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第8回 みんなが話したくなる「スピーチ」の工夫 ―低学年編―

青山先生の国語教室

2017年10月16日 更新

青山 由紀 筑波大学附属小学校教諭

子どものモチベーションをアップさせる、国語の授業アイデアをご紹介します。

第8回 みんなが話したくなる「スピーチ」の工夫
―低学年編―

スピーチが苦手な子どもたちの悩みの一つとして、「何を話したらよいのかわからない」ということが挙げられます。特に低学年の場合、スピーチの経験が少ないので、まずはとにかく話しやすいお題を出すことが重要です。
そこで、夏休み、冬休みなどの長期休業明けによく行うのが、「いちばん○○だったこと」というお題のスピーチです。長期休業中は、普段とは異なる体験をしていることが多いので、スピーチの材料が見つけやすいという利点があります。しかし、単に「夏休みの思い出」といったお題にしてしまうと、旅先での出来事を、時系列に沿ってひたすら話すということに陥りがちです。「いちばん○○だったこと」というお題にすれば、楽しかったこと、驚いたことなど、話題が焦点化されます。

それでは、実際のスピーチの様子をご紹介します。

―筑波大学附属小学校2年 長期休業(夏休み)後のスピーチの様子―

  • スピーチのお題「いちばん○○だったこと」

※持ち時間は一人3分。3分の中で、スピーチと質疑応答を行う。

発表者A ぼくが夏休みにいちばん楽しかったことは、広島のおじいちゃんとおばあちゃんの家に行って、海で魚釣りをしたことです。えさは青虫です。

(多くの児童から、「青虫!」と驚く声)

発表者A 最初に釣れたのはこれくらいの小さな鯛です。その後も鯛が2匹くらい釣れました。そして最後に「きす(鱚)」が釣れました。

(「きす? 魚?」とささやく声)

発表者A 「きす」は色がきれいでした。鯛はまだ赤ちゃんだったので、持って帰らずに流しました。釣った「きす」は、次の日の朝に食べることにしました。
これでスピーチを終わります。何か質問はありますか。  

青山  今日の一人目の質問はBさんですよね。

ここがポイント

質問は、挙手制だけで進めていくと、クラスの中で発言回数に偏りが出てしまいます。全員が質問できるよう、一人目の質問者だけは持ち回りにしておきます。落ち着いて質問を考えられるよう、スピーチを始める前にも、今日はBさんの番だということを確認しておきました。

児童B 「きす」はどれくらいの大きさでしたか?

発表者A 幅は2センチくらいで、大きさはだいたいこのくらいです(手で示す)。

画像、スピーチの様子
魚の大きさを手で示すAさん

児童C A君がもともと釣りたかったものは何ですか?

発表者A 最後に釣れた「きす」です。

児童D 「きす」は何色でしたか?

発表者A 銀色でした。

ここがポイント

ここで、3分間の時間制限のタイマーが鳴りました。ある適度の時間で区切ることにより、テンポよく進み、子どもたちは1回1回のスピーチに集中することができます。

青山 みなさん、釣りの様子を詳しく聞くことができましたね。
ところで、「きす」って知っている?

「きす」という名称を初めて聞いた子どもが多かったようなので、簡単に補足説明を入れました。そしてすぐに、次のEさんのスピーチに移りました。

発表者E 楽しかったけど、悲しかったことを話します。

(クラスからは、「え? どんなこと?」という興味津々の声)

発表者E 私は夏休みに、親友のFちゃんと一緒に箱根に旅行に行きました。お母さんが1時間も並んで、ロマンスカーの展望席を取ってくれました。でも、そこで、本当にびっくりしたことがありました。ロマンスカーに乗って、楽しくお弁当を食べていたら、車内アナウンスがあり、「人身事故があったので、ロマンスカーを運行できなくなりました」と聞かされました。10分くらいしか乗っていなかったのですが、3つ目の駅で降りることになりました。

(多くの児童から、「え~、残念」という声)

発表者E それから各駅停車に乗り継いで、5時間かけて箱根に行きました。
何か質問はありますか。

画像、スピーチの様子
Eさんへの質問タイム

児童G ロマンスカーで行っていたら、何分で箱根に着いていましたか?

発表者E たぶん1時間半くらいです。

「いちばん○○だったこと」は、楽しかったことや充実していたことがテーマになるとはかぎりません。Eさんのような、がっかりした話も変化があって面白いものです。Eさんが明るく話してくれたこともあり、大勢の子どもが興味をもってスピーチを聞いていました。そして質問タイムには、多くの手が挙がりました。

次はHさんのスピーチです。Hさんは、空中ブランコに乗ったときの様子を、書画カメラで映しながらスピーチを行いました。写真を見せることによって、スピーチの内容がより伝わりやすくなります。写真は、スピーチ用にわざわざ用意しなくても、自宅にあるスナップ写真で十分です。

発表者H 夏休みにいちばんわくわくしたことは、石垣島で空中ブランコに乗ったことです。
初めは怖くてやりたくなかったのですが、いとこのお姉さんがやるといったので、私もやってみました。風が吹いていたので気持ちよかったです。私は3回やりました。

児童I どのくらいの高さでしたか?

発表者H 2階建てくらいです。

児童J どこから登るんですか?

発表者H ここにある(棒で指す)はしごで登ります。

画像、スピーチの様子
書画カメラを活用したスピーチの様子

数名スピーチしたところで、「褒め褒めタイム」を設けました。友達のスピーチのどんなところがよかったか、理由とともに言ってもらいます。このような時間を設けることで、子どもたちは、友達のよいところを探しながら話を聞くようになります。


この活動に慣れてくると、子どもたちは、話題を掘り下げるための質問が上手になっていきます。たまに、話題の中心からずれた質問が出ると、「あれ? そこについて聞くの?」といった、質問に対して質問が投げかけられることもあります。
スピーチは、話し手だけでなく、聞き手も同時に育てなければ、充実した活動になりません。クラス全体で、話し手・聞き手を育てていきたいものです。(談)

次回は、中・高学年のスピーチの工夫についてご紹介します。

青山由紀(あおやま・ゆき)

東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。日本国語教育学会常任理事。全国国語授業研究会常任理事。著書に『古典が好きになる』(光村図書)、『板書 きれいで読みやすい字を書くコツ』(ナツメ社/樋口咲子共著)、『子どもを国語好きにする授業アイデア』(学事出版)などがある。光村図書小学校『国語』教科書編集委員を務める。

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