みつむら web magazine

第1回 どの子も必ず成長している

LDのある子の学習参加

2022年11月16日 更新

小貫 悟 明星大学教授

通常学級におけるLD(学習障害)がある子の学習参加について考える連載です。

みなさんのクラスには「さとうさん、すずきさん、たかはしさん、たなかさん、わたなべさん、いとうさん」という苗字の子はいますか? 地域差があるのですが、全国の統計では、これらの苗字の人の人数はたいてい上位10位に入るのだそうです(※)。確かに、よく出会いそうな苗字ですね。実は、この六つの苗字の人口推定比率を累計すると、我が国の「通常の学級に在籍する発達障害のある可能性のある子の率(文部科学省の調査報告)」である6.5%とほぼ同値なるのだそうです。

※全国同姓調査 (明治安田生命保険相互会社、2013) による推定値

ちょっと驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか? どの学校、どのクラスにも居そうな苗字と同じ位の割合で「発達障害のある子」が学校、クラスには在籍していると考えてよいのです。
ですから、教師として、発達障害のある子と出会わない、関わらない年はないという前提で一年間の教育計画をプランしていかなければなりません。そして、この6.5%の中でも「学習の困難」を示す、LD(学習障害)の可能性のある子はなんと4.5%になります(ちなみに、先ほど挙げた苗字の中で「佐藤さん」という苗字の人の人口推定比率は約1.5%だそうです。「佐藤さん」の約三倍ですね)。授業はこうした子が参加している前提で進めていかなければならないのです。

担任教員が回答した内容から、知的発達に遅れはないものの、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合

  推定値
学習面又は行動面で著しい困難を示す 6.5%(6.2%~6.8%)
学習面で著しい困難を示す 4.5%(4.2%~4.7%)
行動面で著しい困難を示す 3.6%(3.4%~3.9%)
学習面と行動面ともに著しい困難を示す 1.6%(1.5%~1.7%)

※出典「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」文部科学省初等中等教育局特別支援教育課、平成24年12月5日

「読み、書き、計算などが学年相当にできない」という子には理由があります。LDだけではなく、知的に遅れがある場合や、家庭の状況から家庭学習の圧倒的な不足などがあるかもしれません。前者の場合には、自立活動などの特別支援学級の教育はどうしても必要ですし、後者の場合には家庭への福祉的な支援の要請などの発想も必要になるでしょう。LDのある子には知的な遅れがみられません。つまり通常の学級に在籍しています。日々の授業の中でなんとかしなければ、どこにも行き場がないのがLDの問題なのです。学級担任(授業者)が、この問題にどう取り組むかがとても大切になります。では、どのような視点で、こうした子たちとの関わりを進めていけばよいでしょうか?

まずは、我々が心から信じる必要があることは「〈発達障害〉のある子も〈発達〉し続けている」という事実です。そう、どの子も必ず成長と変化をしていきます。学力に課題があってクラスの他の子と比べると「できない子」であっても、1年前のその子と比べてみると格段に「できる子」になっているのです。そうした成長を支え続けるためには、学習についていけていない授業中でも、その子を絶対に「放っておかない」ことを大原則にしなければなりません。

しかし、授業の進度や内容についていけない子にどう関わったらよいものでしょうか? 筆者は、どうしても授業内容についていけていない子への支援の視点として〈部分的学習参加〉と〈周辺的学習参加〉の二つから学習活動を考えることをお願いしています。

〈部分的参加〉とは、授業に100%参加できないとしても50%、30%、10%でも授業の中で学習活動ができる部分を、見つける、作り出す、しかけるのです。例えば、国語の板書をノートに写すのに大変な思いをもっている子に、板書のすべてでなく、先生が色付きチョークで書いた部分だけ、あるいは自分が大事だと思う部分を見つけてそこだけは視写するなどの個別的なルールを設定するのです。

〈周辺的学習参加〉は、すでに学習意欲を失ってしまっているような場合の視点です。そのような状態であっても、授業と全く関係ないことをやるのではなく、その周辺にある課題を行うことで「授業を放棄している」「あきらめている」という気持ちを生まないようにしたいのです。授業者に余裕があれば、簡単なワークシートを用意して今やっている教材文を使って穴埋めをすることで学習参加させる。あるいは、教材文から知らない言葉を見つけ出して、言葉調べノートを完成させるなどは周辺的学習参加の一例となります。

もちろん、授業に対して〈周辺的参加〉にならないように低学年からの丁寧な関わりは必要ですし、〈部分的参加〉も本来は「次善の策」に過ぎません。しかし「なにもしない」「ただ座っているだけ」などの授業の〈不参加〉状態を避け続けることが、少しずつでも成長と進歩していくために必要不可欠な前提なのです。
筆者としては、LDの問題については、上記のような学校現場の工夫、努力だけでなく、我が国が目ざそうとしている、すべての子に対する「個別最適化」の学習形態の中で、その状態に見合う(オプションのある)教材が用意されている未来を希望しています。

次回は「次善」ではなく「最善」の姿を考えてみたいと思います。

photo : getty images

小貫 悟(こぬき・さとる)

明星大学心理学部教授。専門は、LD・ADHD・高機能自閉症などへの援助技法の研究。社団法人日本LD学会常任理事、日本授業UD学会常任理事を務める。

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