通常学級での特別支援教育
2017年5月16日 更新
川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭
通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。
川上康則(かわかみ・やすのり)
1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。
第13回 授業の規律や学級の秩序を乱す子
今日のポイント
- 授業をかき乱すような子どもの背景には、授業への参加感の欠如が見られることが多い。理解度が高くてつまらなさを感じる場合もあれば、理解が難しくて学習内容についていけないと感じている場合もある。
- 不適応行動に歯止めをかけるには、「子どもを変えよう」とするよりも、「一人一人が参加している実感を抱ける授業にしよう」と考えるほうがよい。
- 一見、「学ぼうとしない」姿にも、背景要因がある。要因を丁寧に解きほぐすことで、授業を変えるきっかけや、その子なりのがんばりが見えてくる。
授業の規律や学級の秩序を乱す子どもがいます。例えば、授業と無関係の私語を続ける、口笛や鼻歌が頻繁に見られる、授業中に離席する、教室から出ていく、突っ伏して声をかけても起きない、友達との協働場面を放棄する、教師の失敗を目ざとく見つけて騒ぐ……などの行動がそれに当たります。こうした姿は、従来、授業妨害や怠学と捉えられてきました。
しかし、通常学級に「特別支援教育の視点」がもたらされ、子ども理解の幅が広がってきています。これまでは、大人側が気づけていなかっただけで、本当は何らかの「つまずき」があったのかもしれない、そう考える学校現場が増えてきています。
「学ぼうとしない」を丁寧に解きほぐす
授業をかき乱すような子どもの背景には、「参加感」の欠如が見られます。参加感とは、文字どおり、授業に自ら参加している感覚のことです。授業の中に「心理的な居場所がない」状態ということもできます。理解度が高く、つまらなさを感じている場合もあれば、理解が難しく、学習内容についていけないと感じている場合もあります。クラスの人間関係が影響するため、理解はできていても、安心して意見を発表できない場合も参加感の欠如をもたらします。背景はさまざまです。
そんな子どもたちに「授業を聞かせよう、聞かせよう」とする指導は機能しません。最初のうちは「テストに出すから」とか「将来役立つから」と言えば、少しは聞いてくれるかもしれませんが、結局は長続きしません。
なかには、そんな背景がある子どもたちの気持ちを無視したり、見下したような発言を繰り返したりして逆なでし、反抗的態度を煽ってしまうような先生も少なからずいます。教師側の無理解や誤解が絡んでしまうと、問題はより深刻化します。
「子どもを変えよう」と一生懸命にがんばっても、実はなかなか効果は現れません。むしろ、「わかる授業を追究しよう」「一人一人が参加している実感を抱ける授業にしよう」と考えることのほうが大切だと思います。授業への参加感が高まれば、学習意欲が高まり、不適応行動にも歯止めをかけることができるからです。
さらに深く、背景要因を掘り下げる
参加感の欠如のうち、学習内容の理解や活用に課題がある子どもの場合は、ただ単に参加機会を増やせばよいというわけではありません。「わかる授業を実現すること」こそが、最大の支援になります。
わかる授業を実現するには、子どものつまずきの要因をさらに深く掘り下げる必要があります。現在までのさまざまな研究によって、その背景要因は実に多様で、しかもそれらが絡み合っていることなどがわかってきました。
(1)授業中に、他者からのからかいや失敗にすぐに乗ってしまう場合
「聴覚情報の取捨選択が難しい」という背景要因があることが多く見られます。聞き取るべき音・声と聞き流すべき音・声がいっしょに耳に入ってきてしまうため、集中が長続きしません。他者からのからかいは、授業への全体的な参加感の欠如から引き起こされるものがほとんどなので、まずは授業そのものを魅力的にすることから始める必要があります。
(2)板書の視写に時間がかかったり、一斉指示の聞き漏らしが多かったりする場合
「ワーキングメモリの弱さ」が背景要因として見られることが多いケースです。ワーキングメモリには、文字や動作などの視覚的な情報を一時的にとどめておくものと、音や声などの聴覚的な情報を一時的にとどめておくものがあります。こうした記憶の保持や想起につまずきのある子どもの存在は、指示を具体的かつ明確にすることの大切さを教えてくれます。「何を言うか(書くか)」よりも「必要以上に言いすぎて(書きすぎて)いないか」を見直すようにします。
(3)発言にまとまりがなく、活動の手順や段取りの理解が不十分な場合
「プランニングの力の弱さ」に由来したつまずきであると推察できます。プランニングの弱さは、要点を整理することの苦手さや、行動面でまごつく様子に影響をもたらすことがあります。それによって、周囲から、からかわれるという場面も多くなります。プランニングのつまずきがある子どもの存在は、モデルとなる発言を事前に示したり、発言の際のフォーマット(一定のパターンや型のこと)を準備したりすることの大切さを教えてくれます。
(4)文章題の理解や、文学作品などでの登場人物の気持ちの読み取りが苦手な場合
これは、「他者視点に立つことの難しさ」を裏づけるエピソードです。このような子は、普段から、相手が傷つくような言葉を無自覚に使っていることもあります。こうしたケースでは、問題を時系列で整理したり、イラストなどで視覚化したりすることで、参加感が高まることがあります。
ここでは、不適応行動の背景にある要因の一部を取り上げました。どの要因についても、大人側が理解を広げることで、授業を変えるきっかけが見えてきます。授業をかき乱す行為は、その行動の大きさばかりが話題になりやすいものですが、そもそも学習に向かいづらい背景要因があったのだという理解に立てば、その子どもなりのがんばりも見えてきます。
次回は、円滑なコミュニケーションのためのスキル「作戦ゴリラ」を取り上げます。
Illustration: Jin Kitamura