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学力を伸ばす学級経営Q&A 第3回

学力を伸ばす学級経営Q&A

2018年8月23日 更新

神山 安弘 専修大学客員教授

「主体的・対話的で深い学び」の視点から学級経営を考えるヒントを紹介します。

神山安弘(かみやま・やすひろ)

1951年横浜市生まれ。専修大学客員教授。元東京都江東区立明治小学校統括校長。文部科学省「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議委員」などを歴任。

第3回 9月の学級づくりのポイント

子どもにとって学級はどのような場所でしょうか? それは、そこに行くことが楽しく、待ちどおしいと思う場所です。なんでも話し合える友だちがいる、自分のことを理解してくれる先生がいる、分からないことが分かるようになり、できないことができるようになる、それが子どもにとっての「学級」です。

学級は、教師が子どもの個性や可能性を見つけ「育てる」場所であり、子どもが自分の力を発揮しながら「育つ」場所です。優れた学級経営は、子どもの心や学力を育てます。そして、学級づくりが進むと「子どもの力」は伸びます。

このコーナーでは、若い先生方から寄せられた質問をもとに、私の長年の経験を通して見えてきた「子どもの学力を伸ばす」学級経営の在り方についてお答えします。

Q.子どもの上手な「ほめ方」「叱り方」ができません。
  子どもを伸ばす効果的な「ほめ方」「叱り方」とは、どのようなものでしょうか。

◆ 授業で見られる「あれ!」

私は1年間に約60人の先生方の授業を参観する機会があります。その授業の中で思わず「あれ!」と思うことがあります。それは、子どもを「ほめる」場面や「叱る」場面で、教師が「スルー」して授業が展開してしまうときです。

教師が子どものその発言や行動をほめてあげれば自信をもち、「やる気」や「意欲」がわき、周囲の子どもにも「モデル」を示すことができます。逆に、子どもの発言や行動を叱らないで「スルー」してしまうことで、本人や学級全体に「学習ルール」や「学習規律」を守らなくてもいいという甘えや授業を構成している適度な緊張感が崩れてしまうことがあります。

教師は授業のほか、学校生活の様々な場面で「ほめること」「叱ること」を行っています。「ほめること」「叱ること」には、子どものやる気や意欲を高めたり、反省や自己理解を促したりする大きな教育的役割があります。

◆ 「ほめる」「叱る」は教師と子どものコミュニケーション

「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。親鳥は卵を抱いて温めます。雛は成熟の時を迎え卵の中から殻をつついて親鳥に信号を送り、その信号を受け親鳥は外から殻をつついて割ってやります。このタイミングが雛の誕生には大事だというものです。

教育でも子どもが成長するための「契機」があります。教師はこの「契機」を見逃さないことです。学校生活のなかで教師が大切にしたい「契機」の一つが「ほめること」「叱ること」です。子どもへの指導はタイミングをとらえることが大切です。子どもが大きく「変化」するチャンスだからです。

しかし、実際に教師が子どもを「ほめる」「叱る」ことは大変に難しいことです。実際には、子どもの瞬間の出来事を「スルー」や「妥協」したり、適切な表現や伝え方で指導できなかったりする場面が多く見られます。これは、教師の判断力や指導力など「教師力」が問われる課題です。

教師が効果的な「ほめ方」「叱り方」をするには、次の三つを意識することが大切です。

1.教師が子どもを「ほめる」「叱る」前に確認したいこと

  • 安心して「ほめること」「叱ること」ができる学級づくりはできていますか? 教師と子どもが互いに認め、尊重し合う信頼関係が築かれている学級が土台となります。
  • 子どもの「変容」を信じる、「ほめ方」「叱り方」の表現や伝え方はできていますか? 子どもの個性を的確に理解し、一人一人に合った方法で効果的に伝えることが大切です。

2.子どもの「ほめ方」のポイント

  • 子どもを見る観点は「取り組んだ意欲」「努力した過程」「その子の成長」です。
  • 「YOUメッセージ(あなたは)」ではなく「I メッセージ(わたしは)」で伝えます。
  • 子どもをほめるときのコツは、心から「その場で」「素直に」「適切に」です。

3.子どもの「叱り方」のポイント

  • 子どもの状況や成長のステップを考え、「時期」「時間」「場所」を選びます。
  • 感情や気分で怒るのではなく、「なぜ悪いか」「どこが悪いか」を明らかにします。
  • 子どもが変化することを信じ、「叱る」と「変容を見届ける」をセットで考えます。

子どもにとって、「ほめられる」「叱られる」場面は、自分のことをしっかり見ていてくれる人がいることを確認できる瞬間です。効果的な「ほめ方」は子どもの自信ややる気を引き出し、積極的に課題に取り組む意欲を高めます。また、適切な「叱り方」は反省や自己理解を促し同じ過ちを繰り返さないように、再び問題に立ち向かう意欲を高めることにつながります。
教師として子どもの成長を心から願い、適切に「ほめること」「叱ること」を行っていきましょう。

次回は、12月の学級づくりについて取り上げます。

Illustration: みずうちさとみ

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