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通常学級での特別支援教育 第12回

通常学級での特別支援教育

2017年4月6日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第12回 「専門家」の言うことは絶対ではない

今日のポイント

  • 「特別支援教育の専門家」といわれる人が学校現場に入る機会が増えているが、その全てが正しいアドバイスを伝えているとは限らない。
  • 本当に連携できる専門家とは、同じ目的をもち、互いの立場の違いを尊重し合い、各々の役割を意識し、協力して物事を進めていける人である。
  • 担任は「その子の専門家」としての自負をもち、教室で見せるその子の姿からつまずきを理解し、「特別支援教育の専門家」と対等で良好な協力関係を築こう。

特別支援教育の制度の充実とともに、スクールカウンセラーや巡回指導のアドバイザー、専門家チームなどが教室に入る機会が増えました。いわゆる「特別支援教育の専門家」といわれる人たちです。私は、特別支援学校に所属する教員ですが、一方で地域支援を行うコーディネーターという立場でもあるので、「特別支援教育の専門家」の一人ということになります。

実は、全てのケースに100パーセントうまくいく方法を提示できる専門家などいません。これまでの支援ケースや文献などと照らし合わせながら、仮説的に立てた支援プランを提示しているだけであることがほとんどです。それぞれに専門とする得意な領域、苦手な領域があり、オールマイティになんでもわかるという専門家は稀少です。

ところが、専門家の意見となると、それをうのみにしてしまう人が教育現場には多すぎるのです。

画像、専門家と教師と子ども

「専門家」の意見をしっかり見極めて

専門家といっても、教師経験がない人の場合は、学校の制度や教育課程、職員室の事情などを知りません。また、発達支援の療育機関の関係者は、個別支援のプロかもしれませんが、「集団の中の個」として育てる視点をもちえない人もたくさんいます。

なかには、現場では到底採用できないような無理難題的な支援プランを突き付ける専門家もいますし、理想ばかりで具体的な解決策を示せない専門家もいます。
自分にしかできないやり方を伝え、「私の言うとおりにやらないからうまくいかないのだ」という批判で現場を混乱させる専門家がいるかと思えば、教育現場をただただ「上から目線」で非難する専門家までいます。

私が知りえる中で最も劣悪だったのは、心理検査の数値を改ざんしている専門家です。「教育現場は何もわからないだろう」と甘く見られているのかもしれませんが、なかには検査結果の計算がデタラメだったり、具体的な数値すら示さずに「この子は〇〇の支援を望んでいます」など一方的な申し入れだけが示されていたりするケースが数例ありました。

大切なのは、真贋を見極める目をもつということです。

早期からの療育に取り組んできたご家庭は、学校よりも、医療機関や発達支援の療育機関の先生の言うことに重きを置いている場合があります。その先生方の全てが、学校現場に協力的な専門家ばかりとは限りません。「この子が望むとおり、好きにさせてあげなさい」といった強引な論理を突き付けられた保護者への対応に苦労することもあります。このような「専門家の意見に振り回されてしまう」という落とし穴には、十分に気をつけたいものです。

担任は「その子の専門家」

学校では、担任こそが「その子の専門家」でなければなりません。そして、特別支援教育の専門家とも対等で良好な連携・協力関係を築くべく、その子が教室で見せる事実から、子どものつまずきを理解する努力をすべきです。
本当に連携できる専門家というのは、同じ目的をもち、互いの立場の違いを尊重し合い、各々の役割を意識し、協力して物事を進めていける人であるはずです。私たち教育現場に立つ者は、その子の専門家であることにもっと自信をもち、同じ立場で現場を支えてくれる人の意見を採用すればよいと思います。

発達につまずきのある子どもへの対応は、年数が経てばうまくなるというものではありません。「若手だから……」という言葉を逃げ道にするのではなく、また「ベテランなのに……」と嘆くのでもなく、常に真摯に“その子の専門家”であろうと努力し続けることが大切なのではないかと思います。

次回は、授業の規律や学級の秩序を乱す子について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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