みつむら web magazine

通常学級での特別支援教育 第29回

通常学級での特別支援教育

2018年9月26日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第29回 子どもの心に響く褒め方(1)

今日のポイント

  • 褒めて伸ばすことはとても大切だが、その前提として、普段からの良好なコミュニケーションがないと空回りする。日常的に威圧的な指導を繰り返していて、大人の期待に沿うときだけ褒めるという指導者のもとでは、子どもたちもその魂胆を見抜く。
  • 子どもの心に響く効果的な褒め方は、“短く・太く!”が基本となる。
  • 柔和な表情、ぬくもりのある声のトーン、相手へのリスペクトを示す関わり、丁寧な所作など、その人の醸し出す非言語的なメッセージは、子どもに安心感をもたらす。

褒める前に確認しておきたいこと

昨今の教育や子育てに関する本を見ると、おおむね「褒めて伸ばそう」と書かれています。発達障害の有無にかかわらず、褒めることはとても重要です。しかし、「褒めれば誰でも伸びる」かのような錯覚に陥っていることはないでしょうか。

画像、子どもの心に響く褒め方

「信頼できる大人から褒められる」からこそ伸びるのであって、うわべだけで褒めても子どもは素直には喜びません。ましてや、日ごろ威圧的・高圧的な強い指導をしていて、大人の期待に見合った行動のときだけ褒めるというような指導者のもとでは、「どうせボクたちを都合よく動かそうとしているだけだろう」と、子どもたちだってその意図を見抜いてしまうのではないでしょうか。

また、子どもによっては「そこを褒められても、ちっともうれしくないんだよな~」という、ちょっとしたこだわりやプライドがあります。その子なりの褒めどころを押さえるには、やはり日ごろからの良好なコミュニケーションが欠かせません。

効果的な褒め方は、短く・太く!

最近の子どもたちの多くは、「ビジュアルラーナー(見て学ぶ人)」だといわれます。目で見て情報を理解する力にたけている一方で、話を長く聞いていることは苦手です。つまり、長く褒めても聞いてくれていないのが普通なのです。子どもの心に響く効果的な褒め方の基本は「短く、太く!」です。具体的に考えてみましょう。

(1)感動詞を使う

「あぁ!(納得)」「いい!(同意)」「うーん(降参)」「えーっ!(驚愕)」「おぉ!(感嘆)」などの感動詞は、どれも短く・太くという条件を満たします。しかも、「あなたの発言や行動に心が動かされた!」という気持ちの変容をダイレクトに表現することができます。

(2)問題のない行動のときは、すべて肯定する気持ちを伝える

「それそれ!」「そのまま続けて!」「今のペースで!」など、子どもの今のふるまいが適切であることを伝えたうえで、その行動を後押しする意図を伝えるようにします。

(3)行動をそのまま2回続けて言う

「うん、書いてる書いてる」「おっ、読んでる読んでる」など、行動をそのまま2回続けて伝えるようにします。なぜか褒め言葉っぽく聞こえてしまうという、いわば裏技です。子どもたちには決してネタばらしをしないようにしてください。

(4)形容詞を用いる

「(考えが)深い」、「(見方が)鋭い」「(器が)大きい」「(心が)広い」など、形容詞を用いることも、ひと味違う褒め方になります。

(5)大人びた子どもには、難しめの言葉をあえて用いる

「秀逸」「卓越」「傑出」「絶妙」「圧倒」などの言葉をあえて用いることで、子ども扱いしていないことを伝えることができます。

(6)ノンバーバル(非言語的)なメッセージに気を配る

どんな褒め言葉も、機嫌のよい大人の表情にはかないません。柔和な表情、ぬくもりのある声のトーン、相手へのリスペクトを示す関わり、丁寧な所作、穏やかな立ち居ふるまい、落ち着いた身振り手振りなど、その人の醸し出す非言語的なメッセージは、子どもに安心感をもたらします。どう褒めるかよりも、どういう大人でいるかを大切にしましょう。

次回も引き続き、子どもの心に響く褒め方について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集