
通常学級での特別支援教育
2016年11月9日 更新
川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭
通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。
川上康則(かわかみ・やすのり)
1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。
第7回 切り替えが難しい子
今日のポイント
- 勝ち負けにこだわる気持ちは、学習課題に真剣に取り組んだからこそ生まれる。「勝ちたい」という気持ちを抱くこと自体は悪いことではない。
- 「負けたことくらいでイライラするな」という指導では、子どもの気持ちに寄り添えていない。気持ちに理解を示しつつ、表出している行動は許されることではないというスタンスを大切にする。
- 勝ったときの上手な喜び方や、負けたときの上手な悔しがり方について、計画的に指導していく必要がある。
授業の中で、チーム対抗のゲームやリレーなどを行うことがあると思います。みんなで楽しく、和気あいあいと進められるとよいのですが、なかには、勝ち負けに固執したり、一番であることに強くこだわったりする子がいます。今回取り上げるのは、勝ち負けにこだわりがあり、時に、失敗や結果を長く引きずってしまうような子への指導や支援についてです。
失敗や結果をずっと引きずる子には、二つのタイプがあります。
- 対戦相手や結果を出せなかったチームメイトを責め続けるタイプ
- 自分のせいで負けてしまったなどと自分を責め続けるタイプ
まずは、それぞれのつまずきの背景を明らかにしたうえで、共通する事項を指導のヒントとして考えていくことにします。
1 他者をずっと責め続けるタイプ
このタイプの子は、勝負そのものに強いこだわりがあり、かつ自分のことを客観的に振り返ることが苦手です。相手に対して攻撃的になる姿は、通常は成長にともなってしだいに目立ちにくくなるものですが、それでもなかには、こだわりが強く残る場合があります。
このような場面を見たときに、「負けたからってイライラするな」という指導をしてしまうと、「先生は、自分の気持ちをわかってくれない」という気持ちを抱かせてしまうかもしれません。なぜなら、勝つことに対してこだわる気持ちは、学習課題に真剣に取り組んだからこそ生まれるからです。
「勝ちたい」と思うこと自体は、決して悪い感情ではありません。問題となるのは、学級や社会で許容される行動ではない形で、気持ちが表出してしまうことです。気持ちは受け止めつつ、行動は好ましいものではないというスタンスで指導することが大切です。
2 自分をずっと責め続けるタイプ
このタイプは、運動・スポーツや友達との遊び場面を通して得られるはずの「自己肯定感」が育っていない子が多いように感じます。もともと自尊感情が低く、「どうせ自分なんて……」「何をやってもダメだし……」という気持ちが強いということも影響します。日常の授業の中で、成長体験や達成感を得られているかどうか、見つめ直してみましょう。
3 両タイプの共通点とは?
実は、二つのタイプには共通点があります。それは「記憶のよさ」です。記憶力は、時にマイナスに作用する場合があり、ネガティブな記憶が残るとなかなか忘れられないところがあります。それゆえに、いつまでもこだわってしまったり、気持ちの切り替えが難しかったりといった状態が続きます。
結果を大切にすること自体は悪いことではありませんが、結果のマイナス面に固執しすぎることはあまり好ましいとはいえません。むしろ、次に向かうエネルギーとして、結果を活用することが大切になります。
「次に向かうエネルギーとして結果を活用する」ためには、「勝ったときの上手な喜び方」や「負けたときの上手な悔しがり方」を丁寧に教え、ゲーム等を始める前に全員で練習(リハーサル)するという方法がよいと思います。
【指導その1】 勝ったときの上手な喜び方を教える
- 「やったー」「よし!」「勝ったぞ」など声に出せるのは1回だけ。
- その場だけで喜びに浸り、授業後はそれにこだわらないようにする。
- 相手の健闘をたたえ、相手がいたからこそ勝負ができたことを感謝する。
【指導その2】 負けたときの上手な悔しがり方を教える
- 「次こそは」「今度こそは」など、自分(たち)を奮い立たせる言葉を使う。
- 振り返るときは、「アイツのせいで……」と人のせいにするのではなく、「自分が○○していれば勝てたかも」という言葉を使う。
- 「しかたない」「こんな日もある」「まあ、いいか」「きっと相手のほうが練習したはずだ」などの“切り替え言葉”を使う。
このようなコミュニケーションのこつを伝える指導は、日々意識しておかなければ、何気ないやり取りの中で流れてしまうところがあります。授業内で指導する場合には、事前にどの場面で関わらせるかを計画し、指導案に明記し、ポイントを絞って学習させることが大切です。
〈参考文献〉
阿部利彦監修、清水由・川上康則・小島哲夫(2015)『気になる子の体育 つまずき解決BOOK 授業で生かせる実例52』学研、pp.132-135
次回は、「『気になる子』を気にしすぎる子」について取り上げます。
Illustration: Jin Kitamura