「よりよく生きる」って、なんだろう。
2026年1月30日 更新
光村図書 道徳課
道徳教科書編集部が、いろいろな分野で活躍している方々に、情熱を傾けていることを伺いながら、「よりよく生きること」について考えていきます。今回は、坂口恭平さんにお話を伺いました。
坂口恭平さんは、作家、建築家、画家、音楽家、「いのっちの電話」の活動など、多岐にわたって活躍をしています。後編では、子どもとの関わり方・「よりよく生きる」ことについてききました。
※「いのっちの電話」とは、坂口さんが個人の携帯電話番号(090-8106-4666)を公開して、悩みをもつ人のお話を聞く活動です。
間違ったら「アイムソーリー」
坂口さんは、子育てで、何か意識していることはあるのでしょうか。
大事なことは、間違ったと思ったときに、「アイムソーリー」って言うことだけだと思っています。僕がおかしいと思ったら謝る。だけど一般的に、親は子どもに、間違ったときにごめんなさいって言えない。それが大きな問題なんです。家族でも、お互いに謝り合えるような、そういう尊重し合える関係性でいることが大切なんじゃないかな。
親子がフラットな関係でいるために、坂口さんがされていることは何ですか。
たとえば、僕は躁鬱病(双極性障害)で悩んでいるということを伝えているし、鬱状態の姿も見せています。そんなの、これまで誰もいい教育だって思っていなかったと思うけど、躁鬱病とめっちゃ向き合っていること、鬱状態でもどうにかして生きていこうとしていることが伝われば、問題ないんですよね。
注意聞きすぎ注意報!
尊重し合える関係を築くために、大切なことは何ですか。
大事なのは、注意しないことだと思っています。本来大切なのは、その人を盛り上げるような言葉だったり、自分の経験からわかったことを伝えたりすることなんです。でも今、いろんな人の相談を受けていると、みんな注意という名の「警告」ばかりされているんですよ。たとえば、車を運転したことのない人が、運転しようとしている人に「不器用なんだから、運転しないほうがいいよ」って言っているみたいな。そんなふうに、経験をしていないのに、その人を否定するようなことを言う人がとても多いですね。「この人のここはいいんだけど、ここを直しなさい」って。そうやって、人に「警告」ばかりしてしまうと、相手と尊重し合う関係性から遠ざかっちゃうんじゃない?

しかも、注意されたときに言い返す能力は、みんなほとんど培えてないんです。だから、「注意聞きすぎ注意報」。僕からは「注意を聞くな」という注意しかありません(笑)。
注意を聞かないのは、結構難しい気がしてしまいます……。
親であれ、周りの人であれ、注意されたときに大事なことは、その人が経験したことないようだったら、耳に入れないこと。仮に、耳に入れてしまっても、右から左に流す。注意が、全部自己否定につながってきますから。自己否定をしないためには、人の注意を聞き入れないということが最低条件なんですね。
自分の薬を作る
他に、自己否定をしないための方法って、何かありますか。
自分で自分を助けるようにしましょう、ってことだけですね。僕は「自分の薬を作る」という言い方をしているんですけど。自分の薬の作り方を見つけてもらうために、僕の知っていることや経験してきたことを伝えて、あなたにもできるからやってみてと背中を押す。わからなくなったらすぐに僕に連絡してと伝えて、いつでもフィードバックできるようにする。これらを一人一人に対してオーダーメイドでやっているのが、「いのっちの電話」です。あとは、人に優しくってことくらいかな。

今でも、たくさんの人からの電話に出ていますよね。坂口さん一人だと、物理的に大変なのではないかなと感じているのですが。
ゆくゆくは、セルフケアの方法を身につけるための場所を作ってみたいです。地域のヨガ教室みたいなイメージで。自分で自分を助けるようになって、初めて大人という状態になるんだと思います。
子どもにも、同じような場所を展開する構想はあるのでしょうか。
子どもにはもう少し具体的に、それぞれの能力や技術を高めるための場所を作っていきたいですね。それこそ地域密着型の教育ですよ。あまり学校にはなじめないなって子も受け入れて、みんなで助け合うような。「株式会社子ども」って名づけて、何かを作って稼ぐ活動をするんですけど、ペースは人それぞれでいいですし、別にお金にならなくたっていい。そんな理念をみんなで共有して、ここに入れば、自分の好きなことを好きにできるみたいな。地域の芸術家や技術者を呼んで講師になってもらえばできると思うんですよ。

よりよく生きなくていい
では、最後に、坂口さんにとって「よりよく生きる」とはどういうことか、教えてください。
「よりよく生きる」とは、「よりよく生きようとしなくていい」と考えることだと思います。「よりよく生きる」っていうのは、裏を返せば、現状がだめだと思うことじゃないですか。「あなたはだめだから、もっと努力しなさい」って。それは、現状の自分を否定することにもつながってしまう。昨日より今日は成長しなければならないと考えてしまうことは、必要以上に自分を傷つけてしまうことになるんじゃない?
皆さんも、朝起きたら「何も変えなくていいよ。今日は何一つ変えないで生きてみよう。」って言ってみてください。人生で言われたことないでしょ?

写真(ご本人提供を除く):所 直輝
坂口 恭平(さかぐち・きょうへい)
1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家など多彩な活動を行う。2004年、日本の路上生活者の住居を収めた写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。2012年から、悩みをもつ人からの電話を受ける、「いのっちの電話」の活動を、自身の携帯番号(090-8106-4666)で続けている。著作に『苦しい時は電話して』(講談社)、『躁鬱大学』(新潮社)、『土になる』(文藝春秋)、『生きのびるための事務』(マガジンハウス/道草晴子との共著)、『赤松』(palmbooks)など多数。
- このシリーズの目次へ
- 前の記事
-
次の記事