通常学級での特別支援教育
2020年3月24日 更新
川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭
通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。
川上康則(かわかみ・やすのり)
1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。
第43回 好きなことがある、ということ
今日のポイント
- 教師の仕事の本質とは何か。それは「子どもたちに、人生を豊かに生きるコツを伝える」ということである。
- 好きな人が増えることや、好きなことがいっぱいあることは、人生を深刻化させない方法の一つである。
- 好きな人や好きなことに対する気持ちと同じような意識になって他者に関わることを「好意」と呼ぶ。ちょっとした好意にあふれた言葉は、周囲を幸せにする。クラスを落ち着いた状態にしたいのであれば、まずは教師自身が「好き」を増やし、子どもたちに「好意」を示すことが最も大切なことである。
- こだわりが強い子への関わり方のコツは、その子がなぜこだわるのか、きっかけや理由に「好意」を示すことから始まる。
教師の仕事の本質は「子どもたちに、人生を生きるコツを伝えること」
私は、教師という仕事の本質は「子どもたちに、人生を豊かに生きるコツを伝えること」だと思っています。
人は、好きな人や好きなことに対しては自然と態度がやさしくなります。そして、大らかに接することができるようになります。
好きな人といるときや好きなことをしているときは、時間を忘れるほど夢中になれて、気がついたらあっという間に時間が過ぎていたということもよくあります。
だから、好きな人が増えることや、好きなことがいっぱいあることは、人生を深刻化させない方法の一つだと言えます。
既にある、好きな人や好きなことに対する気持ちと同じような意識をもって、新たな他者に関わることを「好意」と言います。ちょっとした好意にあふれた言葉は、受けとる側も大きなエネルギーをもらっているような気になります。
だから、周囲に「好意」を示せる人は、無意識のうちに周りを幸せにしています。
もし、クラスを落ち着いた状態にしたいのであれば、まずは教師自身が好きな人や好きなことを増やし、その気持ちに似た「好意」を子どもたちに示すことが一番です。周囲の「好意」に包まれることで、「好感」がもてるクラスに育っていくものだと思います。
最近の学校現場は、こうした当たり前のことにすら無関心になってきました。それだけ追い詰められている状況なのだろうと思います。教室も、職員室も。
「深刻化」した人たちが増える空間の怖さ
深刻化して行き詰まりを感じるようになると、あらゆることに対して「好き」が小さくなるのを感じるものです。
「好き」が小さい人たちが群れ出すと大変です。
嫌いなことや苦手な人に対しての「否定してもいい」、「攻撃してもいい」、「失礼な態度をとってもいい」、「相手に恥をかかせてもいい」というラインが途端に緩くなります。
それに巻き込まれて、「悪意」のある言葉や態度に苦しめられた方もいることでしょう。ちょっとした好意が人を無意識に幸せにするように、ちょっとした悪意が人を無自覚に傷つけます。
だからこそ、まずは、「好き」をたくさん作る。そして、「好き」が小さくなり始めたときは、「好き」が小さい人たちどうしで集まるのではなく、「好き」がたくさんある人のそばに行くようにする。
・・・これが、人生を豊かに生きるコツだと思っています。
「こだわり」がある子どもと好きなことを共有する
もし、発達につまずきがある子どもと関わる際に行き詰まり感を感じたら、まずは、その子が好きな人や好きなことについて理解し、それを共有してみてください。
その子と同じレベルで楽しめなくてもかまいません。なぜその子がこだわるのか、きっかけや理由に理解を示してみましょう。こだわりに「好意」を示す人には、心を開きやすくなるものです。
その子自身を理解しようとするなら、まずは、その子が好きな人や好きなことに好意を示し、共感する。子どもとの豊かな関わりは、そこから始まります。
次回は、不安とともに生きることについて取り上げます。
Illustration: Jin Kitamura