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中学1年 なんだろう なんだろう 「正義」って、なんだろう。

道徳科授業レポート(中学校)

2026年6月12日 更新

三上由貴 栃木県宇都宮市立河内中学校 教諭

光村図書「中学道徳1 きみが いちばん ひかるとき」より、コラム「なんだろう なんだろう」(ヨシタケシンスケ)を使った実践をしました。

教材の内容

  • 内容項目:A(1)自主、自律、自由と責任/B(9)相互理解、寛容/C(11)公正、公平、社会正義 など
  • ねらい:生徒による問い作りを通し、自分自身の生活とつなげながら、正義についての理解を深め、道徳的実践意欲を育てる。
  • 教材のあらすじ:ヨシタケシンスケ作「なんだろう なんだろう」は、教科書にコラムとして、各学年1本ずつ掲載している作品です。1年生のテーマは「正義」。絵本作家であるヨシタケさんが、さまざまな場面や状況を示しながら、読者に「正義って、なんだろう。」と問いかけています。

わたしの授業、ポイントはココ!

子どもたちが、小さな頃から慣れ親しんだ絵本作家・ヨシタケシンスケさんの描く「なんだろう なんだろう」は、生徒が「もっと考えたい」「もっと話し合いたい」と思うきっかけをたくさん与えてくれます。今回の授業では、教材を読み、教師が生徒に問いを投げかけるのではなく、生徒自らが問いを立て、グループでお互いの問いの答えを出し合う活動をメインとしました。そのため、あえて事前にねらいや内容項目を設定せず、生徒の考えを尊重しながら授業を展開しました。生徒自身が問いを作ることによって、生徒の議論は、単なる言葉や概念の定義づけの段階から、「他者とどう生きていくか」を創造する段階へと進化しました。そこでは、「私の正義」について考える生徒が現れるなど、自分事化していく様子が見て取れました。教師自身も答えの出ない「問い」に、「なるほどね」と、生徒と共に向き合いました。

導入:「正義」に、どんなイメージをもっているかを交流する〈10分〉

まず、「正義」という言葉からイメージする言葉を生徒たちに尋ね、「正義」という言葉をどのように理解しているか、また正義にどんなイメージをもっているのかを確認しました。普段深く考えることのない「正義」について、生徒からは「正義のヒーロー(のイメージ)は赤」「警察」「校長先生」「権力がある人に正義がある」などと、矢継ぎ早に意見が出ました。

教師と生徒のやり取り

教師

みんなは「正義」ってどんなイメージがある?

生徒

悪の象徴の正義もあるかもしれない。

教師

悪を象徴する正義ってどういうこと?

生徒

その人の価値観が無数にある。

教師

ああ、なるほどね。人がそれぞれ違う正義をもってるってことね。

生徒

ワンピース(人気アニメ)だって、海賊と海軍、どちらも正義。

指導の工夫

生徒から出た、初めの「正義」のイメージを黒板の中心に板書し、生徒の考えの広がりと深まりが視覚的にわかるよう工夫しました。

教材を見ながら班ごとに意見交換をする〈15分〉

ヨシタケさんが教材で問いかける「正義って、なんだろう。」について、班ごとに意見交換させ、クラス全体で共有しました。ヨシタケシンスケさんの視点は、生徒に話し合いのきっかけを与えてくれます。

教師と生徒のやり取り

教師

(スマホを使う女の子に対し、女性が何かを伝えるイラスト)これは、どんな場面だと思う?

生徒

歩きスマホを注意してる?

生徒

優先席付近でスマホを使うのを、注意してるのかな?

教師

私はお母さんと娘? と思ったよ。使い過ぎだよ! みたいな。

生徒

正義は誰かを守ってる。

生徒

自分を守ってるのかもしれない。


教師

戦争の正義はどう?

生徒

誰かが幸せになれば、誰かが不幸になるし、誰かが不幸になれば、誰かが幸せになるってこと?

生徒

正義は、人の主張の押し付け合いのような気がする。

生徒

誰かが「これが正義だ」って言うかもしれないけど、それに反抗する人が出てくる。

生徒

反抗こそが正義と思ってるかもしれない。

生徒

世界の中の誰かはそうじゃないかも。しなやかな正義の人がいるかもしれないだろ。尖った正義だってある。

生徒

戦争って終わらない。終わらせなきゃいけないって、みんなわかってるのに。

生徒

攻撃する以外の方法だってあるんじゃない。人を傷つけない方法があるはず。


生徒

正義って、自分のやりたいことを突き通した結果なんじゃないかな。

教師

やりたいことを突き通した結果って、例えば?

生徒

(教科書を見ながら)虫。虫が気持ち悪くて嫌いな人もいる。

教師

虫にも正義はある?

生徒

虫は子孫を残すことが正義。人間が自分勝手に虫を殺している。

生徒

駆除しなきゃいけない虫もいると思う。害虫とか、作物に被害が出てくる。


生徒

普通に生きていくって正義だと思う。普通に学校行って、普通に三食食って。金稼げなくて、人から取って、生きていく人もいる。その人だって、生きていく正義があると思うけど、それは全然正しくない。

生徒

正義って、正しくない。じゃあ、「正」の字、変えちゃおう。何の漢字が合うかな。

生徒

「普通」の定義も、人によって違う。俺の「普通」と、普通に生きられない人の「普通」。

生徒

それ、次回話し合ってみたい! 「普通ってなんだろう」って。

指導の工夫

意見交流の際、ヨシタケさんのどのイラストをもとに話し合うのかが全体にわかるよう、ヨシタケさんのイラストを一つ一つ切り分けて作ったカードを用意し、生徒の発表に合わせて、黒板に掲示しました。

考えが偏らないよう、違う角度からの話し合いを生徒に促す工夫として、「立場をかえたら?」や「本当に?」「たとえば?」といったワードを、生徒に投げかけるようにしました。下の板書写真のように、これらの対話を促す言葉をカードにして、生徒がいつでも見られるよう、黒板に貼って活用しています。対話を促す言葉のカードは、NHK for school「Q~こどものための哲学」で紹介されているもので、吹き出しに、「そもそも?」「どんな?」などの言葉が記されているカードです。

主体的な学びを尊重するため、生徒が話し合いの中心になるよう、聞き役に徹しました。生徒主体で話し合う場面では、それを教師が受け止めていることの合図として、あいづちや、「なるほど」という声かけが大切だと思います。

板書写真 画像

話し合いを踏まえて、問いを作り、班でそれぞれの問いの答えを考える〈20分〉

生徒はこの時点で、正義の難しさ、そして考え続けることの大切さを実感していました。これまでの班での話し合いや、全体共有した際の意見を踏まえ、正義について一人一つの問いを作りました。そして、班でそれらの問いについて話し合い、お互いに問いの答えを出し合いました。その内容を発表させ、学級で共有しました。

生徒の問いと、班員の出した答え

正義は人によって違う。どうしたらみんなの正義になるんだろう。
→一人で抱えず、みんなで悩みを共有して仲間を増やし、協力することが大切。

正義は正当化してもよいのか。
→人それぞれに正義があって、それがぶつかるから争いが起きる。大多数が正しいと思っていることを、悪だと考える人も一定数いる。正義は、正当化できない。

正義の「セイ」は「正しい」という字だが、正しくないこともある。このままの「正」を使ってもいいのか。
→新しい「せい義」を考えようと思う。

全員が納得する正義とは、なんだろう。
→いくつかの立場があるから、「正義」ができ、「悪」ができる。全てが正しいのであれば、「正義」は成立しない。よって、全員が納得する正義を作ることはできない。

私の正義ってなんだろう。
→誰かのためになる、正しいことを進んでできるようになりたい。


教師

みんなの身近な学校内のことでも、きっと正義のもとに起きてる争いはあるよね。具体的に経験はある?

生徒

……争いが発生するってことは、相手の気持ちを理解してないからなんじゃないかな。

教師

なるほどね。みんなはどう? 相手の気持ち、理解してる? お互いにできている?

生徒

していない。常識とか、理屈的なこととか、それより自分の気持ちを優先しちゃうところがある。

指導の工夫

ヨシタケさんの「なんだろう なんだろう」から出発した生徒たちの話し合いは、「正義」の本質とは何かを考えたり、自分の正義を押し通して誰かを傷つけるのではなく、「相手の正義を理解しようとすること」や「尊重すること」の重要性を考えたりすることに発展しました。

教材についての話し合いや、意見の共有を踏まえて、生徒自身が「問い」を作ることによって、「正義」を自分の経験や関心に引き寄せ、具体的な行動を思い浮かべながら考えることができ、自分事として深く掘り下げることができました。自ら問いを作る過程では、あたりまえだと思っていた前提を疑う姿勢も見られました。問い作りの活動は、生徒の多面的・多角的な思考を深めることができる方法だと実感しました。

終末:本時の学習を振り返る〈5分〉

授業から学んだことや考えたこと、今後に生かしたいことをノートにまとめ、数人に発表してもらい、学びを共有しました。普段何気なく使う言葉について深く考えることが、お互いを尊重しながら生きていくことの大切さにまでつながったことに感動したことと、教師自身多くの学びがあったことへの感謝を伝え、授業を終えました。

生徒の振り返り

◆普段、何も考えずに「正しい」と思っていたことが、本当の「正義」だとは思えなくて、その正しいって思っていたことは自分だけの正義だとわかった。やっぱり、人それぞれにあるものだから、押し付け合うのではなく、尊重することが大事だと思った。

◆人それぞれに自分の正義があり、自分の正義が相手の正義を否定して「悪」になることがあるから、少しでも相手の正義に歩み寄ることが大事だと思う。

◆相手を理解して、人の話を聞くことを心がけたいし、みんなの考えを尊重したい。

◆自分の思っている正義が、周りの思っている正義ではないかもしれない。なので、自分の正義を押し通すことは違うと思う。だけど、自分の意見として言うのはよいと思う。自分だけが正しいとは限らない。「正義」という言葉には、決まった定義はないのかもしれないと思った。

◆正義を押し付けないで、平和になる方法はないだろうか。

※この実践は2026年3月に行われたものです。

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