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書写の用具研究 第9回

書写の用具研究

2017年10月11日 更新

編集部 光村図書出版

書写の用具を一つ取り上げ、書写用具店の方にお話を伺うコーナーです。

第9回 さまざまな用具の世界

これまで、文房四宝(筆・硯・墨・紙)について、その種類や製造工程をご紹介してきました。今回は、さまざまな書写の用具を扱っている鳩居堂(東京都中央区)にお邪魔し、文房四宝以外の用具について、店長の庄司治好さんに伺いました。

中学生の男の子と女の子のイラスト

1. 用具の名前と置き方

わあ、見たことのない用具がたくさんあるなあ。
 

うちのお店では、小・中学校の書写の授業では使わないような用具もいろいろ扱っていますので、みなさんには、初めて見るものが多いかもしれませんね。

画像、鳩居堂の店内
文鎮、水滴など美しい書道用具がずらりと並ぶ店内。

これらの用具の名前を教えてください。
 

筆を置く台を「筆架(ひっか)」(※1)と言います。書いている途中に、墨がついた筆を置いておくことができるので、とても便利です。使った墨を置いておく台は「墨床(ぼくしょう)」(※2)と言います。そして、硯に水を注ぎ入れるのが「水滴(すいてき)」(※3)。それから、これはみなさんも書写の授業で使っていると思いますが、紙を押さえる「文鎮(ぶんちん)」(※4)です。
用具の置き方は、このように(図参照)、半紙のすぐ横に筆架と筆、その隣りに硯を置くとよいと思います。筆架と硯を逆に置く人もいますが、筆架が半紙のすぐ横にあるほうが、墨を磨(す)ってから筆をとって書く、という流れがスムーズにできるので、私はこの置き方をおすすめしています。墨床や水滴は、硯の上の方に置いておくとよいでしょう。

画像、用具の名前と置き方

2. さまざまな文鎮

学校で使う文鎮は、金属製の細長いものが多いですが、お店にはいろいろな形のものがありますね。
 

動物の形のものや、ガラスで作られたものなど、見ているだけでも楽しいですよ。年末年始には、干支がモチーフになった文鎮も人気があり、お土産に買っていかれる方も多くいらっしゃいます。
文鎮は、ものによって重さがさまざまなので、買うときには、実際に手に取って重さを確認してください。見た目は軽そうなのに、持ってみると意外と重いということが結構あります。大筆で力強い字を書くときは、半紙が引っ張られるので重い文鎮、仮名をさらさらっと書くときは小さい文鎮、というように使い分けるとよいと思います。

画像、いろいろな文鎮
【文鎮】紙や書物を押さえる重し。
動物をかたどったものも多い。

3. あると便利な筆架

筆を置く筆架も、いろいろな形のものがあるんですね。
 

山のような形をしたものや、魚をかたどったものなどさまざまですが、筆を置きやすい「波型」をしたものが多いですね。素材は、陶器や木、高級なものだと「玉(ぎょく)」を使ったものもあります。書いている途中で、墨を含んだ筆を置きたいとき、筆架があるとたいへん便利です。

【筆架】筆を置く台。「筆置き」とも
呼ばれる。波型で横幅5~15cm程度の
ものが多い。

4. 意外と役立つ墨床

墨床は、墨を磨って、さらに水を足すときなどに、いったん墨を置く台として使います。あってもなくてもよさそうなものに思えますが(笑)、実は意外と便利な用具です。墨床がない場合、墨を硯に立てかけたりしますけれど、そうすると墨が倒れて机が汚れることが多々あります。安定感のある墨床があると安心ですね。

画像、墨床
【墨床】

5. 収集したくなる水滴

水滴は、硯に水を注ぐときに使うものです。大きな字を書きたいときは、墨をたくさん磨らなければならないので、大きめの水滴を使い、仮名を書くときは、少しの水でよいので、小さなかわいらしい水滴を使うとよいでしょう。
水滴は、形や色にさまざまなバリエーションがあるので、収集している人が多いようです。実は、私も集めておりまして、書きたい文字によって、水滴を選んで使っています。迫力のある字を書きたいときは、色が鮮やかな水滴を、渋い字を書きたいときは、落ち着いた色合いの水滴を……というように使い分けて、気分を盛り上げています(笑)。

【水滴】硯に水を注ぐための器。
「水差し」とも呼ばれる。匙(さじ)
で水をすくって入れるタイプもある。

6. 環境をつくる楽しさ

書写の用具には、そのような「選ぶ楽しさ」がありますね。
 

用具を選んで、書く環境を自分好みにしていくと、書がますます楽しくなるんですよ。私は、書く時間も大事ですが、書く前の準備の時間も、とても大事だと思っています。自分が「いいな」と思った用具を半紙の周りに置いて、それらを眺めながら墨を磨る時間というのは、贅沢でいいものです。心が落ち着き、よい字が書ける気がします。
私どものような専門店には、安価なものもありますが、高級な用具もあります。小・中学生のみなさんのお小遣いだと、それらをすべてそろえるのは難しいかもしれません。でも実は、みなさんの身近には、書写の用具として代用できるものがたくさんあるんですよ。

例えば、私は旅先などで、平たい石を見つけると「墨床として使えるな」と思い、拾ってくることがあります。墨床は墨を置くのによい大きさであれば、何でもいいんです。それから、筆を立てる「筆筒(ひっとう)」(写真参照)などは、使わなくなったマグカップで代用してもいいですよね。

丁寧に用具の説明をする店長の庄司さん。
画像、和紙の産地
<左>【筆筒】筆を入れておく筒。倒れないよう、ある程度の重さがあるほうが使いやすい。
<中央>【筆掛】筆を吊るして保管するためのもの。筆を洗って穂先を下にして干すと、水が筆の根元にたまらず腐食も防げる。
<右>【硯屏(けんびょう)】昔は硯の前に立てて、風や埃をよけるものとして使用していたが、現在は鑑賞用として使われている。

お金をかけなくても、自分好みの書写の環境をつくることはできるので、ぜひ挑戦してみてください。きっと楽しいですよ。そして大人になったら、専門店で用具を選ぶ喜びを味わってもらえたら、うれしく思います。

Illustration: KAMO

東京鳩居堂(きゅうきょどう) 銀座本店

東京都中央区銀座5-7-4
Tei:03-3571-4429 Fax:03-3574-0075
営業時間:10:00~19:00 (平日・土曜)/11:00~19:00 (日曜・祝日)

この連載は、これで最終回です。ご愛読、ありがとうございました。

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