みんなで考える「やさしい日本語」
2026年4月24日 更新
岩田一成 聖心女子大学教授
日本語教育・日本語文法を専門とされる岩田一成先生に、「やさしい日本語」の考え方について、お話をうかがいました。
英語より日本語のほうが伝わる?
「やさしい日本語」は、阪神・淡路大震災をきっかけとして生まれたと言われます。その後、在住外国人が増加し、多国籍化する中で、現状をどうご覧になっていますか。
90年代に外国人が急増したのですが、たとえば工場の中にいらっしゃると、多くの日本人は接触する機会があまりなかったんですね。「やさしい日本語」が広まったきっかけは災害だとよく言われますが、災害によって、本格的に日本人と外国人が接触することになったということだと思います。
話し言葉の「やさしい日本語」は、災害以外の場面でも、接触が起これば必要になっていきます。外国人は、今は人口の3%くらいですが、数が増えれば、「やさしい日本語」の必要性は、話し言葉においては自然に広がっていくと思うんです。伝わらなければ話す人自身が困るし、英語では伝わらないということがわかれば、「やさしい日本語」を使うしかない。でもまだ英語への過信が強くて、外国人を見たらすぐ英語をしゃべったり、外国人が日本語で話しかけてきても英語で返事をしたり、そういう報告がたくさんあります。
日本語より英語のほうが伝わるわけではないということでしょうか。
各種調査では、在住外国人で英語がわかる人は2~4割という状況ですから、英語が必ず伝わるわけではありません。英語話者じゃないのに英語で説明を受けて困ったというエピソードは、いろんなところで耳にします。相手に「英語でお願いします」と言われた時だけ英語にするのが、スマートなコミュニケーションですね。ちなみに日本語は、8割以上の人が「話せる」と回答していますから、日本語で話しかけたほうが比較的うまくいきます。
各地で広がる取り組み
各地の自治体や学校の「やさしい日本語」研修で講師を務めていらっしゃいます。現場での必要性や広がりについて、どうご覧になっていますか。
自治体は、外国人の割合が10%ぐらいになると焦り出すと言われますが、おそらく職員さんは、5%を超えたあたりで大変だなと気づくんだと思います。
たとえば、役所の案内板の日本語に、英語が併記されていることがありますが、ひらがなを振ったほうが伝わる確率は高いです。文化庁の調査だと、ひらがなが読める外国人は約85%という調査が出ていますから。そういう理解のもとに、ひらがなを振っている自治体なんかを見ると、動き出しているなという感じがします。僕が研修で行った中だと、静岡県袋井市とか、あとは僕の実家のある滋賀県彦根市も、しっかりとひらがなが使われていますね。

両親の都合で来日する子どもたちは、日本語がまったくできない状態で学校に入るケースも多いと聞きます。学校の現場についてはいかがでしょうか。
学校の先生は、もともと調整能力の高い方が多いので、子どもには対応できると思います。ただ、「連絡帳」「上靴」「遠足」「修学旅行」のような、「学校カルチャー語彙」と呼ばれる語彙は、外国から来た子どもにはまったくわからないということを意識しているかどうか。そういった理解はまだまだでしょうか。みんな当然知ってるでしょう、という体で先生が話すと、外国人の子たちは苦しいと思うんですよね。ですから、わからない子がいるかもしれないと、ちょっと考えてもらうだけでも、ずいぶん変わっていくような気がします。
地域によって呼び名が違うものもあって、たとえば「ピアニカ」は、「メロディオン」や「鍵盤ハーモニカ」と呼ぶ地域もあります。僕の子どもの小学校は、ピアニカ本体は学校にあるものを使って、吹き口だけ自分のを買うんですけど、「吹き口」という言葉も、ピアニカを使ったことのない人にはわからないですよね。
一般の保護者にも、うまく伝わらないことがありそうですね。
そうですね。「やさしい日本語」の対象は、けっして外国籍の方だけではないと思っています。学校のお知らせについては、もう少しわかりやすくしてほしいと、日本人の保護者も思っているのではないでしょうか。冒頭にある挨拶を含め、全体をきちんと読んでいる保護者は16%しかいないというデータも出ています。
学校のお知らせについては、東京都や静岡県、大阪府など、すでにいろいろな自治体で「やさしい日本語」の取り組みが進んでいます。それでも全国的に見ると、10行ぐらい挨拶を入れるのが当たり前っていう文化は、やはり根底にある気はしますね。そういう意識を変えていくことが、なかなか難しいと思います。
さまざまな発達の特性をもった児童生徒に対しても、「やさしい日本語」が役立つ場面がありそうです。
たとえば、ディスレクシア(※)は人口の約7~8%いらっしゃるので、外国人よりも多いんです。むしろ日本人の側にも、文章を読むのに困っている人がいるということです。そう考えていくと、「やさしい日本語」のターゲットはもう外国籍の方だけではないですよね。
- 学習障害のひとつのタイプ。文字の読み書きに困難を抱える。全体的な発達には遅れはないが、そのことによって学業不振が現れることがある。
(2026年2月20日 光村図書にて)
岩田一成(いわた・かずなり)
聖心女子大学教授、博士(言語文化学)。元青年海外協力隊隊員(中国派遣日本語教師)。大阪大学大学院言語文化研究科修了。専門は日本語教育、日本語文法。国・自治体の職員や教職員に向けた研修アドバイザーを務めるなど、いろいろな組織の文章改革に伴走している。モットーは「風通しの良い社会は、すっきりした文章から!」。
著書:『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『読み手に伝わる公用文』(大修館書店)、『新しい公用文作成ガイドブック』(日本加除出版)ほか
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