書写の用具研究
2017年10月5日 更新
編集部 光村図書出版
書写の用具を一つ取り上げ、書写用具店の方にお話を伺うコーナーです。
第7回 教えて! 紙のこと
和紙を専門に扱う山形屋紙店(東京都千代田区)へ伺いました。明治13年の創業以来、和紙ひとすじのお店です。宮内庁御用達でもあり、歌会始めのときに使う紙などを宮中におさめています。店主の田記有子さんにお話を伺いました。
1. 和紙の産地
いろいろな和紙が置いてありますね。
うちの店では、書道半紙の他、奉書紙、千代紙、障子紙、手芸用和紙はもちろん、便箋やはがきなども扱っています。お店に置く和紙は、全国の和紙職人の工房を訪れ、職人と話をしながら決めていきたいと思っています。やはり、実際に職人が和紙を漉(す)いているところを見たり、その土地の自然に触れたりすると、和紙に対する愛着が全然違ってきますから。大変ですが、できるだけ工房へ出向くようにしています。
和紙はどのような場所で作られているんですか。
川の上流付近など、きれいな水のあるところですね。また、暑い場所は和紙作りに向きません。冷たくてきれいな水で和紙を漉くと、締まったよい紙になるんです。
和紙は、全国さまざまな場所でつくられています(図参照)。うちの店で取り扱っているものでは、福井県の越前和紙や、高知県の土佐和紙が多いですね。岐阜県の本美濃紙(ほんみのし)、埼玉県の細川紙(ほそかわし)、島根県の石州半紙(せきしゅうはんし)は、2014年にユネスコの無形文化遺産に登録されたので、ご存じの方も多いと思います。
2. 和紙の原料
和紙の原料は何ですか。
古くは麻なども使われていましたが、現在は、コウゾ(クワ科の低木植物)、ミツマタ(ジンチョウゲ科の植物)、ガンピ(ジンチョウゲ科の植物)という3種類の木の皮の繊維が多く使われています。それから、トロロアオイ(アオイ科の植物)という植物の根に含まれる粘液を糊(のり)として使います。
コウゾは繊維が長く絡み合う性質があり、しっかりとした強い紙になります。墨のにじみやかすれを表現しやすく、漢字を書くときに向いています。ミツマタは、繊維が短く柔軟なので、緻密な紙になります。墨がにじみにくく、仮名を書くのに向いています。ガンピは、繊維が短く光沢があるため、紙の表面が美しくなめらかになります。かな料紙などに使われます。
基本的に、和紙にはコウゾが使われることが多く、そこにミツマタやガンピを混ぜて、なめらかさや繊細さを出します。
書道半紙は、原料や漉き方の違いで、随分と書き味が変わります。にじみがふわっと出るもの、かすれが強く出るものなど、さまざまです。小・中学生のみなさんには、ぜひいろいろな半紙を試してみてほしいですね。お店に来て「書き初め用の半紙を探しています」とか「練習用に気軽に使える半紙が欲しいです」とか用途を教えてもらえれば、いくらでも相談にのりますよ。
半紙は1帖(20枚)から売っています。手漉きでも、1帖数百円で買えるものがもありますよ。時には清書用に、よい紙を使ってみると、気も引き締まるし、いいんじゃないでしょうか。
3. 和紙のよさ
最後に、和紙の魅力について教えてください。
和紙は、コウゾを刈り取って、それを蒸して、皮を剥(は)いで……と、作るのにたいへんな手間がかかります(第8回参照)。だからこそ、独特の美しい風合いがあり、何年経っても変わらない強度があります。よく、和紙は千年もつと言われますが、うちのお店には、明治時代の大福帳が残っていて、百年以上経った現在でも、文字がしっかり読め、紙が擦り切れずきれいな状態を保っています。
みなさんは、書道半紙に書いて失敗すると、半紙をすぐに捨ててしまおうとするでしょう。でも、和紙はとても丈夫なので、ちょっと失敗したからって捨てるのは、もったいないですよ。書く場所がなくなるぐらい、隅々まで書いて、紙に「ありがとね」って言ってから、捨ててほしいなと思います(笑)。
昔は、使った半紙を捨てずに、箱の裏張り紙に使ったり、割いてはたきにして使ったりしていたんです(写真参照)。ぜひ、みなさんにも紙を大事に使ってほしいですね。それが、私たち紙屋さんからのメッセージです。
はい! 練習用紙1枚も、大事に使っていきたいと思いました。そして、いつか手漉きのよい紙に清書してみたいと思います。今日は、ありがとうございました。
Illustration: KAMO
東京都千代田区 神田神保町2-17
Tel:03-3263-0801
営業時間:10:00~18:00
定休日:土・日・祝日
次回は、美濃和紙ができるまでの工程をご紹介します。