みんなで考える「やさしい日本語」
2026年5月22日 更新
岩田一成・島野聡子
日本語教育を専門とされる岩田一成先生が聞き手となり、熱海市立桃山小学校の島野聡子校長先生に、「やさしい日本語」の取り組みについてうかがいました。初回は、学校のお知らせに関するお話です。
多様な背景をもった子どもたち
島野:
熱海市立桃山小学校は、今年度(令和7年度)は全校で40名の小規模な学校です。1クラスは少なくて5人、多くて9人で、複式学級もあります。小規模ながら児童には多様な背景があり、外国にルーツをもつ子もいます。外国ルーツでも、日本語がペラペラの子もいますし、まったく日本語の話せない子もいました。
岩田:
日本語が話せない子たちに対して、どんな対応をされましたか。
島野:
日本語が話せない子に対しては、最初かなり苦労しました。みんなが国語で漢字をやっている中で、その子だけひらがなの勉強をしているとか、そんな形でしたね。
岩田:
おもに担任の先生が対応してくださったんですか。
島野:
対応は学校全体で考えますが、中心となるのは担任、授業担当者です。あとは、教頭が日本人学校での勤務経験があって、外国ルーツの子への配慮が行き届くので、いろいろ案を出してくれます。AIを使ってクイズを作ってあげたりとか。

岩田:
個別に丁寧に対応されているんですね。これは小規模の小学校だからできるんでしょうか。
島野:
熱海市内は、そんなに規模の大きい小学校はないので、熱海にいる外国ルーツの子は、比較的支援が受けられているんじゃないかと思います。
岩田:
日本語の力がうまく伸びる子について、何か特徴みたいなものはありますか。もともとおしゃべりだったとか、理解が早かったとか。
島野:
やっぱり心を開いてくれたことでしょうか。うまくなじめた子は、友だちもできて、よくサッカーをしている声が聞こえていました。一緒に遊べる友だちがいると、母国に帰りたいという気持ちにもならないみたいで。日本語がまったく話せなかった子も、1年間ですっかり担任とやりとりができるようになりました。
「やさしい日本語」研修を受けて
島野:
静岡県は多文化共生を掲げていて、岩田先生に講師としてお越しいただいた「やさしい日本語」研修も、静岡県教育委員会の発案でした。
岩田:
僕自身は2019年ぐらいから関わっています。静岡県教育委員会は、国が本格的に「やさしい日本語」の取り組みを始める前から、独自の動きとして、外国人向けの対応をやっていきましょうっていう提案をしていますよね。
島野:
静岡は、もともと外国ルーツの子ども、特にブラジルルーツの子が多かったという背景はあると思います。熱海は、近年インバウンドで観光業が盛り上がってきたときに、外国からの労働者の方が増えました。
岩田:
僕は、今年度(令和7年度)は、焼津と熱海で2回ずつ研修の講師を務めました。研修では、学校のお知らせを「やさしい日本語」で書き換える練習をしましたが、あのあと、どんな取り組みをなさっていますか。
島野:
たとえば、長期休暇の前に配る生徒指導のお知らせは、内容が細かくて、本当に伝えたいことがわかりにくかったんです。今回の春休みのお知らせは、担当者が試行錯誤して、いらないであろう情報を消してみたり、イラストを入れて日本語だけではない伝え方をしてみたり、工夫の跡が見られました。
岩田:
養護教諭の先生も、お知らせを工夫したとおっしゃっていましたよね。
島野:
「保健だより」ですね。いつも情報量が多くなりがちだったんですが、必要なところにしぼって、だいぶすっきりしたと思います。ルビも全部振ってあります。
学校のお知らせをわかりやすく
島野:
ただ、卒業式とか入学式とか、式典の通知はやっぱり従来の伝統的な文面で書かないといけないという意見がありまして。じゃあ「学年だより」なら簡略化できるかって言うと、「学年だより」は、今月こんなことをやりましたって、担任が保護者に伝える場なんですよね。
岩田:
学校の様子を伝えることは、きっと先生にとっても楽しいお仕事ですよね。そうすると、やめましょうって言うのは難しいですね。

島野:
式典のお知らせについては、AIを使って、保護者の母語で作るほうがいいのかなとも思ったんですが。
岩田:
言語別で用意するのは、先生方の負担が大きいですよね。だから、電子媒体で日本語のお知らせを出して、各自で翻訳してもらう形がいいんじゃないかなと。その日本語がはっきりと短く書いてあると、翻訳のミスが減ります。ちなみに、お知らせの電子化は、今どんな状況ですか。
島野:
桃山小は、「学年だより」は紙で出している学年もありますけれども、もうほぼ100%電子です。
岩田:
じゃあ、受け取った人は、ほとんどが自分で翻訳して読めるっていう形になっているんですね。
(2026年3月23日 光村図書にて)
岩田一成(いわた・かずなり)
聖心女子大学教授、博士(言語文化学)。元青年海外協力隊隊員(中国派遣日本語教師)。大阪大学大学院言語文化研究科修了。専門は日本語教育、日本語文法。国・自治体の職員や教職員に向けた研修アドバイザーを務めるなど、いろいろな組織の文章改革に伴走している。モットーは「風通しの良い社会は、すっきりした文章から!」。
著書:『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『読み手に伝わる公用文』(大修館書店)、『新しい公用文作成ガイドブック』(日本加除出版)ほか