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通常学級での特別支援教育 第49回

通常学級での特別支援教育

2020年9月8日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第49回 話したくても話せない子・
言葉がうまく出ずに困っている子

今日のポイント

  • 通常学級において、家では話せるのに学校では話したくても話せないという「緘黙(かんもく)症」、言葉がうまく出ずに困っているという「小児期発症流暢(りゅうちょう)症」などのつまずきが見られるケースがある。
  • いずれも話し言葉のつまずきであり、目立ってしまうために、周囲からまねされたり、からかわれたりといったいじめの標的にされやすいところがある。
  • 大切なのは、「そのままのあなたでよい」という周囲の受け止めである。正しく理解し、周囲の関わり方に役立てていきたい。

今回は、言語・コミュニケーション面のつまずきのうち、特に「話し言葉」に焦点を当てます。

「話し言葉」のつまずきはさまざまなものがありますが、ここでは、通常学級でも見られやすい「緘黙症」「小児期発症流暢症」について取り上げます。

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(1)話したくても話せない「緘黙症」

緘黙症は、「発声器官や言語理解に問題がなく、言語能力があり、本人にも会話をしたいという意思があるにもかかわらず、ある特定の場面や状況で話すことができなくなってしまうことが少なくとも1か月以上続いている不安症状」のことを言い、5歳前後に発症することが多いとされています。

緘黙症には、話すことを期待される特定の場面で話せなくなってしまう「選択性緘黙症」と、どの場面でも話せなくなってしまう「全緘黙症」があります。

学校現場で多く見られるのは前者ですが、「選択性」という名称だと、どうしても自ら選んで行動しているかのような誤解を与えてしまうことから、「場面緘黙(場面緘黙症)」という呼び方のほうが定着しています。

また症状には個人差があり、全く話せない場合もあれば、話せるときがある場合や、話せる人が限定的にいるという場合もあります。

緘黙がある当事者から頻繁にうかがうエピソードの一つが「話をしようとすると、喉元がキューっと締め付けられるようになる」あるいは「頭が真っ白になる」という症状です。

入江紗代氏(2020)は、当事者としての自らの症状と心理状態について「幼い頃から生きづらい。とくに人との関わりにはいつも消耗し、疲弊してきた。人に対して、集団に対して、底知れない不安や恐怖を感じる。緊張すると頭が真っ白になって、固まってしまう。振る舞うことや話すことがうまくできなくなる。そんな自分の弱さを呪いながら、同時に、得体の知れないものに支配され続けているような感覚もあった」と述べています。

一時的に固まるのは、不安や恐怖に対する生き物の防衛的な本能です。強烈な不安感・恐怖感にしても、「固まる」という行動にしても、生きようとするために起きるものなのですが、そのことが「本来の自分を出せなくなる」という八方塞がりの苦しさをもたらし、自己否定に追い込まれていくケースも少なくありません。

通常学級における具体的な支援は、まず「安心・安全が確保され、その子の精神的な居場所がある教室にする」ということです。以下の点に気をつけましょう。

  • 答えや反応を無理やり求めることはしない
  • おとなしく、援助を求めてこないからといっても無視・放置してはいけない
  • 表情や動きから、その子の情報発信を丁寧に読み取る
  • 咳やくしゃみを気軽に出せないということもあるため、声を出す以前のこと(例えば、息を吐くなど)からできることを増やしていき、不安を少しずつ解消させていく

(2)言葉がうまく出ずに困っている「小児期発症流暢症」

小児期発症流暢症は、従来は「吃音(きつおん)症」や「どもり」と呼ばれ、しゃべる言葉に「連発」(ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは・・・)、「伸発」(ぼーーーくは)、「難発」(・・・・・・ぼくは)などが起きて滑らかに発話できない症状のことをいいます。

言語発達が盛んな2~4歳頃に発症することが多く、原因は今も特定されていません。

治療法も確立されていないところがありますが、からかいやいじめ、教師の無理解などがなければ、年齢を経るごとに次第に軽減されていくことがあります。

当事者が語るエピソードの中には、流暢に発音できないという症状にとどまらず、そのことがもたらす心理状態や対人関係に踏み込んだものが多く見られます。

たとえば、人前で話すことに恥ずかしさを感じたり、緊張や不安な気持ちになったり、言いたいことがスッと言えずにイライラしてしまうという心理状態に追い込まれます。

対人関係面では、周囲からのからかい(まねされる、ばかにされる)やいじめにあったり、あるいは好奇の目に晒されているように感じたりすることによって、話すこと自体を避け始め、本来の社交的な性格が次第に内向きになってしまったということも報告されています。

吃音は、精神的な弱さや焦りが原因ではないため、「もっとゆっくり」「落ち着いて」などの話し方のアドバイスは全く効果がなく、それどころかかえってプレッシャーになって症状を悪化させてしまうことがあります。

  • 授業などの際には、2人以上で声を合わせる場面や歌を歌う場面などでは吃音の症状が消失しやすくなることを理解しておくとよい
  • もっとも大切なのは、そのままの話し方でよいという周囲の受け止め

「吃音を隠す、目立たぬよう振る舞う、吃音から逃げる」などの気持ちに陥らないように留意しておきたいものです。


〈参考文献〉
入江紗代(2020)『かんもくの声』学苑社、p.10
菊池良和(2012)『エビデンスに基づいた吃音支援入門』学苑社、p.136
はやしみこ(2011)『なっちゃんの声-学校で話せない子どもたちの理解のために』学苑社、p.11

次回は、10月公開予定です。

Illustration: Jin Kitamura


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