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「動き」+端末活用=心が成長する道徳授業 近野秀樹先生

道徳科授業レポート(中学校)

2026年3月6日 更新

近野秀樹 立命館慶祥中学校・高等学校 教諭

アナログのよさを生かした「『動き』のある授業」と、デジタルのよさを生かした終末の振り返り。その目的やポイントを紹介します。

道徳科授業レポート「裏庭での出来事」と合わせてご覧ください。

はじめに

日々授業をされている先生方、道徳の授業に手応えを感じていますか。さまざまな授業を拝見する中で、「どうすれば、授業が子どもたちの心の成長につながるのだろう」「どうすれば、心に響いたり、心を揺さぶったりする授業ができるのだろう」という先生方の真摯な思いに、いつも触れています。道徳の授業は、「わかってはいるけれど、心に響かない」といった状況に陥りやすい難しさがありますよね。

最近は、学習者用端末が整備され、授業の風景も大きく変わりました。しかし、以前の板書やワークシートが、そのまま画面の中に「置き換わっただけ」で、やっぱり心に響く授業は難しい。もし、そんなお悩みを感じていらっしゃるとしたら、それは授業の本質を見つめていらっしゃる証拠です。

大切なのは、道徳の教科化以前から研究されている「道徳的価値」「教材の特質」「子どもの実態」についてしっかりと押さえつつ、アナログとデジタルそれぞれのよさを融合させることだと感じています。

私は、アナログのよさは「『動き』のある授業」として、デジタルのよさは終末での感想を書く活動で取り入れています。この記事では、アナログならではの感覚や温かみと、デジタルツールの利便性の両方を取り入れた授業を提案していきます。

「『動き』のある授業」って、どんな授業?

「『動き』のある授業」が目ざしているのは?

「『動き』のある授業」では、限られた授業時間の中で生徒一人一人が教材の場面に入り込むこと、それを基に「全員参加の対話」を通して一人一人の道徳性を育むことを目ざしています。2017年から2024年の日本道徳教育学会等で、磯部一雄先生(立命館慶祥中学校・高等学校)や杉中康平先生(四天王寺大学)といっしょに、この手法について発表もしてきました。

「『動き』のある授業」では、具体的には以下の2つの活動を行います。

動きⅠ:教材の場面を再現する、体験的な活動

教材の中心となる場面を取り上げ、生徒自身がその場面を動作や表情などで再現し、それを再現したときの気持ちを共有する。

動きⅡ:その時点での考えを全員に表出させ、対話のきっかけを作る活動

ミニホワイトボードに各自の考えを書き、全員分のホワイトボードを黒板に貼る。全員が全部の意見を読む時間を取り、その後、各自で、「共感する・わかる」と感じた意見には緑の磁石を、「質問したい・詳しく聞きたい」と感じた意見には青の磁石を置く。全員が磁石を置き終わった段階で、それらを基に、全員で対話を進める。

各自がミニホワイトボードに、自分の考えを書く 画像
各自がミニホワイトボードに、自分の考えを書く
ミニホワイトボードを黒板に貼り、全員で読む 画像
ミニホワイトボードを黒板に貼り、全員で読む
各自で、「共感する・わかる」と感じた意見には緑の磁石を、「質問したい・詳しく聞きたい」と感じた意見には青の磁石を貼る 画像
各自で、「共感する・わかる」と感じた意見には緑の磁石を、「質問したい・詳しく聞きたい」と感じた意見には青の磁石を貼る

「動きⅠ」は、生徒が教材場面に入り込み、登場人物の置かれた状況や立場を自分事として捉えること(=自我関与)を目的としています。

いっぽう「動きⅡ」は、「動きⅠ」で得た自我関与をきっかけに対話を生み出し、考えを広げたり深めたりすることが目的です。ここでいう対話とは、生徒どうしのみならず、生徒が教師と、そして自分自身と、さらには、教材とも対話することを想定しています。50分の授業の中では「動きⅡ」にかける時間がいちばん長くなるよう、授業を組み立ています。

具体的な授業の展開は、道徳科授業レポート「裏庭での出来事」をご覧ください。

道徳の授業に「動き」を取り入れることのメリットは?

「動き」を取り入れたからといって、道徳の授業の本質が変わるわけではありません。従来のような「指名発言と板書」を軸とした授業と同様に、教師が「教材をどう分析するか」、「何を問うか」、「生徒の意見に対して、どう問い返すか」は「『動き』のある授業」でも重要です。

では、授業に「動き」を取り入れることの利点とは何でしょう。

私は、「全員」が自分の考えを一気に表出できること、また、その考えに対して「全員」が意見表明をすることで「全員参加の対話」のきっかけが生まれることだと考えています。

「道徳の授業で発言する生徒は、いつも同じ子になりがち」と悩んだことはありませんか。この「『動き』のある授業」は、そうした課題を解決し、全員が参加する対話を生み出せる可能性、そして、対話の長さと深さを確保できる可能性を秘めているのです。

こうした授業を重ねていくと、生徒たちは変化していきます。例えば、一人一人の考えの違いを積極的に認めつつ自分の考えを深めようとしたり、青マグネットを貼った生徒の質問がベテラン教師の問い返しのような深さになったり、授業後の感想に複数の価値をまたいだ記述が増えたりしています。

さらに、変化するのは生徒だけにとどまりません。生徒の本音に心を動かされたり、視野を広げられたりするのは、私たち教師も同じですよね。私の中学校では、道徳の授業があった日の職員室で、印象に残った生徒の意見や感想、表情、場面再現の様子などが、ごく自然に、とても明るい雰囲気で話題に上ります。「『動き』のある授業」が、先生方の生徒理解や対話をも動かしているということだと捉えています。

アナログとデジタル、よいところを取り入れる

GIGAスクール構想で一人一台端末があたりまえになってからは、「全員参加の対話」というと、デジタル授業支援ツールを活用して、全員の意見をモニター上で可視化するなどの手法を取ることも多くなりました。もちろん、それらは非常に便利で強力なツールです。

しかし同時に、こんな課題を感じたことはありませんか。

意見交流をしているのに、それぞれが端末の画面を見つめていて、どうしても目線が下がってしまう。
「対話」なのに、お互いに目を合わせない。

私も、このような端末活用のデメリットが気になった時期がありました。現在は、道徳の授業では顔を上げ、お互いの存在を感じながら行う対話のよさを最大限に生かしたいと考え、アナログとデジタルを使い分けています。例えば、今回ご紹介している「『動き』のある授業」では、

  • 発問に対する考えの表出、それを基にした対話は、ホワイトボードや磁石を使う、あえての「アナログ」
  • 個人の感想の記入・提出は、記入時間や提出期限の融通が利きやすいように「デジタル」

このように、目的に応じてそれぞれのよいところを取り入れるようにしています。

もちろん、教材の特質や教室のICT環境、なにより生徒の実態に応じて、対話や交流にも端末を活用したり、振り返りを紙のワークシートで行ったりすることも検討すべきです。大切なのは、「デジタルがいい」「アナログがいい」と決めつけることなく、授業のねらいに迫るためにはどういったアプローチがよさそうか、しっかり考えて選択することだと感じています。

「『動き』のある授業」に関するQ&A

Q1

中学生は多感な時期でもあります。生徒が恥ずかしがって「動きⅠ」の場面再現をしたがらなかったり、真面目に取り組もうとしなかったりすることはありませんか。

A1

もちろん、初めて場面再現に挑戦する際は、生徒たちが恥ずかしがり、うまくいかないことのほうが多いと思います。しかし、そこは「うまくいかなくても普通」と安心してください。大切なのは続けること。回数を重ねるごとに、生徒自身が深い自我関与と対話のよさを実感し、驚くほど意欲的に参加してくれるようになります。また、これは学級経営の視点になりますが、席替えのたびに新しいペアやグループで「動きⅠ」を実践することは、学級内の多様な生徒どうしが、道徳の対話以外ではなかなか気づきにくい違いを感じつつも認め合う、心の交流をする貴重な機会になります。目に見えない違いを表出させつつ、互いに認め合う道徳の授業は、ダイバーシティやインクルージョンという視点からも、学級づくりに役立っていると、私自身は感じています。


Q2

「動きⅡ」で、ホワイトボードに磁石を貼っていく際、青の磁石(質問したい・詳しく聞きたい)を貼られるのを嫌がる生徒や、1つも磁石が貼られないことを不満に思う生徒はいませんか。いる場合は、どのように声をかければよいのでしょう。

A2

授業のグランドルールとして、「磁石の数は関係ない」「磁石がないのは、質問不要なほど伝わったということ」「青い磁石は非難ではなく、あなたに興味があるというサイン」といった声かけを、しつこいほど繰り返しています。相手を非難するような交流をしないという安心・安全の場を作ることが、道徳の授業を行ううえで重要なことだと考えています。

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