りすねえさんのおはなし
2023年6月26日 更新
光村図書 出版課
くるみの森で暮らすりすねえさんとなかまたちの物語「りすねえさんのおはなし」シリーズの情報をお届けします。
『りすねえさんのさがしもの』刊行記念対談 大久保雨咲×かじりみな子
児童文学総合誌「飛ぶ教室」で連載していた幼年童話「りすねえさんのおはなし」が単行本になりました。文を書いた大久保さん、絵を描いたかじりさんが、お互いに気になっていた創作のことを語ります。
りすねえさんのはじまり
かじり:世の中にたくさんの作品がある中で、オリジナルの作品を生み出すことって、とても難しいですよね。実際に、あまりの膨大な力作たちに、圧倒されてしまっている自分がいます。大久保さんは、お話を考える時、何をきっかけに作り始めますか?
大久保:普段は、例えば、道を歩いているときに、ふと気になったものをメモに残しておいて、そこから膨らまして書くようなことが多いですね。でも、「りすねえさんのおはなし」に関しては、「りすねえさん」っていう名前のりすのお話を書きたいというのが、まずあったんです。なんだかわからないですけど(笑)。ちょうどそんな時に、「飛ぶ教室」さんから、読み切りの創作依頼をいただいて。以前に、アーノルド・ローベルが好きとエッセイに書いたことを覚えてくださっていて、「ローベルみたいなお話を書いてもらえませんか」と。大変なご依頼だ……と思ったのですが、そうして、「りすねえさんのおはなし」の最初のお話ともなる「りすねえさんのさがしもの」が生まれました。
ご依頼した時の特集は「『好き』の気持ち」でしたね。
大久保:はい、その「好き」は、ラブでもライクでも、お気に入りでもいいっていうことで、思い浮かんだのが、「My Favorite Things」。その頃、ジョン・コルトレーンのバージョンをよく聞いていたんです。そこから、「サウンド・オブ・ミュージック」の、雷を怖がる子どもたちのことを思い出して。子どもたちが自分のお気に入りのものをどんどん言うことで、怖い気持ちを和らげて楽しい気持ちに変えていくみたいなシーンです。で、自分の好きなものやお気に入りのものがたくさん出てくるお話が書けたら楽しいかなと思って書いたのが、「りすねえさんのさがしもの」です。
かじり:そうだったんですね。今後また「お気に入り」をテーマにしたお話を書くご予定はありますか?
大久保:いえ、「お気に入り」はもう、「りすねえさんのさがしもの」で書いたので。連載を経て単行本となり、かじりさんに描いていただいた絵もありますし、自分の中でもキャラクターがしっかりあるので、そこからいろいろに伸ばして、りすねえさんの世界が広がっていくようなものが書けたらいいなって思います。
着こむ動物たち
かじり:私が描いたキャラクターたちの服のイメージって、大久保さんの考えていたものと合ってました?
大久保:はい。すごくかわいくて、異国の感じがあって。もともとかじりさんって、服やアイテムにこだわりがあるんじゃないかなって感じていました。かじりさんの絵本「ラビッタちゃん」シリーズ(偕成社)も、衣装や模様が独特ですよね。どこかにあるかもしれない国の文化を感じます。描く時に、何か具体的なイメージや、憧れの国があったりするのかなと。
かじり:動物が擬人化されて登場する場合、住んでいる地域とか、どういうものが好みなんだとかは、服が表現できるポイントだと思うんです。例えば、りすねえさんが和服を着ていたら、住んでいる地域、変わりますもんね。
大久保:話し方も変わりそうです。
かじり:絵本や物語の場合は、生物の生態を詳しく書く本とは違うので、動物が服を着るのは重要な要素だなと思います。……って、今、大久保さんと話をしながら思いました(笑)。
大久保:その服を、しっかりと着てるというのも、面白いですよね。例えば、エナガさん。オーバーオールを着ている。
かじり:言われてみればそうですね。着過ぎなぐらい着てますね。あんまり意識したことなかったですけど。
大久保:本当ですか!? エナガさんのクローゼットには、たくさんの服があるに違いないと想像もしました。だって、オーバーオールの下にも、ベストを着てますから(笑)。
かじり:本当ですね(笑)。着るからにはしっかり着せたいと思ってるのかもしれないです。あと、森の中にいるから、ちょっと肌寒さみたいなのを和らげるのにベストを着ないとなって。
大久保:この様子だと、雪の日はさらに着込みますね。
かじり:「りすねえさんとおばあちゃんのケープコート」(『りすねえさんのおはなし りすねえさんのさがしもの』所収)では、りすねえさんがおばあちゃんのケープコートを着てみますからね。だったら、服は状況に合わせてリアルにしておかないとっていうのは、無意識のうちにあったかもしれないです。
大久保:服を着てことばを話す動物たちを描く時、ファンタジーとリアリティーのバランスはどういうふうに決めていますか? かじりさんの描くりすねえさんを最初に拝見した時に、すごくかわいいのに、手がものすごくリアルで、それがとてもうれしかったんです。ことばを話して服も着る動物って、ファンタジーなんだけども、リアルな部分があることで、本当のことだと思える気がします。
かじり:目と手はなるべくリアルめに描こうかなっていうのがあります。目と手が漫画っぽいと、リアリティーがなくなる気がして。「もしかしたら、森の奥で本当にしゃべってる動物たちがいるかもしれない」って、子どもたちに思ってほしいので、多少のリアリティーは残したいんです。それとは別のところで、親しみをもたせるために、漫画的要素をちょっと入れる。そんなふうにバランスを取っています。
声に出して三回は読む
大久保:描くスピードがものすごく速いとうかがっています。構図や描く植物など、すぐにイメージが浮かぶのですか?
かじり:私、子どもの頃からなんでも遅くて。でも、アイスを食べるのと、絵を描くのだけは速いんです(笑)。まず原稿をいただいたら、声に出して3回は読みます。3回目になると、登場人物たちが演技してるような感じで自分の中に入り込んできて、自分でも演じているように読めるようになる。そうすると、絵の世界が広がってくるので、思い浮かんでるうちにそのシーンを描く。ラフはそんなふうに描きます。
大久保:一つ一つ、大きな絵が浮かぶ感じなんですか。それとも、いくつか浮かんだものを全部描いて、最終的に選ぶとか?
かじり:世界観が浮かんでるような感じでしょうか。りすねえさんを取り巻く登場人物たちとか、森の風景とか全部、こういうとこに住んで、こうやって暮らしてるんだろうなっていうのが、一気に浮かんできます。そこにカメラを持って入り込んでいって、切り取る。それを、ぱっぱっぱって描いていく感じです。
本書p35の絵の、ラフが完成するまで。椅子の向きや、りすおの表情、マトリョーシカの顔など、変化にご注目!
不確かな中にあるリアル
かじり:りすねえさんのキャラクターに、モデルはいますか?
大久保:モデルは特にいません。書き始めてみて、徐々に自分の中でイメージしていって、膨らましていくような感じですね。
かじり:書く時はパソコンで?
大久保:初めは手書きです。ノートに、例えば、「りすねえさん」っていう文字だけ書いてみたり、ちょっとしたイラストを描いてみたり。調べるのも好きなので、りすの大きさとか生態を調べたりもします。物語を書くのって、すごく手探りというか、不確かな中を進んでいくので、こういう「確か」とされているものを読むと、安心するんですよね。それに、調べるうちに、しぐさや性質を発見して、そこからエピソードが生まれることもあります。
かじり:確かなものが安心、なるほど。
大久保:かじりさんが、目と手はリアルに描きたいっていうの、ちょっとリンクするかもしれないですね。
かじり:りすねえさんを見てると、大久保さんってこういう感じの、ちょっとあねご肌なのかなって……。
大久保:りすねえさんっぽいとは言われたことありますが、あねご肌は言われたことないですよ(笑)。
かじり:じゃあ、ご自分がモデルっていうわけではないんですね?
大久保:そうですね、全然。
かじり:憧れみたいなものは入っていますか。りすねえさんの性格とか人間関係みたいなところに。
大久保:りすねえさんみたいだといいなとは、確かに思いますね。周りにいろんな仲間がいて、自分の住んでるところが大好きでって。
小さくて、透明で、丸いもの
かじり:これだけは ゆずれない!といったような、こだわり、あるいはマニアックなものはありますか?
大久保:小さい頃からなぜか、小さいもの、透明なもの、丸いものがものすごく好きです。
かじり:私も小さいもの好きだから、なんかうれしい。
「りすねえさんのおはなし」にも、それらを感じさせるものが多く登場しますね。
大久保:そうですね。かじりさんが描かれた、りすねえさんのお部屋を見て、小物がたくさんあるのがすごくうれしくて。隅々まで見るの、楽しいです。細部もこだわって描かれてますよね。ポットの先がドングリみたいな形をしてたりして。見逃せないです。
かじり:好きだから、隅っこ、端っこまで描きたくたくなるんですよね。りすねえさんって、森に落ちてる木の実とか自然物だけじゃない、わりと人工的なものも使っているっぽいから、実はそのあたりのバランス、ちょっと難しいなって思いながら描きました。違和感、なかったですか?
大久保:全然。すごく楽しみながら見ました。
かじり:よかった。ありがとうございます。
影響を受けた大好きな本
大久保:かじりさんの子どものころに好きだった本、影響を受けた本があれば教えてください。
かじり:大久保さんと同じく、アーノルド・ローベルさんは、私もめちゃくちゃ好きで、特に『ふたりはともだち』(三木卓 訳/文化出版局)、『いろいろへんないろのはじまり』(まきたまつこ 訳/冨山房)、大好きです。 それから、『ノーム』(ヴィル・ヒュイゲン 文/リーン・ポールトフリート/ 遠藤周作、山崎陽子、寺地伍一 訳/サンリオ)。これがものすごい。全部想像でしょうけど、むちゃくちゃリアルに描かれているんです。けがした時どんな対処をするとか、トイレはどんなのを使ってるとか。このリアリティーが忘れられない。大人になったらこういうのが描けるようになるんだろうなって思ってたんですけど……、努力してもうまくないと描けないってことが分かり、これを描いた人は本当にうまいなと思いましたね。
大久保:その本はいつ出会ったんですか。
かじり:奥付に母が書いてくれているんですけど……、昭和58年、祖母が私の小学校の入学祝いに買ってくれたみたいです。
大久保:すてき。『ノーム』をプレゼントしてくれるっていうのが、とてもすてきですね。入学祝いっていうのが、また!
かじり:多分、この本を欲しいって言ったんだと思うんですよね。 このほかにも、動物が服を着てるっていうのでは、やっぱり、いわむらかずおさんとかジル・バークレムさん。ジルさんは、ぴっちりしたオーバーオールの下にTシャツ着てるキャラクターを描いているんで、やっぱり動物の服に関しては、私はそういうもんだって刷り込まれたのかもしれないです(笑)。 あと、『ねずみくんのチョッキ』(なかえよしを 作/上野紀子 絵/ポプラ社)、『だるまちゃんとてんぐちゃん』(加古里子 作・絵/福音館書店)も好き。 旅好きってことでの影響は、『ババールのしんこんりょこう』(ジャン・ド・ブリュノフ 作/やがわすみこ 訳/評論社)。そういえば、ババールも、服、めちゃくちゃ着てるんですよね。安野光雅さんの『旅の絵本』も、旅っていいなと思わせてくれた本。この絵本で風船を追うのがめちゃくちゃ好きです。 それから、『さむがりやのサンタ』(レイモンド・ブリッグズ 作・絵/すがはらひろくに 訳/福音館書店)も好き!
大久保:いずれも小学生ぐらいの時に出会われた?
かじり:そうですね。小学校3年生ぐらいまでには、多分、全部出会ってたと思います。
大久保:読んでもらったり、図書館で読んだりとかですか?
かじり:読んでもらったっていう記憶はあんまりなくて、こっそり自分で。図書館というものではないですが、公民館の隅っこにあった本棚がよくて。当時、公民館で習い事をしていた母を待っている時に、読んでいたんです。洋物の絵本が結構そろっていて、自分だけの本みたいな感じがしていました。でも、しばらくすると、近くに立派な図書館ができて、その小さい本棚もそこに統合されちゃいました。そうすると、なんだか読む気がなくなって……。
大久保:自分の世界だったもの、特別感が、なくなっちゃったんですね。
かじり:そう、みんなのものになっちゃったから、「もう、いいや!」って。
大久保さんも、影響を受けた本はありますか?
大久保:やっぱりアーノルド・ローベルが大好きですね。 と言っても、私、小さい頃はそんなに本を読んでなかったんです。でもある日、訪問販売の人が、世界の昔話と日本の昔話のセットを持ってやってきて。子どもの教育にいいとか言って、母がまんまと買ったんですが、それをすごく読んでいました。だから、もしかしたらその本が自分のベースにあるかもしれません。今、読み返してみると、本当にいいシリーズなので、母に感謝ですね。 アーノルド・ローベルでは、『ふくろうくん』(三木卓 訳/文化出版局)がすごく好きで。ローベルとの最初の出会いは国語の教科書。「お手紙」(三木卓 訳)で大好きになったんです。その後に、それこそ、かじりさんがおっしゃってたような、公民館の小さい本のスペースみたいな所に、なぜかアーノルド・ローベルのシリーズが何冊かあって。その中に『ふくろうくん』がありました。読んだ時、本当に衝撃的で。当時の作文に、どれだけ面白かったかっていうのを書いたぐらいです。 『ふくろうくん』をなんでこんなに好きなんだろうって考えてみたことがあるんです。主人公のふくろうくんって、お話の中でずっと一人なんですよね。例えば、「がまくんとかえるくん」のシリーズでは、二人の会話を読んでいくのがとても楽しい。でも、ふくろうくんは、いつも一人。一人で考えている。 『ふくろうくん』を開いた扉ページに、雪に囲まれた家のドアのところでふくろうくんが、こっち(読者側)を見てるんです、じっと。この扉ページを見るたびに、お話の中に呼んでもらってるような気がして、読んでる私が友達になれるんですよね。何回、この扉をくぐり抜けてふくろうくんに会いに行っただろうっていうぐらい、今でもすごい大好きで、こんなお話がいつか書けたらいいだろうなっていう憧れとともに、いつもそばにある本です。
かじり:ひとりぼっちの良さですね。
大久保:そうなんですよ。でも、寂しそうじゃなくて、満たされているというか、楽しんでいて、泣いたり怒ったりで、それを読者も一緒に体験できる、自分が友達になれるなって思います。
かじり:そういう視点で、読んだことはなかったなあ。もう一回読んでみます。
大久保雨咲(おおくぼ・うさぎ)
三重県生まれ。児童文学作家。子どもの本専門店メリーゴーランド主催の童話塾で創作を学ぶ。「飛ぶ教室」第9回作品募集童話部門にて「猫の背」で優秀作(光村図書出版主催)。主な作品に『ずっとまっていると』(そうえん社)、『ドアのノブさん』『うっかりの玉』(講談社)、『あらいぐまのせんたくもの』(童心社)、『雨の日は、いっしょに』(佼成出版社)、『からっぽになったキャンディのはこのおはなし』『かえでちゃんとひみつのノート』(小峰書店)、絵本に『アリィはおとどけやさん』(吉田尚令 絵/ひさかたチャイルド)などがある。
かじりみな子(かじり・みなこ)
姫路市生まれ。絵本作家。武蔵野美術大学油絵学科卒業。卒業後、「あとさき塾」にて絵本作りを学ぶ。絵本に「ラビッタちゃん」シリーズ(『ゆきがふるまえに』『わかくさのおかで』『しおかぜにのって』『こおりのむこうに』)『ふたつでひとつ』『どうぶつみずそうどう』(偕成社)、挿絵に『ドリーム・アドベンチャー――ピラミッドの迷宮へ』(偕成社)、『ライオンつかいのフレディ』(文研出版)などがある。