みんなで考える「やさしい日本語」
2026年4月24日 更新
岩田一成 聖心女子大学教授
日本語教育・日本語文法を専門とされる岩田一成先生に、「やさしい日本語」の考え方について、お話をうかがいました。
大切なのは相手に合わせること
「やさしい日本語」のコツ
①話し出す前に整理する②一文を短くし、語尾を明瞭にして文章を区切る
(「です」、「ます」で終える)
③尊敬語・謙譲語は避けて、丁寧語を用いる
④単語の頭に「お」をつけない(可能な範囲で)
⑤漢語よりも和語を使う
⑥外来語を多用しない
⑦言葉を言い換えて選択肢を増やす
⑧ジェスチャーや実物提示
⑨オノマトペは使わない
⑩相手の日本語の力が高い場合は「やさしい日本語」をやめる
「やさしい日本語」のコツとして、10点を挙げていただきました。②「一文を短くし、語尾を明瞭にして文章を区切る」は大事なポイントですが、正確に情報を伝えようとすると、どうしても修飾語が増え、文が長くなってしまいます。
たとえば、パソコンショップで「この10万円のパソコンと11万円のパソコンの1万円の差は何ですか」と聞くと、CPUの構造から説明する店員さんがいます。その人にとってはそれが正確さなんですが、こっちにとっては「そんなもんいらんよ」ってこともありますね。ですから、重要なのは、正確さをちゃんと相手の関心に合わせているか。たとえば、軽自動車について、税金の話なら「税金が安い車です」という説明になりますが、サイズの話なら「小さい車です」となり、色の話なら「ナンバープレートが黄色い車です」となります。
相手が知りたいことをパッと伝えられるのが、「やさしい日本語」だと思うんです。それができないのは、調整がうまくできていないということですね。
話し言葉では、相手の反応からも判断できますが、書き言葉ですと、一方的なコミュニケーションになってしまうこともありそうです。
書き言葉の場合は全方向に投げるからですよね。書き言葉については、内容を整理した上で、相手の関心に合わせて情報を取捨選択した「プレイン・ジャパニーズ(plain Japanese)」が基本です。これを「やさしい日本語」と区別するような動きが出てきています。まず日本人にとってスムーズに伝わる表現、つまりプレイン・ジャパニーズにしておけば、そこから「やさしい日本語(easy Japanese)」に変換するのは、そんなに手間がかかりません。何を正確さと考えるか、相手が何を必要としているかを見極めることで、正確さとわかりやすさの両立は可能だと思います。

わかりやすさと丁寧さも両立が難しいと感じます。③「尊敬語・謙譲語は避けて、丁寧語を用いる」について、不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
「やさしい日本語」では、別にタメ口で話そうと提案しているわけではありません。丁寧語の「です・ます」は維持しながら、尊敬語・謙譲語だけ外しましょうという提案です。知らない日本人を相手に、いきなり「元気?」とか「今どこ住んでる?」なんて聞かないのと同じです。丁寧語と尊敬語の区別がついていない人が多くて、そこがうまく伝わっていないんですよね。文化庁の調査でも、丁寧体は敬語ではないと思っている人が多いという結果が出ています。
ふだん使っている尊敬語や謙譲語を外すとなると、柔軟な能力が必要です。「ご記入ください」と言ってみて、伝わらなければ「書いてください」と言い換えられるような能力ですよね。いつもの言い方を使ってみて、伝わらなければ外していくという、何段階かのアプローチがいいと思います。敬語が問題なく通じる方もいますから。⑩「相手の日本語の力が高い場合は『やさしい日本語』をやめる」、これが大事です。これも相手に合わせて調整をするということです。
そういった調整のスキルは、さまざまな方と接する中で経験として培われていくものですか。
経験は大きいと思います。研修でも練習したりするんですが、やはり自分でやってみないとダメです。自転車の乗り方講座を受けても、自分で何回も乗らないと乗れるようにはならないですよね。ですから、すぐに成果は出ないと思っています。時間はかかる。研修を受けた時には、まあそんなもんかぐらいだと思うんですが、何回か実践を繰り返して身につくのではないでしょうか。
相手の立場で読んでみる
「やさしい日本語」の必要性を感じながらも、その時間や手間をかける余裕がない、という現場もありそうです。そういったコストについて、どう考えたらよいでしょうか。
たとえば、学校のお知らせについては、挨拶文を省けば、それを書く時間が全部空きますよね。わかりやすく書いてあれば、子どもたちが自分で読めるので、忘れ物も減り、それも結局、先生の負担軽減になります。休日登校の日を忘れてしまう子どもも減ると言われていて、むしろコストを減らすことになるんです。
ある県では、住民に提出物を求める書類を出したところ、提出されたうち20%にミスがあったそうです。その文章を見せてもらったんですが、Aの書類を出す人、Bの書類を出す人の基準があいまいでわかりにくいものでした。提出された20%にミスがあると、その20%を返却して書き直させて、もう一度集める。その郵送コストと事務コストをかけるくらいなら、最初からプレイン・ジャパニーズで書けばいいですよね。読んだ人が行動できるかどうか、チェックしてから出せば、20%のミスなんてありえないと思います。
トラブル回避のために、補足事項や免責事項をたくさん書き連ねている書類も多いように思います。
ちなみに北欧やアメリカでは、読みにくいお知らせ自体が訴訟の対象になるので、むしろはっきり書いたほうが大きなコストカットになります。日本とは訴訟に関する状況が違いますが。一方で、情報を絞りすぎたため、「そんなことは書いていなかった」という訴訟が起こる可能性がある場合には、訴訟が起こったらコストが上がってしまいます。ですから、何でもかんでもコストカットとは言えない部分があって、そこには注意が必要です。
書いた文章に対するチェックは、専門家にしていただく必要がありますか。
研修の参加者に、わかりづらい文章を読んでおかしなところを指摘してもらうと、いいコメントがいろいろ出ます。要は誰でもいいので、とりあえず第三者に見てもらうと、ここが変だよ、という指摘はできると思うんですよね。
自分一人で書くとなかなかうまくいかないですが、誰かにチェックしてもらって、読んだ人がすぐ行動できるかを確認する。そのチェックがあると、全然ちがいます。組織内にいると、そこがわからなくなってしまうこともあるので、第三者のつもりで読む訓練も必要です。
(2026年2月20日 光村図書にて)
岩田一成(いわた・かずなり)
聖心女子大学教授、博士(言語文化学)。元青年海外協力隊隊員(中国派遣日本語教師)。大阪大学大学院言語文化研究科修了。専門は日本語教育、日本語文法。国・自治体の職員や教職員に向けた研修アドバイザーを務めるなど、いろいろな組織の文章改革に伴走している。モットーは「風通しの良い社会は、すっきりした文章から!」。
著書:『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『読み手に伝わる公用文』(大修館書店)、『新しい公用文作成ガイドブック』(日本加除出版)ほか
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