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新たな色覚の文化を創りたい

イベントリポート

2024年7月26日 更新

光村図書 広報部

色覚の多様性とカラーユニバーサルデザインについて研究している市原恭代先生が、このほど絵画展「さまざまな色覚から見た薔薇の色」を開きました。市原先生に、この展覧会を通じて伝えたかったことをお伺いします。

多様な色覚が創り出したアート

これまでは、マイナス面で捉えられることが多かった色覚の多様性。市原先生(工学院大学准教授・NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構理事)は、「新しい色覚の文化を創造したい」という願いから、絵画展「さまざまな色覚から見た薔薇の色」を開きました。

さまざまな色覚の特性をもつ人が描いた14点の薔薇。その中から、ここに紹介した3点をご覧になれば、みんなで同じ花を描いても、感じる色はさまざまだということがよくわかると思います。

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市原先生は、この絵を描いてもらう際、絵の具の色名を塗りつぶして使ってもらいました。それは、間違っている色、使ってはいけない色などないという考えからです。今まではこうした機会が少なかった参加者は、自分の感じた色を使って、のびのびと楽しんで絵を描いていました。市原先生は、「これが本当の絵画の楽しみ方だし、万能な色覚などない」と訴えます。

人の色覚の多様性

日本では、特定の色の見分けがつきにくい人がおよそ300万人いるといわれています。男性では20人に一人、女性では500人に一人の割合です。ある種の色が混同して見えてしまうP型やD型とよばれる色覚の型です。その色が区別できる色覚の型はC型とよばれており、日本人の95%以上を占めている“多数派”です。

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​※色覚型と特徴についての詳しい解説はこちら

しかし、同じC型でも、実は見え方はさまざまなのです。「100Hueチェック」をご存知でしょうか。
明度・彩度を同じにそろえた 100色相の色コマを色相順に並べていくことで微妙な色の違いを判断する能力を調べる検査です。塗料・化粧品・食品業界などの製造部門・製品管理部門・品質管理部門で多く採用されています。

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ばらばらになった色コマ

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色相順に並べていく

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このような形で完成する
 

C型の人でも、これを正確にクリアできる人はほとんどいません。大多数の人は、微妙な色の違いを正しく区別することは難しいのです。市原先生は、「100Hueチェックは、たとえるならピアノの調律のようなもの。専門的なレベルを必要とする人には重要だが、普通の生活を送るうえでは100%クリアはほとんど必要ない」と、あくまでも見え方の目安として捉えています。そして、「この100Hueチェックによって、C型の中にもさまざまな色の見え方があることを知ってほしい」と話してくれました。

P型、D型の中にもその見え方は個人差があります。さらに、色覚は病気や老化によって変わることもあります。
このように人の色覚は、100Hueチェックノーエラーの人から、強度のD型までグラデーションのように存在していて、万能の色覚などはないのです。
そして、この差異は優劣を決めるものではなく、人としての特性にすぎません。

色覚情報を正確に伝えることの大切さ

すべての人が同じ色覚をもっていない中で、さまざまな情報を正確に伝えるのは難しいことです。
世の中の色による情報は、C型とよばれる多数派の見え方によって作り出されているものがほとんどです。

例えば、図やグラフなどで、色によって情報の内容を区別させるケースです。しかし、C型の人にとっての「見分けやすい色づかい」が、他の色覚型の人には「見分けにくい色づかい」であったり、似ている色のグループが異なっていたりすることもあります。

教科書も紙面のカラー化が進み、こうした色覚の多様性に配慮した表現はとても大事なことになっています。光村図書が発行しているすべての教科書も、市原先生にカラーユニバーサルデザインの観点から丁寧に校閲していただいています。

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カラーユニバーサルデザインは、より多くの人に利用しやすい配色を行った製品や施設・建築物、サービス、情報を提供するという考え方です。教科書づくりも、この考えに基づき、色の組み合わせはもちろん、形を変えたり、文字情報を加えたりするなどの工夫をして、どんな子どもにも学ぶ喜びが実感できるようになっているのです。

光村図書のユニバーサルデザインへの取り組み

新しい世界の扉を開く

C型の人が多数を占める世界では、同じ色覚に出会うことで共通の文化が生まれ、色名が共有されてきました。しかし、最初にご紹介した薔薇の作品のように、「色とはイマージナリー(現実に存在するものではない)なもの。だからこそ、自分と異なる色覚に出会うことで、新しい世界の扉も開かれる」と市原先生は考えています。そして、「色覚情報を正確に伝えることの大切さと同時に、多様な色覚をもつ人が互いに色彩でコミュニケーションを取ることにこそ価値がある」と訴えます。

さまざまな色彩があふれる現代社会。その美しさや機能性をすべての人が享受できるようにするために、カラーユニバーサルデザインは、ますます重要になってきます。そして、お互いの見え方の違いをしっかり知ったうえで、新しい色彩の文化を生みだしていければ、世界はもっともっと明るく変わっていくと思いました。

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