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第4回 大人を振り回す子 ――お試し行動(Limit Testing)

子ども理解の 「そこ大事!」

2021年7月21日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

第4回 大人を振り回す子
――お試し行動(Limit Testing)

家庭や学校で、大人を振り回しがちな子どもの行動の一つに「お試し行動(Limit Testing)」があります。
お試し行動とは、「何をどこまですると大人が反応するか」を確かめるために、子どもがあえて挑発的な言動を取るような行為を指します。

その行為の背景には、「この人は本当に信頼できる大人なのか」という相手を見極める意図と、「自分は本当に嫌われてはいないか」という愛情確認の意図が込められています。

子どもにとってのお試し行動の意味

お試し行動は、

  1. 「もっと相手にしてほしい」と感じる場面
  2. 「気を引きたい」「注目されたい」と思う場面
  3. 環境の変化による不安を強く感じる場面

などによく見られます。
3の「環境の変化」を具体的に挙げると、弟・妹の誕生、親の離婚や再婚、祖父母との同居や別離、転居、転校、保育所や幼稚園への入所・入園、学校への入学、年度が変わるときの担任の変更などが考えられます。このうち弟や妹の誕生などは、1の「もっと相手にしてほしい」という気持ちも助長します。1~3が複雑に絡み合っている場合は、お試し行動もさらに深刻化することがあります。

通常、お試し行動は「暴言を浴びせる」「たたく・蹴る・かみつくなどの攻撃的な行動を示す」「座り込んで動かなかったり、急に走りだしたりして、相手を振り回す」「物をまき散らしたり、投げたりする」「唾を吐いたり、砂をかけたり、水をまき散らしたり、相手の足を踏んだりする」といったネガティブな行動を示します。こうすることで、手っ取り早く自己アピールができるからです。

しかし、狡猾なお試し行動の場合は、多彩な行動を巧みに使い分け、まるで「手のひら返し」のような様相を呈します。例えば、大人の腕に巻き付きながら、それが自分のお気に入りの人であることをアピールし、「お母さん(先生)だけは特別だから」といった特別感を伝える一方で、「私がこうなったら、お母さん(先生)困るでしょ」と大暴れすることを予告して脅したり、「〇〇を許してくれるなら、□□をやってあげてもいい」という言い方で主導権を取ろうとしたりします。

いずれにしても、自分のペースを崩されることへの混乱や、周囲の状況に折り合いをつけることへの不安が潜在していることがほとんどです。お試し行動を出す側の子どもも、それなりに苦しい事情を抱えているといえます。

大人側の要因

次に、大人側の事情です。

  1. 表情に動揺が出てしまう(顔が引きつる、視線が泳ぐ、声が裏返る、返答に詰まるなど)
  2. 自身の養育能力(教師などの場合は指導力)に不安があり、関わりに迷いがある
  3. 細かいことに神経質になりやすい
  4. 子どもに対して毅然とした態度を取ることができず、周囲からは「子どもにナメられている」と助言されることが多い

などの特性がある人が多いといえます。
子どもも、大人側のそうした特性を見抜いたうえでお試し行動を繰り出します。

自分の反応を試されている行動なのだとわかっていても、時間と気持ちとエネルギーが奪われていくように感じるので、焦りと徒労感が強くなります。結果的に根負けしてしまい、子どものペースにさらに巻き込まれていくというケースが大半です。

する側の子どもも、受ける側の大人も、お互いに苦しい「お試し行動」。
どちらか一方に非があるわけではなく、両者の「組み合わせ=マッチング」によって鎮静化したり、過激化したりするという特徴をもちます。
「お試し行動をすることで大人の気持ちを引き寄せられる」という成功体験を積んでしまった子どもと、振り回されることに疲れ果てた大人という組み合わせが最も深刻で、お互いに、出口が見えないトンネルのような状況に陥ります。そうなると、第三者による早期の介入が必要になります。

お試し行動への対応の留意点

ここで、お試し行動を出しやすい子どもと関わる際の留意点について整理しておきます。

(1)行動の背景を理解する

前述のとおり、お試し行動には、「この人は本当に信頼できる大人なのか」という相手を見極める意図と、「自分は本当に嫌われてはいないか」という愛情確認の意図が含まれています。

信頼できる大人の存在が確認でき、自分は嫌われているわけではないと納得できるまで、子ども自身も「そうせざるをえない」のです。「悪いことをして周囲を困らせる子ども」という見方をしていては、何も変わらないどころか、行動も関係性も悪化していくということに留意しておきましょう。

(2)感情的な対応をしない

「うるさい!」「いい加減にして!」と感情的に責めるような叱り方には全く効果がありません。無視したり、取り合わなかったり、「そんなことをする子は嫌い」「勝手にすれば」などと突き放す言葉を投げかけたりすることも、子どもの不安を増大させることがあります。
専門家の中には、「毅然とダメ出ししたほうがよい」といったアドバイスをされる方もいますが、慣れていない人がダメ出しをすることで、かえって状況が深刻化することもあります。

冷静に、長期的な視点で、「試すようなことをしなくても、あなたは周囲から愛されている」「不適切な行動で自分の存在を確認しなくても大丈夫」という、安心感のあるメッセージを伝え続けることが大切です。

(3)要求に応えすぎて、何でも受け入れてしまわないようにする

ハートフルな側面を強くもつ大人の場合は、知らず知らずのうちに子どもの要求に応えすぎてしまっていることがあります。
先回りしてあれこれとやってあげたり、「わかった、わかった」と言い分を聞き入れてしまったりする姿は、「この大人は、この程度のお試し行動で根を上げる」という間違ったメッセージを送っているのと同じことです。

(4)粘り強く、適切な行動を応援し続ける覚悟をもつ

適切な行動が増えれば「お試し行動」はしだいに減っていきます。粘り強く対応し、子どもが自信をもって行動できるようになるまで、適切な行動を応援し続ける覚悟が必要です。

ここでいう「適切な行動」とは、その場において求められるごく一般的なふるまいのことをいいます。話している相手の方を向く、一緒に歩く、自分の物は自分で持つ……など、期待のレベルをうんと低くし、一般的なふるまいを見過ごさずに「それでよし」と応援していく姿勢を保ち続けるようにしましょう。

(5)役割意識をもたせる

特定の大人との安定的な関係づくりは大切かもしれませんが、そのことだけに焦点化してしまうと、一進一退のような状況でなかなか前に進めません。むしろ、集団の中で自分がやるべき役割を担い、それを果たすために一生懸命に行動するうちに、周囲との関係が良好になる場合があります。その子の能力や興味・関心を生かした社会的役割を考えていくことが大切です。

「人の役に立っている」「その集団に貢献している」という体験は、対人関係スキルを向上させ、心の安定にもつながります。「自分にもできることがある」という肯定的な自己像を育てることを大切にしましょう。

今日の「そこ大事!」

  • 「お試し行動」とは、「何をどこまですると大人が反応するか」を確かめるために、あえて挑発的な言動を取るような行為を指す。
  • お試し行動には、「この人は本当に信頼できる大人なのか」という相手を見極める意図と、「自分は本当に嫌われてはいないか」という愛情確認の意図が含まれている。
  • 冷静に、長期的な視点で、「試すようなことをしなくても、あなたは周囲から愛されている」「不適切な行動で自分の存在を確認しなくても大丈夫」という、安心感のあるメッセージを伝え続けることが大切。

〈参考文献〉

岡田尊司(2011)『愛着障害 ―子ども時代を引きずる人々』光文社、pp.294-298

本田真大「不適切な養育」、渡辺弥生 監修、藤枝静暁・藤原健志 編著(2021)『対人援助職のための発達心理学』北樹出版、pp.38-39

川上康則(2016)『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践 ケーススタディからのアプローチ』学研プラス、pp.18-24

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。

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