分には関係ない」という考えをやめたい
・まずは、知ること、関心をもつことが大事
→文化を守るための第一歩は、「自分とのつながり」に気づくことだと考える意見が、多く見られました。
② 伝統文化を「進化させていく」という視点
・ただ守るだけではなく、変化を取り入れて伝えていく必要がある
・現代風にアレンジすることも、文化を継承する方法の一つだと思う
・デジタル等が普及した、今の時代に合った形に進化させないと、とだえる
→「進化」と「継承」を両立させるという現代的な考え方に共感する生徒が多く、伝統を守ることに対する柔軟な見方がうかがえます。
③ 若い世代が伝統や文化に関わるための工夫
・学校での体験活動や伝統や文化に触れる機会づくりが必要
・クイズなどで、楽しみながら学びたい
・まずは少しでもいいから、触れてみることが大切
→何かしらのきっかけを通じて、興味の入口を設けることが大切だという意見がありました。
④ 海外からの視点で気づいた日本文化の価値(少数)
・レオナルドのように、海外の人が、日本の文化を大切にしているのがすごい
・自分もハワイの文化と日本の文化を比べながら、大切なことを伝えていきたい(外国籍の生徒)
→レオナルドが日本の文化を尊重している姿から、改めて日本の文化の価値に気づいたという感想もありました。
⑤ 現実的な問題意識・課題提起(少数)
・工芸品より、百円ショップなどのほうがコスパはいいけど、価値の違いは感じたい
・職人が減っているからこそ、若者の関心を高めることが必要
・文化を伝える際に、その価値を感じさせる仕組みが必要
→伝統文化の継承のために、現実的な課題(価格、後継者不足、価値観の変化など)をどう乗り越えるか、という視点も見られました。
【まとめ】
この授業を通して、生徒たちは「伝統を守るのは年配の人の仕事」といったイメージを超えて、自分たちが「関わること」「知ること」「進化させること」の大切さに気づいていました。レオナルドのように、他文化をリスペクトしながら、自文化を見つめ直すことが、文化継承への第一歩になるという実感を得た生徒も多く、内容項目「C(17)我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度」にふさわしい、深まりのある学習になっていたといえます。

*千葉大学教育学部附属中では、道徳科の授業で学んだこと、それに対する先生からのコメントなどを、「未来へのヒントカード」という振り返りシートに記入させ、毎時間の学習を記録している。

(授業見学日:2025年7月15日)

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