教育情報誌「とことば」
2026年4月22日 更新
教室の中と外の世界をつなぐ今日的なテーマを「言葉」を切り口に追いかける教育情報誌「とことば」。
言葉のもつさまざまな側面を切り取りながら、子どもたちに言葉のもつ可能性や豊かな世界に出会わせる方法を考えていきましょう。
私たちの社会では、母語や文化が異なる多様なルーツをもつ人々がともに暮らしています。母語や文化が異なれば、同じ言葉から受け取るイメージや発想が違うこともあるものです。
では、日本語を母語としない子どもたちは、異なる言語文化の中でどのように言葉と向き合い、成長しているのでしょうか。そして、学校や周りの大人にはどのような支援ができるのでしょうか。
三つのエッセイを入り口に、学校や支援団体などへの取材を通して考えます。
枠にとらわれない学びの場づくり――人一人違うのが当たり前
外国籍または外国にルーツをもつ子どもが約6割在籍する南吉田小学校。教員、保護者、地域が一体となり、多様な背景の子どもたちを支えています。
地域社会に開いて学ぶ
「さまざまな背景をもつ子どもたちが、共に安心して暮らせる学校を目ざしていきたい」と話す金子正人校長先生。同校には、全校児童577人のうち、350人もの外国につながる子どもたちが通っている。多文化であることを生かした活動が盛んだ。多言語で読書会や運動会のアナウンスを行う他、近年力を入れているのが、地域と連携した取り組みである。昨年の夏休み明けには、自転車の通行ルールを守らない市民に悩む商店街から依頼を受けて、4年生の子どもたちが、地域の住民に向けてルールを周知する方法を考えた。そして、外国語を母語とする人たちにもわかるように、中国語やウルドゥー語などの多言語でアナウンスを行い、ポスターやCM制作に取り組んだ。
消防署の出前防災教室や、ケアプラザで働く専門員を招いた認知症サポーター講座など、公共施設と連携した取り組みは、子どもたちに地域の課題を共有する機会となる。金子校長は、このように、地域課題の解決に向けて共に動いていく過程で、全ての子どもたちに、自分たちにも役に立てることがあるという実感をもってほしいという。
語彙を増やして自信をつける
同校には2種類の国際教室がある。日本語の初期指導クラスと、学年ごとの国語の学習指導を行うクラスだ。国語の授業では、学年が上がるにつれて抽象的・概念的な言葉が増え、日本語を母語としない子どもたちにとってハードルが高くなる。そのため、教材の概要をつかみやすくし、学習のための語彙を補う。在籍学級と完全に分離しているわけではなく、導入やまとめの交流会は全員で行うなど、関わりながら進めることを大切にしている。
5年生の国際教室をのぞくと、国語教材「やなせたかし――アンパンマンの勇気」を学んでいるところだった。子どもたちの手元には、ワークシートとともに、教科書の巻末付録「言葉のたから箱」の「人物を表す言葉」のプリントが置かれている。登場人物の心情を表すのに適切な言葉を探し、絵などのイメージの助けも借りながら意味を覚える。「『顔を食べさせるなんて、ざんこくだ』。ざんこくってどういう意味?」「かわいそう」。先生の問いかけに対して子どもが即座に答える姿が印象的だった。「子どもたちは、大丈夫!と言われると自信がつきます。間違えても大丈夫。絶対に否定せず、頭を使ってもらうことで、どんどんしゃべるようになります」(5年生の国際教室担当の伊藤由美子先生)。
多様性を受け入れ、楽しむ
国際教室の指導にあたる先生は、計7名。外国ルーツの子どもたちが増えていく中で懸念される課題の一つに、教える人・支援する人の不足がある。しかし同校では、母語支援ボランティア、地域協働本部などの保護者ボランティア、地域の学生ボランティアなど、さまざまな仕組みを活用して、少人数ごとの支援体制が整えられている。
「日本語教育の専門性をもった人材の育成は大切ですが、それと同じくらい大切なのが、多様性を受け入れる姿勢です。本校では、枠の中に収まりきらないことばかり起きます。そういうことを受け入れる土壌があって、一緒に楽しんでいける教員が、現場の求めている人材です」。(金子校長)
同校の子どもたちは、一人で考えるときや、同じルーツの子どうしで話し合うときには母語を使うこともあるが、みんなに意見を共有するときは日本語を使う。日本に来たばかりの子どもと先生の間を他の子どもが通訳したり、子どもたちどうしでサポートし合う姿も日常的に見られるという。5・6年生になると、子どもたちは児童会で「よりよい学校にするためにはどうすればよいか」を自分たちで考え、多様なルーツの子どもたちが多いからこそできること、やりたいことに、主体的に取り組んで実現していく。
「みんなが一緒じゃなきゃいけないという考え方ではなくて、一人一人個性があって当たり前で、それでもお互いに受け入れながら生活していける、そんな共生社会を実現できたらと思います」と、金子校長は将来を見据える。