デジタル道具箱 活用例
2026年3月25日 更新
光村図書 道徳課
「スマイルメーター」は、特別支援教育に長年携わってこられた坂井聡先生の監修のもと、開発しました。
坂井先生による解説と、特別支援学級の先生による活用例をご紹介します。
スマイルメーターとは

坂井聡先生(香川大学教授/香川大学教育学部附属特別支援学校 校長)
奈良県出身。金沢大学大学院教育学研究科修了。障害児の教育方法、障害児のコミュニケーション指導を専門とする。自閉症スペクトラム支援士エキスパート、特別支援教育士スーパーバイザー、言語聴覚士、公認心理師の資格を持つ。著書に『知的障害や発達障害のある人とのコミュニケーションのトリセツ』(エンパワメント研究所 2020年)『発達障害のある子の学びを深める 教材・教具・ICTの教室活用アイデア』(共著 明治図書出版 2019年)など。
開発の意図
道徳科の授業では、登場人物の心情を考えたり、自分自身の心を見つめたりする機会が多くあります。教師はこれを、全員の児童・生徒に求めがちですが、特別な支援を必要とする子どもたち、特に発達障害等がある子どもたちの中には、「心」のような目に見えない物事を考えることが苦手な子もいます。
そこで、そういった子どもたちの手助けをするコンテンツとして、「スマイルメーター」を開発しました。スマイルメーターは、感情や考えを、イラストや程度を表す目盛りで「見える化」するものです。
このメーターを使うことで、これまで言葉では表現するのが難しかった児童・生徒から、感情や考えを引き出しやすくするとともに、人はそれぞれ異なる感覚をもっているということへの理解を手助けすることができます。
「自分の感情をうまく表現できない。」「他人の感情を理解することが難しい。」そういった特性をもった子どもたちが、少しでも授業に参加しやすくなることを目ざしました。
活用にあたって
スマイルメーターは、あくまでサポートツールであり、「視力が低い人にとっての眼鏡」のようなものです。苦手なことを克服するための訓練やトレーニングのために使うものではありません。気持ちや考えを表現するための選択肢の一つと考えてください。
また、気持ちや考えを「見える化」すると、自分や他者の考えが理解しやすくなりますが、それは同時に、一人一人の考えが比較しやすくなるということも意味します。それは、対話や話し合いのきっかけになるいっぽうで、支援を必要とする子どもたちの物事に対する捉え方が、「主流」といわれる子どもたちと異なったときに、その違いがはっきりと「見える」ようになるということです。そのため、スマイルメーターを使って表したことが、周りからの冷やかしや非難につながらないよう注意することが必要です。そうならない学級づくりがまず求められることですが、子どもや学級の実態によっては、スマイルメーターを使う場面を、先生と一対一のやり取りに留めるなどの配慮を行うとよいでしょう。
通級指導教室の「自立活動」における活用も極めて有効です。感情の起伏を数値化して表現することは、自分の心の状態を知る「自己理解」や、適切に伝える「コミュニケーション」の具体的な学びとなります。個別指導の安心できる場で、スマイルメーターを用いて自身の感情と向き合う練習を重ねることは、在籍学級での安定した生活や対人関係の構築につながる、重要なスモールステップとなります。
活用例
スマイルメーターの活用例として、2案ご用意しました。授業全体の展開例は、各教材の末尾にPDFのダウンロードボタンがあります。
なお、本活用例では、可能な限り、スマイルメーターの活用場面を盛り込んでいますが、適宜、生徒の実態や授業時間、学習効果等を踏まえ、使用場面を焦点化してご使用ください。

スマイルメーター①を使うことを想定した活用例です。登場人物の複雑な気持ちを可視化しながら考え、話し合います。
登場人物(主人公)の気持ちを考える
赤い松葉づえをついた女の子は、私の「何もない」足を見ました。女の子の視線を感じた「私」の気持ちを、スマイルメーターを使って考えさせます。
「私」の心の中には、女の子への同情ばかりでなく、さまざまな気持ちが交錯したと考えられます。生徒には、スマイルメーターにある気持ちを手がかりに、考えを表出させていきます。生徒の考えは端末上に可視化されているので、机間指導で声をかける際のきっかけになります。また、全体共有の際の意図的指名もしやすくなります。
なお、気持ちを選ばせる際は、生徒の実態に応じて、複数の気持ちを選んだり、その他の言葉で答えたりしてもよいということを伝えておくとよいでしょう。しっくりくる気持ちがない場合、より正確に自分の考えを表せる言葉をいっしょに考えることも語彙を広げるために役立ちます。生徒に気持ちや程度を選ばせて終わりではなく、対話的に、広げ、深めることを意識しながら使用することが大切です。
登場人物(主人公)の気持ちを考える
「私」は、赤い松葉づえの女の子を見かけるたびに、隠れるようになります。女の子のことを思うからこそ悩む「私」の気持ちを、スマイルメーターを使って考えさせます。
ネガティブな気持ちを選ぶ生徒が多いと予想されますが、「あまり」「とても」などの程度にも着目して問い返すとよいでしょう。例えば、「(女の子に会うのが気まずくて、会うのが)ちょっとだけいやだ」を選んだ生徒がいた場合、ほかにどんな気持ちがあるのかを問うことで、女の子を思う気持ちがあることを確かめることができるでしょう。
「もやもやする」という選択肢を選ぶ生徒も多いと予想されます。これを選んだ生徒には、「私」がどのような気持ちの間で揺れているのかを丁寧に聞き取るとよいでしょう。
全体に共有する際には、教室前面の大型モニターにスマイルメーターを映して見せると、心情理解が苦手な生徒も、話し合いに参加しやすくなります。
登場人物の気持ちを考える・比べる
視点を主人公から移して、もし、女の子が、隠れる「私」を見たらどう思うかについて、スマイルメーターを使って考えさせてもよいでしょう。「(隠れられるのが)すっごくいやだ」「(話しかけてくれなくて)ちょっとだけ悲しい」といった気持ちが、生徒から出てくることが予想されます。ここでも、程度に着目して、その気持ちを選んだ理由を問いながら深められるとよいでしょう。
また、複数の登場人物の気持ちを比較して考えを深めさせたい場合は、グループや個人ごとに、登場人物を分担して、それぞれの気持ちを考えさせる方法もあります。登場人物ごとに、スマイルメーターで考えたことを見せ合うと、比較しやすくなります。

スマイルメーター②を使うことを想定した活用例です。登場人物の言動に対する自分の考えを示したり、登場人物の気持ちについて話し合ったりします。
登場人物の言動に対する自分の考えを示す
窓ガラスを割ってしまったことを先生に言い出せず、雄一のせいにした健に対して、生徒自身が共感できるかを、スマイルメーターを使って表出させます。
10の気持ちのうち、「共感できる」を選ばせ、メーターで、「共感できない」から、「すっごく共感できる」までの程度を選ばせます。生徒によって程度には違いが出ることが予想されます。どうしてそう考えるのか、理由などを尋ねることで、いろいろな考え方が出てくることが期待できます。
このようにスマイルメーターは、教材文中の登場人物の心情を考えるばかりでなく、登場人物の言動に対して、生徒自身がどう考えるかを示すこともできます。
登場人物の気持ちについて話し合う
先生にガラスを割ったことを言い出せないまま悩む健の気持ちを、スマイルメーターを使って考えさせます。まずは、個人で、健の気持ちを理由とともに考えさせ、その後、ペアやグループ、あるいは学級全体で端末を見せ合いながら考えを交流させます。生徒からは、うそをつくような自分が「悲しい」、正直に言えなかったことを「後悔している」などの考えが出ることが予想されます。考えを交流する際は、選んだ気持ちや程度の違いに着目するように指示しておきます。
生徒どうしで端末を見せ合うことで、話し合いや対話が生まれるきっかけになります。ただし、自分の考えを他者と共有することに抵抗がある生徒に対しては、教師との個別の対話に留めるなど、適宜配慮が必要です。
絵:「父の言葉」松永禎郎/「裏庭での出来事」かわいちひろ