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第2回 「インクルーシブ」できる授業

LDのある子の学習参加

2022年11月16日 更新

小貫 悟 明星大学教授

通常学級におけるLD(学習障害)がある子の学習参加について考える連載です。

1学期が終わると、学級担任としてクラスの中のLD(学習障害)のある子の実態が分かってくることも多いのではないでしょうか。前編でお伝えしたように、通常学級の4.5%にLDの可能性のある子がいると推定されているわけですから、日本中の多くの学級でこうした気づきが起きるはずです。

さて、前編では〈部分的参加〉と〈周辺的参加〉の方法で、まずはなんとかこうした子たちの学習参加を確保しようという提案をいたしました。しかし、お伝えしたように、これはあくまでも「次善」の策であって、「最善」ではないのです。今、まさに「授業改善」が最大の教育テーマとなり、さらにGIGAスクール構想などで決定的に授業の方法論を考え直すそうという機運が高まっている中で、どの学校、学級にも在籍していると考えられるLDのある子の授業参加についても、しっかり考えておく必要があるだろうと思います。
この「最善」を考えるためのキーワードは、特別支援教育の視点では「合理的配慮」であり、授業改善の文脈では「協働的な学び」「個別最適な学び」になります。この三つのキーワードをうまく統合できれば、学習に困難を示す子たちをも「インクルーシブ」できる日々の授業イメージがもてるはずです。

「合理的配慮」の真の意味

「合理的配慮」という言葉は、法律に基づく言葉でもあり、教育現場では理解が難しいと思われているようです。しかし、この言葉を「アクセシビリティの確保」と言い換えてみるとその理解がしやすくなります。つまり、まさに本稿のテーマである「授業に参加(アクセス)できるようにする」ことが合理的配慮の真の意味なのです。個別的に過剰に配慮することでも、あらゆる場面で特別な教材を用意することでもなく、まずは「授業という土俵に立たせること」が合理的配慮なのです。そして、その「アクセス」の具体的イメージは、授業の中で提示される学習課題に対して「考える」ことが可能な設定になっているかどうかにあります。個々の子どもの習熟度レベルにばらつきがある現実の中で、まずは授業の中で示された課題をそれぞれがそれぞれなりに「思考する」行動が取れるかどうかが授業参加の最初の一歩です。

LDのある子の中には「分からない」「できない」という状況に対して「あきらめる」という反応を習慣化してしまう子がいます。逆に「分からない」「できない」状況に対して、まず「考える」習慣を身につけることは、彼らの未来を支えます。人生における問題解決は、すべて「考える」ことからスタートするからです。授業参加を保障する合理的配慮には、ここまでの意味があるのです。

協働的な学びと個別最適な学び ――「いっしょの雰囲気」の中の一人として

授業の中で示された学習課題に対して、教室の中のすべての子が「考える」状態になっているときに、そこに「いっしょの雰囲気」が発生します。私はこの雰囲気こそが「協働的な学び」実現の大前提であると考えています。そこにはLDのある子もクラスの一員として参加(考える=アクセス)していることが条件の一つなのです。それぞれの能力や資質に応じて一つの課題に全員で取り組む(考える)その先に、クラス全員に個を超えた大きな学びのチャンスが生まれてくるのでしょう。

しかし、LDのある子は、ここで自分の思いと裏腹に「考える」前に「障害」という名の壁にそのアクセスが妨げられるかもしれません。この壁を超えるキーワードこそ「個別最適な学び」の具現化に他なりません。
例えば、「読み書き」に関する学習形態は、今後大きく変わっていくでしょう。クラウドデータの活用やAI化は、現在の読み上げソフトやアプリの変換の正確さを飛躍的に向上させました。音読ができないからといって、文章の中から「考える」ための情報を捉えられないようなことはなくなるわけです。

ちなみに、この原稿はすべて「音声入力」によって書いてみました。本稿での主張を実現したいと思ったからです。私にとっても初めてのチャレンジでした。その結果、推敲の段階で必要最低限のみのキーボード、ペンの使用だけで済んでしまいました。一方で、脳はフル回転し、ひたすら「考える」ことに集中できる濃密な執筆体験となりました。知的作業への「アクセス」のしかたはいくらでもあるのです。
今、LDの問題に長く取り組んできた立場として、授業における「いっしょの雰囲気」の中で「考える」体験を子どもに贈る「個別最適」なオプションは、すでに夢物語でなく、実現の一歩手前の時代に、とうとう突入しているのではないかと直感するわけです。

photo : getty images

小貫 悟(こぬき・さとる)

明星大学心理学部教授。専門は、LD・ADHD・高機能自閉症などへの援助技法の研究。社団法人日本LD学会常任理事、日本授業UD学会常任理事を務める。

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