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通常学級での特別支援教育 第31回

通常学級での特別支援教育

2018年11月19日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第31回 子どもの心に届く叱り方(1)

今日のポイント

  • 「褒めて認めて、子どもを伸ばす」ことは大切だが、その論調に偏りすぎると、「肝心なときに子どもの行動を止められない」教師・支援者が登場することもある。抑止力のない教師・支援者のもとでは子どもたちも混乱し、集団としての秩序の維持が難しくなる。
  • 「叱る」行為は非常に大きな力をもっている。そのため、それだけに頼ると感覚が麻痺し、「叱ることや強い指導を行うことが、教師が子どもをコントロールする唯一の方法」であるかのように誤解してしまうことがある。
  • 子どもの心に届く叱り方を実現するためには、「覚悟」「基準」「技術」の三つの視点で考えることが必要である。

「褒める」重視の傾向が、「叱れない」を生み出した?

第29回・第30回と、2回にわたって「褒める」ことを取り上げてきましたので、続けて「叱る」ことも掘り下げて考えてみたいと思います。

近年、教育・保育に関する雑誌では、たびたび「叱り方」についての特集が組まれています。これは、「褒めて認めて、子どもを伸ばそう」という論調の広がりに対する警鐘という意味もあるようです。
たしかに、「褒める」ことの大切さが広がるにつれ、教育現場では、子どもをどなりつけたり、理不尽にけなしたりといった場面は、以前(少なくとも筆者が子どもだった30年以上前)と比較して格段に少なくなりました。しかしその一方で、優しさばかりが先行してしまい、「肝心なときに子どもを止められない・はっきりと叱れない」教師・支援者が少なからずいるように思います。話を聞いてみると、「褒めて育てることが大切だと聞いたから」とか「叱ってはいけないと習ったから」という言葉が返ってくることがあります。なかには、「叱ると、子どもたちに嫌われてしまいそうで怖いので」と話す教師もいました。

画像、子どもの心に届くように叱る

叱ることをいつまでもためらっていると、「好ましくない行動も、この先生なら見過ごしてもらえる」あるいは「この先生のもとでは許される」と誤解する子どもも出てきます。多賀一郎先生(追手門学院小学校講師)は、優しさと厳しさは両輪であり、優しい口調だけの先生は、何かのトラブルに対しての抑止力をもてないといいます。「叱れない」というのは、子どもたちの混乱を招くだけでなく、集団としての秩序の維持を難しくしてしまう危険性が高いのです。

叱るには「覚悟」「基準」「技術」が必要

そうはいっても、「叱る」ということはとても大きな力をもっています。叱る行為を「劇薬」や「諸刃の剣」と表現する人もいます。残念ながら教師の中には、これを使い過ぎて感覚が麻痺してしまい、「こうすることが、唯一、子どもたちをコントロールできる方法なのだ」と勘違いしてしまっている人もいます。そこで、あらためて、子どもの心に届く叱り方の三つの条件を考えてみます。

叱るには、第一に「覚悟」が必要です。

例えば、飯村友和先生(千葉県内公立小学校教諭)は「率先垂範してやっている教師の言葉だから響く」といいます。子どもたちにしてもらいたいことは自分もしている。そういう先生が叱るからこそ効果的なのであり、言っていることとしていることが違うのであれば、当然反発を生みます。
また、山中伸之先生(栃木県内公立小学校教諭)も「いざ叱ったりほめたりしたときに、どうして叱られたのか、どうしてほめられたのかという根本・本質・原点を伝える」といいます。叱るという手段にばかり目を向けるのではなく、子どもを育てるという本質が根底にあるかどうかがポイントだといえます。

第二に、叱るには、明確でブレない「基準」が必要です。

例えば、南惠介先生(岡山県内公立小学校教諭)は、叱ることを「ラインを引くこと」と定義づけたうえで、「卑怯かどうか」(誰かに損をさせ、自分が得をする状況になっていないか)に絞り、さらにそれを子どもに予告しておくことで、納得させるといいます。
また、宇野弘恵先生(北海道内公立小学校教諭)は、「(1)ふさわしくない言動に対して、(2)是が非でも分からせる必要があるとき」に叱るといいます。

実践家として名を馳せた先生には、叱る基準をかなり絞り込み(多くても三つ程度)、しかも子どもに明確に示すという方がとても多いようです。

加えて第三に、叱るには相当な「技術」が必要です。

口調や声のトーン、スピード、表情など、叱るときの技術や「全体の前で叱らない」などの配慮も大切なのですが、実はもっとも重要なのが、叱った後の「フォロー」の技術です。
「悪い人間だからそうした、とは思っていない」「あなたが変わるきっかけになる」と期待を伝えることが、フォローの代表的な例として知られています。
また、叱りっぱなしで終えるのではなく、適切な行動モデルを示して子どもに実際にロールプレイさせたり、その後の姿や変化を認めたりすることも大切です。こうした他の教育行為とつなげることもフォローに含まれます。

子どもの“心に届く”叱り方を実現するためには、「覚悟」をもつこと、「基準」を示すこと、「技術」を磨き続けること、という三つの条件が不可欠です。換言すれば、これら三つの条件を満たす教師が叱るからこそ、初めて子どもたちは“心を開く”ようになるといえるのではないでしょうか。


〈参考文献〉

  • 飯村友和(2015)「高学年女子の指導 こうすれば失敗する!」(赤坂真二編著『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』明治図書出版、pp.46-57)
  • 南惠介(2017)『子どもの心をつかむ!指導技術 「ほめる」ポイント 「叱る」ルール あるがままを「認める」心得』明治図書出版、pp.90-97
  • 南惠介(2018)「叱る前提を考える ~『予告』『納得』『関係性』と『自己選択』が生命線~」(「小六教育技術2018年10月号」小学館、pp.18-19)
  • 多賀一郎(2014)『学級担任のための「伝わる」話し方』明治図書出版、pp.72-73
  • 宇野弘恵(2018)「思春期特有の心理に鑑みて叱り、丁寧にフォローする」(「小六教育技術2018年10月号」小学館、pp.22-23)
  • 山中伸之(2012)『できる教師の叱り方・ほめ方の極意』学陽書房、pp.56-57、72-73
  • 山中伸之(2015)『この一手が学級崩壊を防ぐ! 今日からできる学級引き締め&立て直し術』明治図書出版、pp.10-27

次回も引き続き、子どもの心に届く叱り方について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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