道徳科授業レポート(中学校)
2026年8月7日 更新
光村図書 道徳課
編集部による授業見学レポート。今回おじゃましたのは、千葉大学教育学部附属中学校。山﨑達也先生による「北川さんの悩み」(中学道徳2 きみが いちばん ひかるとき・光村図書)の授業の様子をお届けします。
見学にあたって
- 中学2年生にもなると、多くの生徒が、授業や学校行事などで、お互いの主張がぶつかり合い、物事が前に進まない経験をしたことがあるでしょう。ただし、ほとんどの場合、クラスメートか年の近い人どうしの衝突で、それぞれの立場が大きく異なる状況で対立した経験はあまりないと思われます。今回の教材では、立場が異なる状況で対立した場合、生徒は何を大切にしたいと考えるかに注目しながら拝見しました。
授業の概要
- 内容項目:B(9)相互理解、寛容
- 生徒数:30人程度
- 教材のあらすじ:1か月に1回行われている町内会の地域清掃で、北川さんは班長を任されています。地域清掃後はフットサル同好会に参加したい北川さんにとって、終了時刻を大きく過ぎてしまうことがある関さんは困った存在。代わりを申し出ても、自分の力で社会に貢献したいと考える関さんは、その申し出を断ります。お互いに、自分の考えを理解してもらえず、もやもやした気持ちを抱えていましたが、1か月後には、にこやかに会話をしながら掃除に取り組む北川さんと関さんの姿がありました。
授業の流れ
目次
お互いにわかり合うためには、どうしたらいいのかを考える〈10分〉
終末:資料を読み、改めて立場の異なる相手と関わるときに大切なことについて考える〈8分〉
黄マーカー…先生の発問・活動指示
★+編集部のまなび…授業を見て編集部が学んだこと・気づいたこと
先生
前回は、「テニス部の危機」(光村図書)を通して、「集団の一員として何ができるか」について考えました。まず、みんなの授業の感想を、少しだけ紹介したいと思います。
(前時の「未来へのヒントカード」の書き込みの一部を匿名にし、スライドにまとめたものを提示する。)★1
「互いの主張をきちんと理解し合うことが大切だと思った」
生徒
あー、なるほどね。
先生
「自分の部活の後輩は、言いたいことが言えているのか、改めて考えるきっかけになった」
生徒
自分が書いたやつだ!
先生
「どうしたもんかなあ、むずい」
生徒
わかる。難しいよね。
先生
先生が特に気になったのは、この「どうしたもんかなあ、むずい」という感想です。この感想って本当にその通りで、お互いの主張を理解し合うことって、とても難しいことだよね。なので、今日は、「相手の立場になって考えよう」をテーマに、みんなで考えたいと思います。今日は教科書112ページ「北川さんの悩み」というお話から考えます。
編集部のまなび
★1 千葉大学教育学部附属中学校では、「未来へのヒントカード」という振り返りシートに、毎時間の道徳科の学習を記録しています。「未来へのヒントカード」には、生徒がその時間に考えたことを、授業の最後に書かせます。それに対して、先生がコメントを書き込みます。次の授業の冒頭や帰りの学活等の時間に、生徒は、先生からのコメントも読んだうえで、もう一度振り返り(リフレクション)を書きます。本カードは、端末を使ってGoogleスプレッドシートで管理されているそうです。
先生
じゃあ、「まる読み」(句点で交代しながら音読すること)しましょう。
生徒
(「北川さんの悩み」を、句点で交代しながら、順番に音読する。)
先生
読んでもらった「北川さんの悩み」、どんな状況か整理しましょう。
生徒
話、飛びすぎ。
先生
そうだね。話が飛んで、1か月後には笑顔で会話しているね。その前に、場面を確認しようか。★2
生徒
地域清掃。
先生
地域清掃って何?
生徒
家の周りを掃除する。
生徒
近所の人とやるやつ。うち今週そうですよ。
生徒
うちも1か月に1回、マンションのロビーに案内があって、みんなで掃除するよ。俺、ポイ捨ては好きじゃないし。
先生
ポイ捨て好きじゃないの、かっこいいね。
ちなみに、地域清掃に参加したことあるよって人いる?
生徒
(クラスの1/3が挙手する。)
先生
けっこう参加したことがある人、いるんだね。みんなすごいね。
じゃあ、この話の登場人物って誰?
生徒
北川さんと関さん。
先生
そうだね。地域清掃の班長の北川さんと、地域清掃に参加している関さんの2人だったね。
どうやらこの2人、お互いに言いたいことがあるみたいだよね。★3
今からワークシートを配ります。北川さんと関さんのそれぞれの言い分を、ワークシートに整理してみましょう。
編集部のまなび
★2 指名したり、挙手をさせたりすることなく、自然と生徒から発言が出ており、誰もが話しやすい教室の雰囲気が作られていました。先生と生徒の強い信頼関係が感じられました。問いの趣旨から外れた発言(「話、飛びすぎ。」という発言)があったときでも、先生は生徒の発言を一度受け止めた後、無理なく緩やかに、軌道修正を行っていました。
★3 教材の状況整理に関する発問とそれに対する応答は、てきぱきと進められていました。この後の話し合い活動に十分な時間を割くことができるよう、工夫されていました。
先生
じゃあ、ワークシートに書いたことを教えて。まずは、北川さんの言い分から整理してみよう。
生徒
関さんのことが好きじゃない。
生徒
班長だけど、フットサル同好会にも参加している。関さんが遅いから、いつもフットサルの参加が遅れてしまう。
生徒
早く掃除を終わらせたい。
生徒
時間通りに行いたい。
先生
うんうん。
次は、関さんの言い分を整理してみよう。
生徒
今やれることを、しっかりとやりたい。
生徒
定年退職して10年。たぶん75歳くらい? だから社会貢献をしたい。
生徒
体がよくない。腰とか痛いんじゃないかな。★4
編集部のまなび
★4 本文には書かれていない登場人物の様子や状況も想像しながら、北川さんと関さんの言い分を整理していました。
先生
みんなが言う通りだね。それで、この話を読んでみると、1か月後に二人は笑顔で掃除に取り組んでいるんだよね。これって、どういうこと?
生徒
仲直りした。
先生
きっとそういうことだよね。
じゃあ、どうして仲直りすることができたのかな。今からみんなには、北川さんと関さんになったつもりで、ペアで話し合いをしてもらいます。席は今のままで、隣どうしで、どっちがどの人物を演じるのかを決めて、話し合いをしてみましょう。
実際の生徒どうしの話し合いの様子の一部
生徒(北川さん)
あの、関さん、ちょっといいですか。
生徒(関さん)
はい、なんでしょう。
生徒(北川さん)
地域清掃の終了時刻なんですけど、実は私、毎週この後に予定が入っていて。
生徒(関さん)
ああ、そうなんですね。
生徒(北川さん)
できれば時間通りに終了したいんですけど……。
生徒(関さん)
いつも遅くなってごめんなさい。
生徒(北川さん)
いやいや、そうじゃなくて。何か解決策があればいいなと思って。
生徒(関さん)
そういうことだったんですね。前にも話したんですけど、自分の担当はきっちりとやりたくて。
生徒(北川さん)
そうですよね。
生徒(関さん)
あと、用事があって途中で切り上げる人がいるじゃないですか。その人が残したごみを、私が片付けていることもあって、遅くなってしまうんです。
生徒(北川さん)
そうだったんですね。気づかなかったです。すみません。時間や場所の分担などがよくないのかもしれません。
生徒(関さん)
私は任された仕事はきちんとやりたいので、開始時間が早くなってもいいですよ。
生徒(北川さん)
ありがとうございます。ただ、もしかすると、開始が早くなることで参加できなくなる人もいるかもしれません。分担と作業量を見直したいので、一度皆さんで話し合う時間を作るのはどうでしょうか。
生徒(関さん)
賛成です。私がいつも遅くなってしまって、申し訳なかったので、ありがたいです。
生徒(北川さん)
いえいえ。関さんは……(以下略)★5
編集部のまなび
★5 ペアになって北川さんと関さんになったつもりで話し合うという活動が予想外だったのか、始める前は一部の生徒がざわつきました。いざペアで話し合いを始めてみると、ほとんどの生徒が北川さんと関さんになりきって、問題の解決に向けた話し合いを行っていました。中学2年生ともなると、こうした話し合いは照れが生じて恥ずかしくなってしまったり、早々に終わらせたりしてしまうのかと思いましたが、むしろ楽しみながら取り組んでいました。よい意味で予想とは異なる反応でした。
先生
はい、じゃあここまでにしましょう。
話し合ってみて、どうだった? 和解できた?
生徒
(ほとんどの生徒が挙手する。)
先生
おお〜。けっこう和解できたんだね。
生徒(ペア1)
むしろ険悪になった!
先生
あ、そうなんだ。険悪になったペアって、他にもいる?
生徒
(4組が挙手をする。)
先生
険悪になったペアは、なんでそうなったの?
生徒(ペア1)
一方的で口が悪かった。
生徒(ペア1)
うるさかった。耳がきーんってなった。
先生
うーん、内容というよりも、話し方の問題なのかなあ。強く言われると、それだけで嫌な気分になるもんね。
生徒(ペア2)
北川さん役をしたんですけど、一方的に打開策を提案しただけになって、関さんの意見を聞いていないことになってしまった。
先生
ただ意見を伝えるだけでは解決しなかったんだね。確かに一方的に言われっぱなしだと、「自分の意見も聞いてよ!」って思っちゃうもんね。★6
編集部のまなび
★6 本時では、和解に至ったペアではなく、険悪になったペアの事例を、クラス全体で共有していました。このようにした理由について、授業後に先生にお伺いしたところ、「こちらの想定よりも白熱した様子で活動していたので、『きれいな解決策』に落ち着いたペアよりも、こちらの想定よりもはるかに頑固な北川さん(または関さん)を演じていたペアを扱ったほうが、よりリアルな葛藤の姿が見えるのではないかと考えたから」とのことでした。また、「平和的な解決に至ったペアにも、もう一度『本当にそれでよかったのか』と考え直す機会を生み出したい」「教科書の内容を、答えが簡単には定まらない、複雑で切実な問題として捉えさせたい」というねらいがあったとのことでした。問題について、生徒にさまざまな角度から考えさせようとする、先生の工夫が伝わる場面でした。
ペア1、ペア2の発言を受けて、先生は、「乱暴な口調では相手に真意が伝わらないこと」「ただ自分の主張を一方的に伝えるだけでは問題は解決しない」ということを生徒に改めて伝えていました。生徒の発言をしっかりと受け止めながら、立場の異なる人と関わるときに大切なことについて、考えを深められるよう工夫されていました。
先生
北川さん、関さん、どちらかの立場になって考えてみたけど、みんなはこういうときにどうしたらいいと思う? 実際にやってみて、うまくいったペアはなんでうまくいったのか、逆にうまくいかなかったペアはなんでうまくいかなかったのか、ワークシートに書いてみましょう。
生徒
(ワークシートに書く。)
先生
じゃあ、どんなことを書いたか、発表してもらおうかな。◯◯さん、どうかな?
(以下、順に生徒に発表してもらう。)
生徒
自分の考えを伝え合うこと。
生徒
理解し合おうとする姿勢を見せること。
生徒
まず、関さんの意見を聞くこと。
生徒
ペアで話し合いをしてみたけど、どちらの意見も大事で、納得できるから、進展しなかった。
先生
じゃあ、そうなったら、話し合いって進展しないの?
生徒
片方の主張を押し付けるんじゃなくて、どちらも納得しなきゃ、解決策は生まれない。
生徒
でも、他の人の意見に一理あるって言うことはできるけど、全部が納得できるわけじゃない。納得できないところもあるんじゃない?
先生
うーん、確かにそうかもしれないね。
生徒
納得しちゃうと、我慢しなくちゃいけないことも出てくるじゃん?
生徒
今回の例だったら、関さんの掃除の時間を減らす、とかしてもいいと思った。
先生
北川さんも関さんも、目ざすところは別々なの?
生徒
別々とかじゃなくて、問題が違うというか……。★7
先生
ちょっと先生もこんがらがってきたかもしれない。
いったん教科書115ページの資料を読んでみるので、これも参考に考えてみよう。
編集部のまなび
★7 相互理解について、「互いの考えを伝え合う」「理解し合おうとする姿勢を見せる」といった内容にとどまらず、数名の生徒が「他者の意見の全てに同意できるわけではない」「他者の意見とすり合わせる過程で、自分が我慢しなければならない点が生まれる」という趣旨の発言をしていました。このクラスでは、道徳の授業ではどんなことも発言してよいと伝えていたり、普段から哲学対話を行ったりしているため、自分の考えを率直に表現する力や多面的・多角的に考える力が育まれているように感じました。
また、北川さんの主張も、関さんの主張も、どちらも理解できるものだからこそ、互いの主張の折り合いをつけることの難しさに、生徒が気づいていたことが印象的でした。
先生
(教科書P.115の資料「立場の異なる人と同じゴールを見つけ出す」を朗読する。)
資料を読んでみて、改めて北川さんと関さんの問題について、どう考えた?
生徒
北川さんと関さんの場合と、資料とでは、そもそもの土台が違うんじゃないかなあ。
生徒
資料のケースは同じゴールがあるじゃん。北川さんと関さんは同じゴールがない。
生徒
でも、もしかしたら北川さんも関さんもかみ合う瞬間があるんじゃない?
生徒
いや、無理でしょ。
先生
本当に無理なのかなあ。もしかしたら、話し合えば、北川さんと関さんの共通のゴールがあると思うんだけど……。
今日は終わりの時間が近づいてしまったので、「未来へのヒントカード」に「立場の異なる相手と関わるときに大切なことは?」について、考えを提出しましょう。★8
編集部のまなび
★8 「資料」を読んだことで、生徒は、相互理解に必要な「お互いの共通のゴールをもつ」という考えにたどりついたようでした。「北川さんと関さんにもかみ合う瞬間はあるのか」「いや、無理ではないか」と言い合えるのも、普段からどんな発言をしてもよいという安心感があるからこそだと思いました。こうした雰囲気が、このクラスのすてきなところだと感じました。
先生は、生徒のそういった姿を受け止めたうえで、「本当にわかり合うのは無理なのか」と改めて投げかけ、「未来へのヒントカード」への記入を通して、さらに考えを深めるよう促していました。
【生徒の「未来へのヒントカード」の一部】
・この北川さんと関さんの例だと、関さんというより北川さんのほうがどうにかしたいと思っているので、北川さんがまず関さんの意見を聞くのが本当に重要だと思った。北川さんのほうが、どちらかというと一歩引いて話すことが、交渉するうえで大事になると思った。
・立場が異なる相手と関わるときには、自分の意見を言う前に相手について知るということが、大切だと思った。また、お互いが納得できるような意見を出すためには、自分の意見だけを押しつけるのはいけないと思った。
・お互いの思いの共通している部分を見つけることが、立場が異なる相手と関わるときの重要なポイントで、本質だと思った。二人の思いの僅かに共通しているところにヒントがあると思った。
・北川さんはフットサルの同好会があるのに、関さんが遅いからいつも遅刻してしまうこと。関さんは、数少ない社会貢献の機会だから自分一人で最後までやり遂げたいという気持ちがある、ということを整理し、その後に二人の相違点と共通点を探すべきだと思います。あくまで私の意見ですが、この二人の共通点は「社会に参加すること」だと思います。北川さんはフットサル同好会という社会に参加したいし、関さんは数少ない社会に参加していると感じられる機会だから掃除をやっています。なので、二人とも社会に参加できるように場を整えればいいと思います。
・参考の資料は、二人の目ざしているものが「ワシによる停電を起こしたくない」と「ワシが電力によって絶滅してほしくない」で、いいところを目ざしているという意味で共通しているけれど、北川さんのは「フットサルに遅れるから時間通りに終わってほしい」と「任された部分は自分でこなしたい」で共通点が一つもないし、時間をオーバーする関さんが悪いと思うから同じゴールに向かうのは難しいと思う。
・立場が違う人と関わるときに大切なのは、自分はその人になれないということを理解する必要があるということだと思う。わかりきったように言うのもよくないし、理解しようとしないこともよくないと思うから、自分はこう思ってると思う、でも相手はどう思っているのかというのを、ちゃんと話す場を設けるべきだなと改めて思う。人をリスペクトし、基本に戻るということも大切なのではないかと思う。
★全体を通して どんな場面でも、生徒が活発に自分の意見を表明していました。論点がずれそうになったり、ヒートアップしそうになったりするときは、先生が緩やかに軌道修正を行ったり、お互いの話をきちんと聞くよう促したりしていました。教え込むのではなく、生徒どうしでどうすれば考えを深めていけるのか、ファシリテーターとしての教師の役割について、たくさんのヒントを得ることができた授業でした。
(授業見学日:2025年11月12日)
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