はじめよう、対話による鑑賞の授業
2015年1月22日 更新
美術における鑑賞を通した言語力育成が求められています。全国各地の学校や美術館で行われる美術鑑賞の授業の形として、先生や学芸員の解説を一方的に聞くのではなく、生徒自身が主体的に発言をし、対話をしながら美術作品に対する見方や価値意識を深めていく「対話による鑑賞授業」が注目されてきています。
生徒から発言が出てこない場合はどうすればいいでしょうか
授業の様子から望ましい声のかけ方と誤った声のかけ方の違いをみてみましょう
望ましい声のかけ方
(しばらく考える時間を与えて…)
誤った声のかけ方
(間をおかず突然…)
問いかけをして、すぐ期待したような反応が返ってくることはむしろ稀なことです。はじめの問いかけに対しては、しばし沈黙が続く場合があります。先生にとって授業の沈黙ほど怖いものはありません。このまま誰も何も言い出さないのではないか、この沈黙がずっと続いたらどうしようと不安に駆られることもあるでしょう。不慣れな先生が犯しやすい誤りは、「じゃあ、そこの人、意見を言ってください」と突然指名したり、「何が見えてるかというと、この人の表情なんかずいぶん変わってますよね」などと、先生自身が語りだし質問を変えてしまうことです。
生徒にしてみれば、沈黙は考えている時間です。あるいは、発言しようかどうか周りのようすをうかがっているのかもしれない。それなのに先生が慌てて質問を変えてみたり、自分がしゃべり出したりするとその流れを乱すことになります。最初は沈黙しか返ってこないとしても、そのうちに生徒のなかからささやきが漏れてきます。「これって……」「何だか……」というようにつぶやいたり、じっと凝視したり、首をかしげたり、うなずいたりなどのさまざまな反応に注目してください。特に目が合う生徒は有望です。ほんとうはいいたいのに、周りの空気を察して発言を控えていることが多いからです。アイコンタクトして目が合う生徒には、「じゃあ、言ってもらっていいかな」とたずねて発言を促すといいでしょう。
このようにしてようやく出てきた最初の発言は勇気のある発言です。うなずきながら受けとめ、良いところを見つけて同意することです。「あぁ、ほんとだ。Aくんの言うとおりだ。そう見えるよね。なるほど!」と同意すれば、その生徒は先生に同意されたことを喜び、発言したことの満足感を得るでしょう。そして、もっとしっかりと見つめ、考えることでしょう。まわりの生徒も「あんなふうに言えばいいのか」と授業の形式を理解し、次の発言が促されるようになります。
最初の発言に対する先生の称賛は、発言者だけでなく学級全体に向けられたメッセージであることを心得ておいてください。
対話による美術鑑賞の決定版!
『風神雷神はなぜ笑っているのか 対話による鑑賞完全講座』 (上野行一 著)