みんなで考える「やさしい日本語」
2026年5月22日 更新
岩田一成・島野聡子
日本語教育を専門とされる岩田一成先生が聞き手となり、熱海市立桃山小学校の島野聡子校長先生に、「やさしい日本語」の取り組みについてうかがいました。第2回は、小学校の現場で行われているコミュニケーションについてです。
子どもに合わせたコミュニケーション
岩田:
もともと学校の先生は、子ども相手に言葉を調整したりするのに慣れている方が多いですよね。「やさしい日本語」と教員って、相性がよさそうに思うんですけど、どうでしょうか。
島野:
小学校の教員は相性がいいんじゃないかなって思います。いちばん小さい子は6歳ですから、6歳に伝わるように話そうと思うと、やっぱり言葉を吟味します。特別支援教育でも、伝わらないときに違う言葉で言い換えると、余計に伝わらなくなってしまうので、1回できちんと理解できるように、とよく考えます。中学校の場合は、子どもがそれなりに大きいので、そういう選択をしなくても、ある程度、会話が成立してしまう感じはしますね。
岩田:
教員でも、小学校か中学校かで違うということですか。
島野:
話すスピードも変わってきますよね。小学校の先生はゆっくりしゃべる傾向があります。

岩田:
ほかにも、先生方が日頃、意識していらっしゃることはありますか。職員研修などで、こういうことをやりましょうって言われるような項目とか。
島野:
もし一人で寂しそうにしている子がいたら、輪の中に誘導するような声かけとか、遊びの提案とか、しているんじゃないかなと思います。職員室でも、今日こんなことがあって……というのは、教員同士でわりとよく話すんです。経験のある先生が、若手の先生にアドバイスをしたり、こんなふうにしたらって提案したり。
これまでのやり方を生かして
岩田:
島野先生は、特別支援教育にもかかわってこられたそうですね。そのノウハウとか教え方は、外国ルーツの子に対しても、うまく応用できることがありそうです。
島野:
私は岩田先生の研修を受けたとき、ああ、同じだなって思いました。少なくとも、出だしは特別支援と同じかなと。
岩田:
具体的に同じだなっていうポイント、何か思いつくのはありますか。
島野:
遠回しな話をしない。してほしいことを先に言って、そのあと徐々に説明していく。あとは、絵を使うとか。それは間違いなく一緒だなと思います。だから、これまでも“わかりやすい説明”については考えてきたんですが、岩田先生の研修を受けて、それに「やさしい日本語」という名前があることを知ったんです。
岩田:
なるほど。それはいいお話ですね。名前が付くことで、これまでやってきたことを振り返ることができたわけですね。
島野:
そうなんです。名前が付いたことで、自分たちの活動はこういうことだったんだ、と自信をもてたというか。名前がわかれば、それについて調べることもできるようになります。

文化の違いをどう乗り越えるか
島野:
もう一つ、大きな課題だと思っているのは、文化の違いです。言葉をやさしくしても伝わらないとか、意味は伝わっているはずなのに、相手の行動が伴わないということがあって、難しさを感じます。書類を読んで記入したのに、書いてあることを全然守っていなかったりとか。でも、相手には全然悪気はなくて……
岩田:
言葉だけが伝わっていても、内容がちゃんと理解されていないときがある。たしかにそうですね。
島野:
説明不足ではなくても、真意が伝わっていないことがあるっていうのは、考えておかなきゃいけないと思いました。普段から「やさしい日本語」で伝える習慣をつけておかないと、緊急時にもやっぱり伝わらない。育ってきた文化をほんの数か月で変えろ、なんていうのはおこがましいですし、自分もきっとできないので、関係を積み重ねていく中でわかってもらうしかないですね。
(2026年3月23日 光村図書にて)
岩田一成(いわた・かずなり)
聖心女子大学教授、博士(言語文化学)。元青年海外協力隊隊員(中国派遣日本語教師)。大阪大学大学院言語文化研究科修了。専門は日本語教育、日本語文法。国・自治体の職員や教職員に向けた研修アドバイザーを務めるなど、いろいろな組織の文章改革に伴走している。モットーは「風通しの良い社会は、すっきりした文章から!」。
著書:『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『読み手に伝わる公用文』(大修館書店)、『新しい公用文作成ガイドブック』(日本加除出版)ほか