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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第18回 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子

2017.10.19

今日のポイント

  • 「悔しい」「情けない」「もどかしい」などのネガティブ(悲観的・否定的)な感情を意識することは,自分の内面を自覚するために必要であり,そう感じる場面は学年が上がるごとに増えていくものである。
  • ネガティブな感情の“命名”ができないままだと,「ムカつく」や「ウザい」などの言葉で他者のせいにしてしまうことが多くなる。「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子は,実はネガティブな感情の整理を求めている子だといえる。
  • 感情の整理を支援するポイントは,その子の感情語彙を増やすことと実際の生活の中でそれを使いこなせるようにすることである。

前回(第17回)は,「人を頼るスキルが乏しい子」を取り上げました。今回はその続編です。

第17回 人を頼るスキルが乏しい子

ネガティブな感情を整理するということ

うまくできない場面や難しい場面などに直面したとき,人は,何らかのネガティブな感情に陥ります。例えば……

  • 「できなくて悔しい」
  • 「できている人が羨ましい」
  • 「うまくいかない自分が情けない」
  • 「本当はできるようになりたいのに,失敗が続くのがもどかしい」
  • 「どうにもならず,じれったい」
  • 「自分のことが腹立たしい」
  • 「他者と比べてしまう自分がいまいましい」

などです。

これらの悲観的・否定的な感情を意識することは決して悪いことではなく,生きていくうえではむしろ大切なことだと考えられています。なぜならそれは,自分の内面に目を向けていることの証だからです。

画像,悲観的・否定的な感情を意識する

家庭裁判所の元調査官というご経歴がある藤川洋子先生(京都ノートルダム女子大学客員教授)は,少年犯罪や非行のケースへの対応をもとに,悲観的・否定的な気持ちを「ネガティブな感情」として整理していくことがいかに重要であるかを示唆しています。藤川先生のご著書『なぜ特別支援教育か ―非行を通して見えるもの』(日本標準)には,こんな一節があります。

年齢があがればあがるほど,毎日の生活の中に,「うれしい」「楽しい」だけではなく,ネガティブな感情がわき起こることが増えるはずですが,こうしたネガティブな感情が命名されていないと,子どもたちは自分の感情を伝えることができません。結局,「うざい」のオンパレードになったり,言葉にならずにキレてしまう,つまり行動化してしまうことになると思うのです。(p.30)

これらの背景を踏まえると,より豊かに生きていくためには自己の中にある悲観的・否定的な感情を一つ一つ“命名”し,受け止めていくことが極めて重要であり,それができていない場合に「(あいつ)ムカつく」や「(あいつ)ウザい」など他者に向かう気持ちや行動が生まれやすいということがいえるのではないでしょうか。

「ムカつく」や「ウザい」は,失敗や困難の原因を自分以外の他者に向ける言葉です。もっとわかりやすくいえば,「人のせい」にする言葉です。うまくいかないことを誰かのせいにしているままでは,前回取り上げた「援助要求スキル」も発揮できません。

人を頼るスキルが乏しい子は,実は「ネガティブな感情の命名がうまくできていない子」だと言い換えることもできます。「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子どもたちを見るたびに,ネガティブな感情の整理という支援を求めているように感じられてなりません。

ネガティブな感情の整理を支援する

ネガティブな感情の整理を支援するポイントは二つです。まず「感情を表す語彙を豊かにすること」,そして「身につけた語彙を実際に使いこなすこと」です。

(1)感情を表す語彙を豊かにする指導

光村図書の現行版小学校『国語』教科書の2年以上(2~4年は上巻)の付録には,「言葉の宝箱」という見開きのページが設けられています。「こまる」や「くやしい」は,2年生ですでに取り上げられています。

他の学年でも「じれったい」(4年),「あわれ」「うんざり」「いら立つ」「いまいましい」(5年),「もどかしい」「たまらない」「なやましい」(6年)など,発達段階に応じた言葉が載せられています。学年が上がるにつれて,ネガティブな感情を細かく表現する言い方も増えていきます。

「ムカつく」や「ウザい」といった言葉がその子の口から出てきたら,「“あいつ,ムカつく”よりも,“僕,じれったい”のほうが共感できるよ」と伝えてみてください。学年に相当する言葉を使ってあげると,その子の感情を表す語彙がより豊かになっていくと思います。

(2)実際に使いこなすことを支える指導

日記指導をされている場合は,その日の“感情テーマ”を決めて書かせてみてはどうでしょうか。例えば,「今日のお題は“情けない”にします」などと「言葉の宝箱」の中から言葉を一つ取り上げてテーマとし,それに沿ったエピソードを書かせるのです。それにより,子どもたちは自己の内面に向き合うことができます。

日記指導は時間がなくて難しいという場合は,連絡帳を活用してみましょう。黒板に記した翌日の時間割,持ち物,宿題を書き写させた後に,

「今日,私がもどかしかったことは(      )。明日はきっと(      )。」

と書き加えさせるようにすると,連絡帳を書く時間内にも作文指導や感情の整理を支える指導ができます。

感情語彙が増えると,より豊かに生きるための引き出しが増える

私たちは,何かを他者に伝えようとするときには自分が知っている言葉を駆使します。知っている言葉が少ない段階では,伝わりきらずにもどかしい思いだけが残る(時に,伝えることすら諦めてしまう)ものですが,語彙が増えれば,言葉の選択肢が増え,より的確に物事を表す言葉を探そうとします。

感情を表す語彙が増えることは,自分の今の気持ちの状態をより的確に表現することにつながります。それはまた,自己の内面を自覚すること,より豊かに生きるための引き出しが増えることにも結び付いていきます。「ムカつく」や「ウザい」と言わせないようにするには,ただ禁止するのではなく,別な言葉で気持ちを言い表せるように育てていくという視点が必要です。


〈参考文献〉

  • 藤川洋子(2007)『なぜ特別支援教育か ―非行を通して見えるもの』日本標準
  • 髙木まさき・森山卓郎監修,青山由紀・岸田薫編(2013)『光村の国語 語彙を広げる! 書いて,話して,伝わることば(全3巻)』光村教育図書
  • 平成27年度版 光村図書 小学校『国語』教科書

次回は,子どもの負の面にばかり目が向いてしまう教師の状況について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura

目次

【第1回】 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう <2016.05.09>

【第2回】 「お試し行動」に振り回されないために <2016.06.08>

【第3回】 子どものつまずきを読み解く“知識”と“洞察力”を <2016.07.06>

【第4回】 教師としての軸・枠・型・幅をもつ <2016.08.09>

【第5回】 話を聞けない,指示が入らない子 <2016.09.12>

【第6回】 支援の空回りを防ぐ <2016.10.11>

【第7回】 切り替えが難しい子 <2016.11.09>

【第8回】 「気になる子」を気にしすぎる子 <2016.12.07>

【第9回】 「なんでオレだけ?!」に対する指導 <2017.01.11>

【第10回】 保護者の理解を得るために <2017.02.08>

【第11回】 落ち着きがない子 <2017.03.09>

【第12回】 「専門家」の言うことは絶対ではない <2017.04.06>

【第13回】 授業の規律や学級の秩序を乱す子 <2017.05.16>

【第14回】 「作戦ゴリラ」 <2017.06.08>

【第15回】 「きょうだい児」の理解 <2017.07.05>

【第16回】 ルールを守ることにこだわりを示す子 <2017.08.23>

【第17回】 人を頼るスキルが乏しい子 <2017.09.14>

【第18回】 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子 <2017.10.19>

【第19回】 子どもの「負の部分」に目が向いてしまうときに <2017.11.14>

【第20回】 二次的障害に陥らせないための三つのポイント <2017.12.15>

【第21回】 学級目標を飾りものにしない <2018.01.22>

【第22回】 忘れ物が多い子・提出物をなかなか出せない子 <2018.02.13>

【第23回】 「してほしいこと」を伝える <2018.03.15>

【第24回】 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」 <2018.04.17>

【第25回】 「些細なこと」かどうかは,本人が決める <2018.05.15>

【第26回】 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」 <2018.06.15>

【第27回】 問いをもち続け,当たり前を見直す <2018.07.17>

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